《【書籍化】探索魔法は最強です~追放されたおっさん冒険者は探査と知の魔法でり上がる~》22.その座には、常に一人の男が座り続けていた
「団長のお帰りです!」
「お疲れ様です! ドディウス団長!!」
數名の屈強な男に挨拶をされながら、スキンヘッドに眼帯をした男は羽織っていたマントをその中の一人に預け、自分の執務室へとっていった。
街の中心部からし離れた大通りに並ぶ立派な建の中に、アライアンス「レッド・ドラグーン」の本部はある。
冒険者総數約四十人の大規模組織であり、古豪でもありながら現在び盛りのアライアンスでもあった。
その組織を率いる男こそ、現役の防衛士にして生きた伝説ドディウスその人だ。
十年に一人の逸材と言われ、攻略したダンジョンや発見した寶は數知れず。
全盛期には防衛士のAランクまで昇りつめ、十年以上もの間その座を維持した。
否。
ドディウスはAランクまで昇りつめたのではない。
Sランクになれなかったのだ。
同時期同じ職系統に一人しかいないSランク……。
ドディウスが最盛期であった頃のその座には、常に一人の男が座り続けていた。
「剛盾(ごうじゅん)のゲンディアス」
Sランクの在籍期間としては歴代最長の十三年間。
十年に一人の逸材も史上最高の傑には勝てず、永遠の二番手と言う地位は生涯においてドディウスを苦しめ続けている。
ドディウスの実力に加齢によるりが見え始めた後もゲンディアスは歴代最高の防衛士としてその頂點に君臨していたが、ゲンディアスは突如として冒険者を引退しアンサスランを去った。
その時はドディウスもレッド・ドラグーンの団長を任されたばかりであり、自分の中で折り合いをつけ以降は後進の育とアライアンス経営に力を注いできた。
しかし、ほんのし前くらいであろうか。
それまで音沙汰のなかったゲンディアスはいつの間にかアンサスランに戻ってきていた上に、自分が経営するアライアンスに所屬している冒険者と親しげに酒を酌みわしているではないか。
その様子を見た瞬間にドディウスの中に封印されていた嫉妬と怨嗟(えんさ)の嵐は一気に吹き荒れ、心ののに一つの誓いを立てることとなる。
この男には最大級の苦しみを與えてやる。それに連なる者共も容赦せぬ……と。
薄暗い執務室の席に座り獨り黙想のようなものをしながら、ドディウスは次の計畫を練っていた。
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「よう、ゲン。るぞ」
冒険者ギルド役員の制服にを包んだダンディズム溢れる初老の男が、昔からあるような古い集合住宅の一室の扉を潛ってってきた。
「金はある癖にこんなせせこましい所に住みおってからに」
蓄えた髭をいじりながら、初老の男は飾りっ気のない狹い部屋を一してそう呟く。
「ここくらいの広さが一番落ち著くんだよ。と言うか何の用だフィスケル。何度も言うが、冒険者ギルドの職員ならやらねぇぞ?」
初老の男の呟きは家主に聞こえていたようである。奧からのっそりと、白髪じりの格のいい男がそう言いながら出てきた。
「まあそうおっしゃるな。みんなが待ってるんだぜ? お前の席を空けてな」
対してフィスケルと呼ばれた初老の男は白髪じりの男にそう答え、カウンターテーブルの前に置かれている椅子に腰かけた。
「瞬詠(しゅんえい)のフィスケル」
アンサスランの冒険者であれば誰もがその名を一度は聞いたことがある破壊師であった。
元Sランクの実力者であり、現在は冒険者ギルドで常設役員をしている。
「お役所の仕事なんてに合わねえよ。それに、冒険者だったのは隨分と昔の話だ。今じゃ誰も俺の事なんざ覚えてないだろうし、隠居のゲンさんで充分だ」
ゲンと呼ばれた白髪じりの男が、その辺の店で売っている茶をカップに注ぎながらそう答える。そしてカップをフィスケルの前のテーブルに雑に置いた。
「忘れようとして忘れられんよ。『剛盾(ごうじゅん)のゲンディアス』はな」
そう言ってフィスケルは目の前に置かれた茶を飲み、壁に掲げられている古びた大きな盾を見る。そして更に話を続けた。
「お前が突然引退してい娘を連れ立ちアンサスランを出ていったのは、どれくらい前だったかな……。もう二度と會えないと思ったが、一年前にアンサスランに戻ってきた時は隨分と驚いたぞ」
「あまり戻る気はなかったがな。娘の……メルティラのためだ。冒険者をやるってのならこの街が最高峰だし、『あいつの子』って事を考えたらこの街以外での活躍は考えられねえよ」
ゲンさん……ゲンディアスも自分でれた茶を飲みながらしんみりと言う。
「子育ても終わって今はもう趣味に生きるだけだ。やりたいことや見屆けたいものもできたしな」
「そうか……。まあ、気が変わったら連絡をくれ。我々はいつでも席を空けて待っているからな」
そう言いながら茶を飲み干すと、フィスケルは立ち上がり玄関の方へと向かっていった。
「そうだ。この間お前の娘が所屬している新鋭アライアンスの団長に會ったぞ」
フィスケルが振り返り、ゲンディアスに聲をかける。
「新階層発見の時か?」
「ああ、丁度立ち會い擔當だったんでな。冒険者としては引退が近いベテランだが、組織のリーダーとしては中々いいセンいってるじゃないか。期待してるぞ」
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