「メルティラさん、いつもの通り大型の奴を任せた！　俺達は先に小さい方を殲滅する！」

「了解です！」

メルティラに大型のドラゴンを任せ、ロノムとルシアは二人で小型のドラゴンの一匹に向かって行く。

小型と言ってもロノム達人間の長の倍はあり、軽く相手取るというわけにはいかない。

いつものように一撃必殺の戦法を取ろうとするも、そのい鱗に弾かれて倒すどころか傷をつけるのすら至らなかった。

「だめですロノム隊長！　僕の武ではドラゴン達に対してまともなダメージは與えられません！」

「奇遇だなルシアさん、俺のハンドアックスもだ……。攻撃手二人がこのたらくだとすると頼りになるのは……」

ルシアと會話しながら、ロノムはシャンティーアの方へと目を向ける。

「お、何ですか私の出番ですか！？　お姉さんにまっかせなさーい！」

シャンティーアが手をわきわきさせながら妙に輝いた眼でロノムの方を見た。

「先程よりも弱くそれでいてドラゴン達はギリギリで倒せるくらいで周りにできるだけ影響が出ないように慎重かつ大膽な付與を頼む！！」

隨分無茶な指令をしたものだと自分で思いながら、ロノムはシャンティーアに指示を出す。

「おっけーおっけー。風付與(ふうせいふよじゅつ)展開(てんかい)、深度(しんど)4レベル。対象指定(たいしょうしてい)ロノム氏(し)。纏(まと)え！　ガスト・ブレード！」

