「おー、どうしたどうした、ちんまいのの二人組ー」

クリストファー伯が突如湧いた魔の群れに対抗するために戦場のど真ん中で自軍をまとめ上げていると、敵味方がりれて混戦模様となっている戦場の奧からアイリスとネシュレムが走ってきた。

余談ではあるが、クリストファー伯とアイリスの長と年齢はそれほど変わらない。

「ロッさ……パーティリーダーの命により、救護場所を作ろうと思っております！　どこか都合のいい場所はありますか！？」

「おーそれならこの辺りで頼むよー」

「りょーかいしました！　それじゃあこの場所をお借りしますね！」

クリストファー伯の許可を得たアイリスは、魔と人間達が爭う戦場のど真ん中に座り込みつつ神を統一し治癒の詠唱を始める。

「遙(はる)かな大森林(だいしんりん)の彼方(かなた)には、全(すべ)てを癒(いや)す水(みず)が湧(わ)き出(で)る。水(みず)は泉(いずみ)となりて、英雄達(えいゆうたち)を包(つつ)み込(こ)む。その大(おお)いなる力(ちから)は神(めがみ)の泉(いずみ)。癒(いや)しの場(ば)をここに！　トータル・リバイタル！！」

そして詠唱の完了と共に、アイリスの周辺は水のような薄緑のようなの靄で満たされた空間が展開された。

クリストファー伯がその様子を橫目にれながら指揮を執っていると、魔と戦っていたためにアイリスとネシュレムよりもし遅れてルシアがやってくる。

「クリストファーさん。アイリスさんがトータル・リバイタルという治癒を展開している間、この中は強力な治癒空間となります。負傷した方はこの空間の中に集めて下さい！」

そしてルシアはクリストファー伯に対してそう告げると、治癒空間を守るための戦いにった。

ルシアの言葉を聞いたクリストファー伯も騎士達に指示を出し、アイリスの作りだした治癒空間に負傷者を搬する。

「おー。なるほどなるほどねぇー。治癒ってのはこういうじのものなんだねえ。中々いいなぁうちの子達も使うことできないかなー」

治癒空間に運び込まれた負傷者が通常では考えられない速度で傷が癒されていくのを見ながら、クリストファー伯がそんな呟きをした。

一方、アイリスと共に救護場所の展開を任されたネシュレムは々迷っていた。

確かに自分も治癒師ではあるが、実力を見るとアイリスとは大きな隔たりがあることは実している。

特にトータル・リバイタルのような高度な治癒の隣で自分が治癒を使うことはほぼ無意味であり、逆に足手まといとなる可能もあった。

「……ええと……それなら……。貴方(あなた)は……ひかり(ひかり)で……私(わたし)は……影(かげ)……。太(たいよう)のような……貴方(あなた)の……裏(うら)で……、私(わたし)は……月(つき)のように……(ひそ)かに……巡(めぐ)る……。だけど……それでいいの……。それが私(わたし)の……選(えら)ぶ道(みち)……。増幅(ぞうふく)せよ、アンプリフィケーション」

ネシュレムの詠唱完了と同時に黃の魔法陣が展開され、アイリスの治癒が補強される。

「おおー！　何やら力が漲(みなぎ)ってくるようなじがいたします！　ネシュちゃん、これは……！」

「を……補強する…………。私自は……あまり……複雑な魔法や……集中を必要とする……魔法は……苦手だから……。だから……せめて……他のみんなの……役に立てる魔法をと……思って……魔法の構を勉強して……作った……。今日……初めて使ってみたけど……うまくいった……みたい……」

「なるほどなるほど！　何となくネシュちゃんがどういう思いでこの魔法を作り上げたのかが想像できます。私のみならず、エクっさんの役に立てるといいですね！」

その言葉に赤面するネシュレムに対してニッコリと笑いながら、アイリスは治癒の展開を続けた。

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「ダメです！　近づかないで下さい……！」

ルシアが犬型の魔の眉間に銃弾を撃ち込み、砂へと還す。

他にも様々な魔が襲い掛かってきたのを返り討ちにしてきたが、今回はいつものような遠距離からの撃ではなく充分に引きつけてから魔を倒していた。

ただでさえ敵味方りれての大戦である上に、ルシアが戦っている場所はクリストファー伯が指揮を執る本隊と近い位置にあり、同士撃ちを避けるためである。

「う……こんな近くから……」

迫り來る魔を倒し終わりルシアが呼吸を整えようとしたところで、自分のすぐ隣で魔が生され始めた。

魔の形が完し牙を剝く前にすぐさま銃弾を撃ち込み砂へと還した後すぐに辺りを見回すと、アイリスが治癒を展開する場所の傍やクリストファー伯が指揮を執る場所の近くでも続々と魔が生され続けている。

