「エクスエル様、今です！」

「氷晶(ひょうしょう)は連(つら)なる牙突(がとつ)、常闇(とこやみ)の風(かぜ)は狂気(きょうき)を宿(やど)し吹雪(ふぶき)と(な)す。吹(ふ)き荒(あ)れろ！　ブリザード！」

メルティラが集めた魔達を、エクスエルによる吹雪の破壊で一掃する。

ポイントゲッターの二人はクリストファー伯の兵士達や山岳民族の戦士達と比べると數倍多くの魔を倒していた。

「ちっ……！　次から次へとキリがないな！」

しかしエクスエルがいくら倒しても、次から次へと魔は生されその牙を剝く。

このまま無限に魔が湧き続けるようであれば、いつか二人も力盡きるであろう。

「おおおおぉ！」

一方のロノムは二人が作り出した間隙を見つけ、得のハンドアックスと共に突進し空中に浮かぶ寶珠に対して斬りかかる。

しかし、ハンドアックスの刃が寶珠のつるりとした表面に対して僅かにぶつかったところで赤黒いオーラを発し、ロノム諸共大地へと弾き飛ばした。

「く……！」

そして寶珠の放つオーラによって跳ね返されもちをついたロノムに対して、周辺に生された魔が殺到してくる。

「ロノム、うまいこと躱せ！　明(あ)けの星(ほし)に形(かたな)す白刃(はくじん)は幾星霜(いくせいそう)を積(つ)み重(かさ)ね自(みずか)ら氷星(ひょうせい)となり母(はは)なる地(ち)へと還(かえ)りつく。降(ふ)り注(そそ)げ！　アイシクル・ヘイル！」

「う、うまいこと躱せってそんな無茶な！　うわぁお！！」

エクスエルの詠唱完了と共にロノムの頭上から広範囲に氷柱と霰の嵐が降り注ぎ、襲い掛かってきた魔達を壊滅させる。

一方のロノムは石だらけの大地を這い回り転がりながら、なんとか吹雪の破壊を掻い潛ってエクスエルとメルティラが戦っている場所へと帰ってきた。

「お前の斬撃でもダメか。こうなると打つ手なしだな……」

何とか立ち上がり恨めしそうに睨んでくるロノムに対して、エクスエルは何事もなかったかのように言う。

「いや、そうでもなさそうだ。よく見るとあの寶珠、俺の斬撃で僅かだが傷がついてる」

エクスエルが寶珠に目を凝らすと、確かに先程ロノムが斬りかかったところに淺い傷ができていた。

「そして、どうやらあの防オーラは連続では放てないようだ。まずエクスさんが破壊でオーラを吹き飛ばし、その後間髪れずに俺が斬りかかればいけるんじゃないか？」

「なるほど、それはやってみる価値はあるな」

ロノムの作戦に対して僅かに頷きながら、エクスエルも同調する。

しかし。

「問題は、その作戦を遂行するためには魔の數が多過ぎるという點だな。せめてもう一人くらい、対魔に長けた冒険者がいてくれたらよかったのだが……」

今この場でポイントゲッターのエクスエルとロノムが寶珠に集中すれば、形勢は一気に魔側へと傾くだろう。

非常にリスクの大きい賭けであり、ロノムとしてもエクスエルとしても悩ましいところである。

「でしたら、私がこの周辺全ての魔を引きけます。その隙にロノム様とエクスエル様はあの寶珠に集中くださいませ」

二人が戦いながら作戦について相談していたところに、メルティラが提案する。

「メルティラさんが一人で！？」

「私が周辺の魔を全て引きつけて耐え続ければ、萬が一ロノム様達の作戦が失敗したとしても持ち直すこともできるでしょう。今は一つでも多く、可能のあるものを実行していくべきです」

メルティラが襲い掛かってきた魔を大盾で防ぎその首筋に剣の刃をれながら言った。

「しかし……。いくらお前とはいえ、可能なのか？」

「私はアンサスランの栄えあるSランク冒険者であり、期より剛盾(ごうじゅん)の手ほどきをけてきた生粋の防衛士ですよ。そのくらいのこと、やってのけて當然です。さあロノム様、エクスエル様、見事私が隙を作ってみせますので、寶珠の方を宜しくお願いいたします」

メルティラはそう言うとロノム達の返事も聞かずに寶珠の方へと駆け出していく。

そして寶珠の放つオーラに吹き飛ばされないようにしながらその剣で數発の斬撃をれつつ魔を引き付けると、そのまま寶珠から離れ魔との戦いを始めた。

「く……！　急ごう、エクスさん！　メルティラさんが作ってくれたチャンス、無駄にするわけにはいかない！」

「ああ、分かった！」

メルティラの戦いを橫目で追いながら、ロノムとエクスエルはそれぞれ得を構えた。

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メルティラは數多の魔を引きつけ戦い続ける。

今までこれほど十重二十重に回りを囲むほどの魔と戦った記憶は數えるほどしかなく、それもアイリスやロノム達の支援すらめない狀況は初めてであった。

しかし、倒すことさえ考えなければ自分一人でもこの戦線を維持できる自信は持っていた。

何故ならば自分は剛盾(ごうじゅん)と呼ばれた伝説の冒険者の娘だからである。

い頃から諸國を巡り、養父と共にダンジョンやダンジョンから溢れ出てきた魔と対峙していた。

一番初めに武を持った時の記憶はない。

それこそ心ついたときには既に盾と剣を扱えていたように思う。

盾と剣の使い方はい頃からゲンディアスが全て教えてくれた。

ゲンディアス本人は「お前には勉強や処世、テーブルマナーまで俺が知ることは大を教えた」と言っているのだが、正直盾と剣の使い方以外は教えて貰った記憶がないのはご敬である。

