《【書籍化】探索魔法は最強です~追放されたおっさん冒険者は探査と知の魔法でり上がる~》67.第二章エピローグ(1)
「なんだってこんな事になっちまったんだかなぁ……」
王都からはし離れた場所にある見事な邸宅。
王位の継承順で言えば三番目に當たるシルバス殿下とその伴ローレッタ妃が所有する別邸の一室で、いつものラフな服裝ではなく煌びやかで重量のある禮服にを包んだゲンさんが、嘆息じりに言う。
「養父、それはこちらの弁でございます。我が國王家との晩餐など、今回の旅程計畫にってはおりませんでしたよ」
宮中より借りけた目眩(まばゆ)いばかりのドレスにを包みながら、そのドレスに負けない貌を誇るメルティラがしばかりの毒を含んだ言葉でゲンさんに言った。
「ダンジョン探索だけならともかく、王都防衛の立役者にもなってしまいましたからねぇ。引退したとは言え流石Sランク冒険者ですよー」
そんな事を言うアイリスは半ば不満顔である。
用意されたドレスが用のものであったからだ。
背の低いアイリスに見合うドレスがこれしか用意できなかったので仕方がない。
「本當にすごいです、ゲンさんもシーリアさんも……。いえ、ロノム隊長、アイリスさんもメルティラさんも今回は凄い働きをしていました……何もしていない僕は場違いなじです……」
ルシアの顔立ちは、方向的に言えば顔である。
「しい」ではなく「可いらしい」と言った容姿であるため人用のドレスはあまり似合っていないが、それでも見栄えは良い。
いつもの通り恐しがちにを小さく丸めながら、控えの間の隅で小さくなっていた。
「ルシア。あなた達もドラゴンの跋扈(ばっこ)するダンジョンを発見し、その攻略と王都に仇なす存在を見事討伐したこと、忘れてはなりませんよ。これは政治的に言うとアンサスランが王都に対して強力な発言権を得たことになります。その片翼を擔った事に自信を持ちなさい」
円を重ねたしいと言ったシーリアがルシアに聲をかける。
落ち著いた様子ではあるが実のところ彼もこう言った晴れの席に慣れている訳ではない。
心ではテーブルマナーのおさらいを必死に行(おこな)っている。
し離れたところではロノムとシルヴィルが正裝にを包みながら、二人ともガチガチに張していた。
「シルヴィルさん……いえ、シルヴィル・グレツウィル卿。我々は冒険者であり平民でありまして、王家との晩餐など全く縁のない人生を送って參りました。仮に我々の誰かがとんでもない間違いを犯してしまっても、卿のお力で何卒円満に収めて頂きたく……」
「ば……馬鹿を言うなシルバー・ゲイルよ……! 吾輩は確かに貴族であるが、下級も下級だぞ。王家の晩餐どころかシルバス殿下やローレッタ妃殿下に対するお目通りすら、通常起こり得ようはずもない。はっきり言うぞ、帰ればアンサスランでの日常が待っているであろうお前達よりも、吾輩の方が余程気が気ではないからな……!」
初めの依頼であったミノタウロスの出現するダンジョンの封鎖のみならず、ドラゴン族による王都襲撃を未然に防いだ働き、ドラゴンの棲まうダンジョンの発見と封鎖、そして王都を火の海に陥れんとする邪竜の野を阻止した功績は王都中に知れ渡った。
中でもアンサスランの冒険者に対して一目置いているローレッタ妃とその夫シルバス殿下の喜びは尋常ではなく、短時間の謁見程度で済まされる予定であった當初の計畫から、あれよあれよと言う間に別邸での晩餐と言う事になってしまった。
主賓はアンサスランの冒険者六人と、それを指揮したシルヴィルである。
ゲンさんを含めて、誰もが超上流階級との晩餐など経験したことなどなかった。
「グレツウィル卿並びにアンサスラン冒険者一同に申し上げます。用意が整いましたのでご同行願います」
ノックと共に控室の扉が開き、シルヴィルよりも遙かに位の高い侍従が深々と一禮しながら現れる。
ロノム達も覚悟を決めて控室を出た。
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「この度の働きは見事であったぞグレツウィル卿、そしてアンサスランの冒険者達よ」
給仕がそれぞれのグラスにワインを注ぎ晩餐の用意が整いつつある中、ホスト側の席でゆったりと座るローレッタ妃が、ガチガチになりながら席に座るロノム達に聲をかけた。
「ようこそ、アンサスランの冒険者一同。なるほど、我が騎士団とはまた違った悍な顔つきをしているね。ローレッタが惚れ込むわけだよ」
ローレッタの隣に座るなりのいい優し気な顔をした貴族、シルバス殿下がにこやかな笑みを浮かべながらロノム達を見る。
「恐れながら両殿下……。我々は通常であれば両殿下とは生涯でご尊顔を拝謁することも葉わぬような分でして、尚且つこのような席には慣れておりませぬ……。不躾な事が起ころうとも、平にご容赦頂けましたら……」
「いや、冒険者の流儀で構わない。我々だって貴族連中をもてなすつもりで君達を呼んだわけではないぞ、冒険者達をもてなすためにこの晩餐を開いたのだ。本當にくならず、自由に過ごしてくれたらいい」
恐しきったロノムの言葉に、ローレッタは笑いながら答えた。
「というわけでグレツウィル卿、我々と冒険者の橋渡しをお任せする。逆に我々が彼等に対して不義理を働いてしまっては困るからな。貴君が頼りだぞ。その都度、冒険者の流儀を我々に伝授するように」
「わ、吾輩でございますか!?」
突然話を振られたシルヴィルが狼狽しながら答える。
卿からしてみれば可能な限り気配を消して、この場を相なく乗り切っていきたいだけであった。
「では、用意も整ったし始めようか。それでロノム殿、食事や飲みは我々の方で用意させて頂いたのだが、冒険者としては宴の始まりはどのような形で始めるものなのかな?」
ローレッタがロノムに聞く。
「ええと……大変恐ながら、確かに冒険者流の酒宴の始め方というものはありまして……。その、ローレッタ殿下やシルバス殿下からしてみれば目を覆うような景となるかもしれませんが……」
ローレッタから促されたものの、果たして冒険者流の野な始め方をしてしまってよいのであろうか。
ロノムはまだ酒もっていないのに眩暈がするような覚に襲われる。
「何を言うか、折角の機會なのだ。是非それを教えてくれ」
「私も知りたいところだ。正直怖いもの見たさという面もあるけどね」
ローレッタとシルバスの言葉にロノムはゲンさんとシーリアの方を見る。
二人は「両殿下が言うならば仕方ない、やってくれ」と言った表で頷く。
続いてアイリスとメルティラ、そしてルシアの方を見ながら合図を送る。
三人とも覚悟を決めて立ち上がった。
「ええと、それでは僭越ながら乾杯の音頭を取らせて頂きたいと思います……。王都の勝利、そしてアンサスランの勝利を祝して!」
「「「勝利を祝してー!!」」」
シルヴィルがハラハラしながら見守る中、ロノム達四人は貴族の晩餐という場には似つかわしくない大きな聲と共に、銘々のグラスにったワイン及び果実ジュースを一気に飲み干していく。
「ははは! 大変愉快だ! 我々もやろう、シルバス殿!」
「ローレッタ、君ならそう言うと思っていたよ。では、彼等に混ぜて貰おうか」
ローレッタとシルバスもワイングラスを片手に席を立ち、ロノム達の元へと向かっていった。
第二章エピローグ部分を加筆し、分割いたしました。
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