《【書籍化】絶滅したはずの希種エルフが奴隷として売られていたので、娘にすることにした。【コミカライズ】》第40話 ジークリンデ、もしもの時は母親を自稱する予定

の國アンヘイム。

それは帝國領の端にひっそりと存在する規模國家である。

代々妖王が治めているアンヘイムの大きな特徴は、ずばり人種だ。

なんとアンヘイムを構する王國民の九割以上が妖とエルフ。

主要種族の中でも特に魔法に通するこの二種族で構されたアンヘイムは、帝國でも隨一の魔法國家だった。

アンヘイムは帝國に屬してはいるものの謎の多い國家で、は分かっていないことも多い。魔法戦爭に発展すれば帝國も多大な被害を被る事が予想される為、強引に國を拡張することも出來ていないのが現狀だ。

…………アンヘイムとの商業取引が活発になれば、質のいい魔法が簡単に手にるようになるんだがな。

「妖の國ね…………だが、あの國は妖とエルフ以外の國に縛りをつけているはずだ。俺が行ってすんなりれるものなのか?」

國家の中には、ない種族で構された國家もあり、そういう國家はそれ以外の種族の國を制限している場合が多い。

とエルフで構されたアンヘイムはそのいい例で、妖とエルフであれば何の問題もなく出り出來るが、それ以外の種族は厳しい國審査をける必要がある。その厳しさは帝都の比ではない。帝都の審査が厳しい、というのはあくまで種族を限定しなかった時の話なのだ。

そんな訳で、勿論俺はアンヘイムを訪れたことはない。同じようなり立ちのエルフの國には行ったことがあるんだがな。

「────確かにその通りだ。アンヘイムの國審査原則には、こう記されている。…………『妖、エルフ、またはそのどちらかを家族に持つ他種族以外の國を制限する』────と」

眼鏡の奧の、ジークリンデの鋭い眼が────ギラリとった。

「リリィと家族になったお前は、既にアンヘイムの審査條件をクリアしている。問題なく國出來るはずだ。リリィを連れて行く必要はあるだろうがな」

ジークリンデの言葉に俺は驚き、固まった。

アンヘイムの國審査原則は読んだことが無いわけでは無かったが、自分に當てはまる事柄は無いと記憶から消去してしまっていたのだ。まさか自分にエルフの家族が出來るなど予想するわけもない。

俺は落ち著きを求め、すっかり冷めてしまったコーヒーを啜った。

味はしなかった。

エンジェルベアの素材を職人に引き渡し、ついでに職人にち(・)ょ(・)っ(・)と(・)し(・)た(・)お(・)願(・)い(・)を済ませてジークリンデと別れた帰り道。

「…………どうすっかねえ」

夕日に向かって投げた言葉は、空気に溶けて消えていく。

考えるのは勿論、アンヘイムの事だ。

…………學まで約2週間。

もしアンヘイムに行くとなれば、魔法二車を使っても片道2日はかかるだろう。滯在を3日間としても、帰ってくるまで1週間はかかる。

決斷の期限としては今日明日が限界だった。リリィには學までに教えたいことも多い。必要なだってまだ揃い切ってはいなかった。

「…………別に、ドラゴンやケンタウルスの帽子だって悪い訳じゃないんだよな」

當初予定していたダークフレイムドラゴンやケンタウルスの素材を使用した帽子だって、帝都で手にれられるの中では最高峰に位置するだろう。アンヘイム製の魔法にも引けを取らないはず。

だが、流石にアンヘイムの中でもトップクラスの帽子職人が作る製品には劣るだろう。その事が俺を悩ませていた。

────どうせなら、リリィには最高のを使ってしい。

その想いだけが、頭の中でぐるぐるしている。

結局答えの出ないまま、俺は自宅に帰ってきた。一人と一匹が待つ自宅。

「ただいま」

軽く聲を掛けると、リビングからリズムの違う足音が聞こえてくる。

「ぱぱおかえり!」

「きゅ〜」

リビングからリリィとエンジェルベアが飛び出してくる。

リリィは俺に駆け寄ってきているが、エンジェルベアは訳も分からずリリィの後ろを著いて來ているだけのようで、リリィが俺に抱き著くと手持ち無沙汰な様子で床に寢転んだ。

リリィを抱っこしてリビングに戻ると、エンジェルベアが後ろを著いてくる。そういえばこいつに名前をつけないといけないな。

「リリィ、エンジェルベアに名前はつけたのか?」

「なまえ? くまたん!」

「くまたんか、いい名前だな。きっとこいつも喜んでる」

それはリリィにエルフ、ジークリンデに人間と名付けるようなものじゃないかとも思ったが、リリィが名付けたのなら間違いはない。

で何度か呼んでみると、うん、これはこれでしっくりくるような気がした。こいつは今日からくまたんだ。

「────なあ、リリィ。ちょっと聞きたいことがあるんだが」

ソファにリリィを降ろしながら、俺は聞いてみることにした。

「? なぁに?」

リリィはソファに座って首を傾げている。くまたんがソファに登れず苦戦していたので、背中を摑んで乗せてやった。くまたんはソファの上をよちよちと歩いて、リリィの傍で丸くなった。すっかりリリィに懐いているらしい。

「一週間くらいお出かけ出來るって言ったら…………したいか?」

「おでかけ!? する!」

リリィは即答した。

こうして、俺とリリィのアンヘイム行きが決定した。

不在中のくまたんの世話は…………そういえば今、帝都に一人適役が居るんだった。

明日にでもジークリンデに住所を聞くことにしよう。

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