緩やかな承諾の聲と共にシャンティーアの詠唱と共にロノムのハンドアックスに翠風(すいふう)が舞い踴る。

「うおお！」

そのに謝の言葉を述べる間もなくロノムは小型のドラゴンに向かって駆け寄り、首筋に狙いを定める。

そしてハンドアックスを振り抜いて一撃でドラゴンの首を刎ね飛ばした。

ハンドアックスを振る度に多突風のような風は巻き起こるが、それでも先程と比べれば隨分と大人しいものである。

「いける……！　シャンティーアさん、すまない！」

「いいよいいよー。お代は先程のイケメンドラゴンの彫刻で結構」

「もうちょっと持ち運びやすいやつで頼む！」

シャンティーアに対してそんな返しをしながら、ロノムは小型のドラゴンを次々と倒していった。

「殘りは大だけだ！　メルティラさん、行くぞ！」

戦局は佳境へと向かっていく。

小型のドラゴン五匹全てを倒したところで、ロノムは大へと目を向けた……まさにその時だった。

「ロノム隊長、小型のドラゴンが追加されました！　五です！」

自の武が効かず攪と狀況把握に徹していたルシアが、大部屋に繋がる通路の方を見ながら大聲を出す。

「な、なんだって！？」

ロノムがルシアの指し示す方を見ると、そこには確かに小型のドラゴンが五、列をなして大部屋に場してくるのが見えた。

「ロノム様！　あちらからも三ドラゴンが！」

「向こうからもか……！」

メルティラの正面、大ドラゴンが戦っている向こう側の通路からもとりどりのドラゴンがやってくるのが見える。

「ロッさん！　上からもドラゴンが降ってきます！　もはやてんやわんやです！」

「ちょちょちょ、ちょっと待ってくれぇ！」

アイリスも上空から飛翔型のドラゴンが飛來することに気が付いた。

都合十以上のドラゴンがロノム達に襲い掛かる。

「みんな、先程の延長戦だ！　同じようなきをしながら一一減らしていくぞ！」

ロノムの號令と共にルシアが逃げながら攪し、隙が出來たドラゴンをロノムが倒しにかかった。

そしてメルティラはアイリスの助けを借りながら大型ドラゴンの気を引き続ける。

だがしかし、戦線の崩壊は時間の問題だろう。

いかにロノム達が優れていようと、多勢に無勢、しかも全てが上級の魔であるドラゴン相手では如何ともしがたい。

「あーららー。流石のロノム氏達もこれは厳しいかもねー厳しいですねー」

その狀況を遠巻きに見ながら、シャンティーアはのほほんと見していた。

「しょーがない。お姉さんがいっちょ本気出してやりますか！」

そう言うとシャンティーアは神を集中させながら気合いをれる。

そして得の知れない紺碧のオーラを纏うと、の表皮に鱗が浮き上がり翼の生えた大型の爬蟲類へと姿を変えていった。

「ロノム様……！　これまでなのでしょうか……！」

「まだだ……まだなんとか……！」

「ロッさん！　不肖このアイリス、今こそを破り『インカーネーション』の魔法を再び使う時！」

「だ、ダメだアイリスさん！　それにそもそもこの狀況、インカーネーションでもどうしようもない！」

「ロノム隊長！　かくなる上は僕が囮に……！」

「そういうこと言わない！　全員で何とかする道を今考えてる！」

ロノム達一行が大量のドラゴンに襲われ絶絶命の危機に立たされたその時だった。

栗のような、濃い亜麻のようなをした巨のドラゴンが一匹、ロノムに襲い掛かろうとした別種のドラゴンに當たりを食らわす。

栗のドラゴンは尚もドラゴン達を威嚇し、甲高い咆哮を上げた。

「な、なんだ？　仲間割れか！？」

『やっほーロノム氏ー。私だよ私―、シャンティーアお姉さんだよー』

「え？　は……？」

よく見るとそのドラゴンはシャンティーアのトレードマークたる銀縁眼鏡をちょこんと顔に乗せている。

そう言えばロノムは聞いたことがあった。

支援師Sランク冒険者「竜(りゅうじゅつ)のシャンティーア」が何故「竜(りゅうじゅつ)」の二つ名を戴いているのか、そして、彼の切り札が何であるかを。

『これぞ私の奧義。ドラゴン変化の竜(りゅうじゅつ)よ！　さあさあロノム氏達、これで一気に逆転反撃と行くよー……と言いたいところだけどね。流石にドラゴン沢山を全滅させるほどの力はないんだなーこれが』

ドラゴンに囲まれ張たっぷりの中で相変わらずの張のなさを全で表しながら、シャンティーアはロノムに続ける。

『と、いうわけでお姉さんがしっかりかっちり殿(しんがり)を務めちゃうので、みんなで頑張って撤退しましょーい。あ、大丈夫よ私は。いざとなったらピュンピュン飛んで逃げるからさー！』

「分かった……。みんな、撤退するぞ！　出口まで全力でダッシュだ！」

そう言うとロノムは近くにいたルシアを小脇に抱え込み、ダンジョンの出口方面へと続く通路の方へと走って行く。

「承知しました！」

そしてメルティラもアイリスを肩に擔ぎ、ロノムの後へ続く。

『さあて、私も頑張って逃げましょうかねぇー。嵐付與(らんせいふよじゅつ)展開(てんかい)、深度(しんど)6レベル。対象指定(たいしょうしてい)私氏(わたしし)。護(まも)れ！　トルネード・アーマー！』

最後にドラゴンの姿となったシャンティーアが自に竜巻を纏わせて、襲い來るダンジョンのドラゴン達を蹴散らしながら飛んで行った。

……その後、ロノム達一行は何とかM-4ダンジョン、『ホール・オブ・インフェルノ』を全員無事に突破することが出來た。

お寶の殆どはダンジョンに置き去りにしてしまったわけだが、命あっての種である。

この日の事を教訓にしながら、ロノムは無茶はやめての丈に合った探索をしようと心に決めた。

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ロノム達によるホール・オブ・インフェルノ探索から數日経った曇りの日の事である。

ロノムは図書館の前で、一人のを待っていた。

「お、ロノム氏じゃーん！　どうしたどうした？」

ここ數日は空振りに終わったが、この日はロノムの目的であるが目の前に現れたようである。

ロノムはシャンティーアに軽く挨拶をすると、言葉を切り出した。

「一つだけ……疑問に思っていることがあるのでシャンティーアさんに聞こうと思ってね」

「何かな？　ドラゴン族に関することならお姉さんに何でも聞いてみなさい」

ふんぞり返りながら腰に手を當てるシャンティーアに対して、ロノムは真面目な顔で問いかける。

「シャンティーアさんに関する事だ」