「ちゃんとしなきゃ……。僕だけの力で何とかしないと……」

いつもルシアに対して的確な指示を出してくれるロノムは現在外周の方で魔と戦いながら寶珠への対策を考えており、この場にはいない。

姉貴分のアイリスもメルティラもそれぞれの役目についており、ルシアに対して取るべき行を示してくれる狀況ではなかった。

「自分で考えて、自分で対処しなきゃいけないんだ……。僕だって一人の冒険者として、いつまでもロノム隊長、アイリスさん、メルティラさんに頼っているわけにはいかない……！」

一人そう呟くと、ルシアは襲い掛かってきたトカゲ型の魔の急所を撃ち抜き一撃で砂へと還す。

「お祖父ちゃん、見てくれていますか？　ルシアはお祖父ちゃんのような冒険者になりたいと思って、頑張ってきました。僕は、頑張れていますか？　お祖父ちゃんの背中に、しでも近づけていますか……？」

そして銃に熱を帯びた用の武をひとでした後、無限に湧き続ける魔を一一確実に葬っていった。

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戦場が混迷を極める中、クリストファー伯の騎士団と山岳民族の戦士達は互いが互いを意識しつつも、何となくお互いを無視し合いながらそれぞれ魔と対峙していた。

しかしそれぞれが必死に戦い続けているが、無限に湧き続ける魔の前に負傷者の數は続々と増え続けている。

そんな折に、クリストファー伯は傍に控えていた數人の騎士を近くに呼びつけた。

「ちょっとさ、この混戦の中大変だとは思うけど、向こうにいる戦頭(いくさがしら)に伝言と用事を頼まれてくれない？」

そしてクリストファー伯は騎士達に伝言の容を伝える。

「了解しました。しかし、彼等は聞いてくれますかね？」

「流石に聞いてくれるんじゃない？」

短い會話をわしたあと、騎士達は混戦の中を馬に乗って駆け抜けて行った。

一方の山岳民族の戦士達は、ただでさえない手勢の半分が魔にやられ、壊滅も時間の問題といった狀況であった。

戦頭(いくさがしら)と呼ばれる指揮自ら武を取り魔を追い払う始末である。

「戦頭(いくさがしら)、ここはもうダメです。戦頭(いくさがしら)だけでも生き延びて、俺達の仇をとってください」

「それができるのであればな。これは天命じゃ。魔に魅られたものを利用し己(おの)が我(が)を通そうとしたワシ等に対する天罰じゃ」

槍を構えた側近の男に対して戦頭(いくさがしら)がそう答え、冥土への覚悟を決めたところで戦場に舞う土埃の奧から銀甲冑にを包んだ騎士が數名現れた。

「戦頭(いくさがしら)殿！　我が主クリストファーから、貴公宛に伝言です！」

「このような狀況で伝言とは……して、クリストファーはなんと？」

「まず一つ、つまらぬ意地を張り合わずここは共闘しよう。二つ、それぞれ指揮系統がバラバラにいていては効率が悪いのでクリストファーの傍で指揮を執ってしい。三つ、前二つを合意するか否かに関わらず、負傷した者を我が方に連れてこい。冒険者達が治癒によって救護陣を展開しているのでそちらにも貸す。以上！」

騎士達は馬上から戦頭(いくさがしら)に伝えると、槍を取り周囲の魔と相対する。

戦頭(いくさがしら)は僅かな時間思考を巡らせたあと、騎士達に向かって言った。

「ワシ等は既に先程クリストファーに屈したじゃ、なんとでも命ずるがよい。傍(かたわ)らに來いと言うなら(かばね)となろうが隣に立ってやろうぞ」

その言葉を聞いた騎士達は魔を打ち払いながら、戦頭(いくさがしら)を筆頭とした山岳民族の戦士達と共にクリストファー伯が率いる本隊の方へと先導していった。