「おぉい、ウィル。例の件なんだが……」

と、ノック無く許可も得ずにズカズカ部屋へとって來たのは。

ウィリアム殿下よりしだけ低めの背に、確りと鍛え上げましたと言わんばかりの筋骨隆々な暑苦しいを近衛騎士の制服で包んだ、20代前半と思(おぼ)しき青年だった。

ウィリアム殿下の事をウィルと呼ぶあたり、相當仲の良い相手と見けられる。

顔を上げたリリアーナと青年の視線がバッチリ合うと、青年は気まずそうに

「っと、お客さんだったか。済まない。また出直して……」

言いかけた所でウィリアム殿下が

「構わない。とりあえずそっちに……」

機の方を指し、リリアーナの方をチラッと見やり

「ここでし待っていろ」

と言ってから、機の方へ移して行った。

別に待たなくても婚約回避に同意さえして頂けたらサッサと帰りますっ！　と脳で毒付きながらテーブルへと視線を向けると、味しそうなお菓子がたくさん並んでいた。

そういえばさっき紅茶を淹れてくれた使用人がお菓子も並べて行ったっけ。

……待っていろって事は、これを食べて待っていても良いのよね。

リリアーナはおそるおそる手をばし、たくさんある中から小さなチョコレートの様なお菓子を選び、口にれた。

それは今までに食べたどのお菓子よりも、素晴らしく味しくじた。

『味しい〜〜〜〜〜っ‼︎』

びたいのを聲に出さずに何とか耐えて、あやしく悶えつつも、もう一つ口にれた。

嗚呼、味し過ぎるっ！

こっちのお菓子はどうかしら？

まあ、これも素晴らしく味しいわ。

ではこちらのお菓子は？

最初のおそるおそるばした手は何だったのかと思える程に、今ばす手には全く遠慮がなくなっている。

最早何の為に自分がここにいるのかは忘卻の彼方である。

リリアーナがお菓子の味しさに悶えている場所からし離れた機の前で、ウィリアムは筋骨隆々の近衛騎士の青年からけ取った書類を見て、指示を出していた。

重要案件という程ではなかった為、書類にサインをして青年に戻し、ふとリリアーナの方に視線を向けて、固まった。

そんなウィリアムを見て、青年もリリアーナの方へと振り返り、何の遠慮もなくとっても幸せそうな笑顔で次々と可らしい口にお菓子が吸い込まれていくのを見て、耐えられずに「ブホッ」と吹き出した。