「はっ！」

魔の軀は大小様々であり、數にものをいわせて波狀攻撃を仕掛けてきた。

しかしどれだけ數がいて何重に囲もうとも、一度にメルティラと対峙できる數は限られている。

戦い方にさえ気を付ければ、あとは力の続く限り魔をけ持ちながら一一屠っていくだけだ。

幸いにも今回は時間制限がある。

ロノムであれば確実に、寶珠をなんとかしてくれるだろう。

自分はその間だけ頑張ればいいのだ。

メルティラはそう信じている。

「養父の……そして私の見込んだ殿方です。そのくらいのことはやれて當然ですよロノム様」

メルティラが息を上げつつも魔の一を砂へと還しながらそう呟いた時、ロノム達が寶珠と対峙しているであろう方向から一筋の閃が上空へとび、そして消えた。

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得を構えたロノムとエクスエルはそれぞれ寶珠に対して構える。

「エクスさんの詠唱が終わったところで俺が突っ込む。自分のタイミングでを放ってくれ。の選択はエクスさんに任せる」

「了解した。お前もタイミングを見誤ってオーラに吹っ飛ばされるなよ？　間違いなくチャンスは一度きりだ」

そういうとエクスエルは神を集中し、破壊の詠唱を始める。

「明(あ)けの闇(やみ)に集(つど)うは群(む)れ(な)す霜狼(そうろう)」

エクスエルによる早口の詠唱を聞きながら、ロノムは腰を深く沈め駆け出す勢をとる。

「幾重(いくえ)に連(つら)なる狼牙(ろうが)を剝(む)きて、雪崩(なだれ)と共(とも)に喊聲(かんせい)をあげよ」

チャンスは一度きり、それも非常にシビアなタイミングだ。

エクスエルの魔法と共にロノムがはじき返されれば意味がないし、かといって遅すぎても後発のオーラが間に合ってしまうだろう。

寶珠がエクスエルの破壊をはじき返した直後の、ほんの一瞬の間隙を突くしかない。

「凍(い)てつく牙(きば)によって屠(ほふ)られるがよい！　ライムタイド・ウルヴズ！」

エクスエルの詠唱完了と同時に氷雪の大狼は群れをし、寶珠へと突進していく。

大狼の群れは寶珠を食い破ろうとしたところで獲の放出した赤黒いオーラに吹き飛ばされ、悲鳴のような音をあげながら空中に舞った。

「いまだ！」

その直後、ロノムは弾けたように走り出す。

「うおおおぉぉ！」

そして吹き飛ばされた青白くき通った大狼達とれ違いながら飛び上がり寶珠の上を取ると、大上段からハンドアックスを振り下ろした。

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「いやぁ參ったねぇ、ジリ貧とはまさにこのことだねぇ」

馬上で指揮を執りながらクリストファー伯がいつものようにのんびりした口調で隣にいる白髪頭の戦士に言う。

「ふん、そうは言いつつもいつものお決まりの奇策でなんとかするのがお主じゃろう。はようその手腕でこの場を取り仕切れ」

クリストファー伯に聲を掛けられた戦頭(いくさがしら)が別の戦士に指示を出しながら毒づいた。

「んふっふっふ。今日は本當に何もないよ、はっきり言えば張らずに魔が沢山現れた時點で撤退すればよかったにゃーんなんて思ってるところなんよねぇ。強いてあげるとすれば引き返して山を下りているはずのゼフィトが本隊を率いて救援に來てくれることなんだけど、それは作戦にってないからねぇ。いやぁ參った參った」

「その割には余裕ではないか。ワシ等はいつもお前のその余裕に、煮え湯を飲まされてきたのじゃぞ」

気付けば戦っている人員も隨分減り、大半がアイリスの展開する治癒空間に運び込まれている。

傷の癒えた者達は再び戦場へと駆け出しているのだが、出てくる者よりもっていく者の方が多くなっていた。

「でも、今の狀況を打破できれば全てうまくいくと思っているよ。そういった意味では正解だったのかな」

周りを見渡せば、先程までは互いを無視し合っていたクリストファー伯の兵士達と山岳民族の戦士達は共闘し連攜を取りながら魔を倒し続けている。

負傷したクリストファー伯の兵士を山岳民族の戦士が肩に擔ぎ、アイリスの作る治癒空間に運び込むという景も見られた。

「共通の敵がおるから共闘し合っているだけじゃ。かかる事態が過ぎ去れば、どうせまたいがみ合うようになる」

「それを何とか抑えるのが、此方(こなた)達為政者の役目だもんねー。戦頭(いくさがしら)にはその役目、期待してるよーん」

クリストファー伯が戦頭(いくさがしら)にそう言ったところで、戦場の奧から一筋の閃が上空へとび、そして消えていく。

そして魔達はきを止めると徐々にそのが崩れ落ち始め、砂へと還っていった。

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次回、第三章のエピローグとなります。

都合により8/14遅い時間になるか8/15投稿になる予定です。遅れてしまいすみません。