《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》カイナ村への道、安全地帯となる
メディ達がカイナ村に帰ってから、大きく変わったことがある。
一つは隣町とカイナ村をつなぐ道が安全地帯になったということ。
歩けば丸一日はかかる道のりであるが、それは魔と遭遇しなければの話だ。
戦闘や怪我などで足を止められてしまえば、野宿や引き返すことを余儀なくされる。
そういったアクセスの悪さも相まって、以前のカイナ村に訪れる者はほとんどいなかった。
いるとすればアイリーンやアンデやポンド、ウタンのような訳ありの人だけである。
「ほぉぉ! こりゃ快適じゃ! このワシが丸腰で往復しても、まったく魔に襲われんかったぞ!」
「よかったです! エクリさんの香爐が役立ちました!」
村の口でメディは村長を出迎えた。なんと彼は無事、徒歩でカイナ村と隣町を往復したのだ。
メディの魔避けのお香を組み込んだエクリ式香爐は地面に埋めている。
香爐にはお香がっており、小さな火魔石をセットしておくことで半永久的に燃焼し続けることができた。
更に上部から細いストローのような筒から香りが出ており、それが周囲に広がる。
おかげで周囲の魔がまったく近寄ってこなくなったのだ。
「でも村長が歩いて証明するなんて……」
「村長であるワシが怯えていれば誰が安心できる? だからこそをもって証明したまでよ」
村長はそう張り切っているが念のため、アイリーンがから見守っていた。
もちろんその警戒は杞憂に終わり、今は村中がまたもや歓喜している。
最寄りの町から行商人が頻繁に訪れるようになれば、村人の生活事も大きく変わる。
消耗品の在庫に神経をとがらす必要がなくなるのだ。
「とはいえ、村長。これが周知されるにはし時間がかかるだろう」
「そうだな、アイリーンよ。浮かれてばかりもいられん。だが宿の開店準備はすでに終わっておる。後は座して待つのみよ」
「一応、隣町にカノエが宣伝しに行っているが……」
「村のイメージのために、あまり不純な宣伝はせんでもらいたいがな」
そう心配する村長だが、彼自がメイド服に著替えたカノエのサービスをたっぷりとけている。
のあらゆる部分に目を奪われている毎日だ。
自分を棚に上げた村長は、香爐について思案していた。
手の平サイズの香爐一つで隣町とカイナ村の道をカバーできる理屈が理解できずにいる。
彼自、魔道にはそれなりの見聞があったがいくら仕組みを考えても答えが出なかった。
並みの魔道師が作る香爐ではせいぜい部屋一つをカバーする程度であり、そうなればエクリの実力は底が知れない。
「メディ、エクリというだが……本當にいいのか?」
「はい?」
「その、なんだ。ワシでは今一、意思疎通が取れなくてのう。本當にこの村にきてよかったのか?」
「エクリちゃん、私の専屬魔道師になるって言って聞かないんですよ。薬屋のお隣に工房を建てちゃいましたし……」
もう一つ、大きく変わったこと。
それはエクリがカイナ村に移住してきたことだ。
村長を含めたメディ以外の者達には理解不能である。
分野は違えど、エクリはメディに作り手のなんたるかを學んだ。
メディの依頼で初めて納得がいく魔道が完した恩もあって、エクリはメディから離れない。
今も傍らでメディに著せんばかりに立っていて、を隠しながら顔を半分だけ出している。
「のう、エクリよ。プロドスにいたほうが注もあったのではないか?」
エクリは村長の顔をジッと見るだけで答えない。
この瞬間、村長は理解した。これではどの道、仕事の注などできない。
嫌われているわけではないとわかっていても、人見知りなとコミュニケーションをとるのは困難だと判斷した。
「エクリちゃん、村に來たからには々とやってもらいたいことがあるのですよ」
「うん」
「給水所の設備強化や凍結防止……。この村はまだまだ問題を抱えているんです。特に冬がきたら大変なんですよ。だから私専屬では困るんです」
「うん」
「返事は大きくなのですッ!」
先輩面したロロがエクリに絡む。
しかし、ジッとエクリに見つめられたロロがかすかに怯んだ。
「す、しは小さくてもいいのです」
「ロロちゃん。エクリちゃんを怖がらせちゃダメですよ」
「そもそもロロのほうが年齢が下だろう」
アイリーンが言う通り、ロロの威勢はの丈に合っていない。
しかも怯んだのはロロのほうである。
それでもロロは負けじとエクリから目を離さない。
子どもながらにエクリの得の知れなさがわかるのだ。
村長が戸うように、ロロもエクリにどう接していいのかわかっていなかった。
「エクリちゃん。この村に住むからには皆さんと仲良くしてください。皆さん、とっても優しいので、エクリちゃんが困ったときは絶対に助けてくれますよ」
「……うん」
「村長もエクリちゃんは悪い子じゃないので、どんどん頼ってください」
「うむ……それはいい。いいのだがメディよ、あれはどうすればよいのだ?」
村長が指した先には村の野菜を丸かじりするニトとエルメダだ。
その食べ方はどこか意地汚い。
「こ、こんなもので懐されるほど安くねぇッスよ!」
「ハン! いつまで強がっていられるかな! この味に陥落するのも時間の問題だってハッキリわかんだね!」
「こんなものは傭兵をやってた時にも……むしゃむしゃむしゃむしゃ!」
「アイリーンさんにあんたのことを見張れって言われてるからさ! こうなったらとことん村の魅力を叩き込んでやるさ!」
アイリーンがエルメダにそう告げたのは事実だ。
このままでは食い意地を張ったのが二人になるが、アイリーンはあえて止めなかった。
村の人口が増えて悪いことはない。
村の魅力とやらとたっぷりと知った上で働いてもらおうとアイリーンは目論んでいた。
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