フィルノーツ士學校の生徒たちが特設新鋭軍への配屬が決まり、人員補充は順調。ヴァルトルーネ皇の挨拶も終わり、俺とヴァルトルーネ皇は、次に會うべき者たちの所へと向かう。

「ヴァルトルーネ様、アルディア卿」

途中、リツィアレイテとの合流も行った。

彼は、特設新鋭軍のトップ。

故に、これから會う面々との最初の話し合いに參加するのは當然のことであった。

「それで、引きれた人たちのことだけれど」

歩みを進める最中、ヴァルトルーネ皇はこれから會う人についての話を切り出す。

俺もその部分は気になっていた。

帝國軍とはいえ、その規模はかなり大きい。

誰がるかは特に重要だ。

「アルとリツィアレイテ將軍は、會ったことがある人たちだと思うわ」

「え？」

「はい？」

告げられた一言に思わず二人して驚いたような返事を返してしまった。

「あのルーネ様」

「何かしら？」

「俺が會ったことがあるというのは……」

「ええ、大という意味よ」

──大、つまりは帝國軍でもかなり上層部の人間ということ。

特設新鋭軍の設立の際には、何人かと顔を合わせた記憶がある。

しかし、それだけのポストに収まっている人間が、こんなにも簡単にこちら側に流れてくるものだろうか。

考えにくい話だ。

例えば、帝國軍に所屬していて俺が今、最も関わりのある人といえば、騎竜兵隊副隊長のリーノス。

かなり気難しい格で、馴れ合いは好きではなさそうな雰囲気。

そんな彼が特設新鋭軍に加するというのはあり得たりするのだろうか。

脳で、彼が特設新鋭軍に加するシチュエーションを思浮かべる。

『はぁ、ヴァルトルーネ様はともかく、アルディア=グレーツ、それからそこの。何故、貴様らのような平民と一々顔合わせなどしなくてはならないのだ』

『ふん、何故この俺が平民の下で働かなければならないのだ！　帝國軍にいる方がまだマシだと言えるぞ』

『貴様の命令に従い、頭を下げるなど死んでもお斷りだ』

──ないな。絶対にリーノスは特設新鋭軍にらない。

脳で思い浮かべただけでも、彼がリツィアレイテの傘下にり、大人しく指揮されていることが想像出來ない。

まず、彼は何より貴族としての誇りがある。

貴族、平民のり混じる特設新鋭軍は、彼にとって居心地の良い職場とは言い難い。

ヴァルトルーネ皇の命令となれば、話は変わってくるが、彼が無理やり囲い込もうと躍起になるとは思えない。

「検討も付きません」

「私もです」

俺とリツィアレイテは互いに思い當たる節がなかった。

そんな俺たちを見て、ヴァルトルーネ皇は苦笑いを浮かべる。

「會えば分かるわ」

そう言って、俺たちの前を歩く。

「アルディア卿、分かりますか？」

リツィアレイテは眉を顰め、怪訝そうに聞いてくる。

俺は、當然分からない。

基本的に帝國軍の人との関わりは薄い。

特設新鋭軍とは、リツィアレイテやフィルノーツ士學校の友人が多くいることから、共に仕事をする機會は多數あるが、基本的に俺はヴァルトルーネ皇の専屬騎士。

彼の下で働くことが最優先だ。

「分かりませんね。帝國軍の人だと、リーノス卿、ドルトス卿辺りとは、時々顔を合わせますが……他の方となると、殆ど話す機會すらないです」

「そうですよね。私は過去に騎竜兵隊に所屬していましたが、ひょっとしてその頃同じ隊で働いていた方でしょうか？」

リツィアレイテを呼び出した時に、俺は彼の所屬している騎竜兵隊の訓練所に赴いたが、お世辭にもヴァルトルーネ皇が気にいるような人はいなかったように思う。

「……きっとそれは、ないと思いますよ」

「どうしてですか？」

「あの隊は貴の価値を正確に把握していなかったので、そんな方々では、到底ルーネ様の目に留まることはありません」

「──ありがとう、ございます」

リツィアレイテの実力はび代も考慮すれば、破格のものだ。

それを知らずに、彼を雑兵の一人として數えていたあの隊に魅力的な者がいるはずがない。

いや、一人いたか。

リツィアレイテと共に、特設新鋭軍の最前線で活躍しているブラッティが。

しかし、彼はもうこちらにいる。

となれば、過去に二人が所屬していた隊に人を求める理由はない。

「俺は當然の評価をしたまでです。あの隊の中で、俺の目には貴しか映らなかった。それは、リツィアレイテ將軍だけがあの場で輝いて見えたからです」

「そ、そこまでですか……？」

「ええ、槍捌き、騎竜の扱い、統率者としての資質……どれを取っても、貴以上の逸材は見つかりませんよ」

まだまだ経験深いとは言えない。

それでも、今現在、リツィアレイテは急速に実力をばしている。

かつて、俺と互角に渡り合ったリツィアレイテと同等か……もしくは、それ以上に強くなるものだと思っている。

リツィアレイテは顔を反対側に向ける。

その表を窺えないが、耳がし赤くなっているようなじがした。

「その……アルディア卿。私は、貴方に見つけてもらえて良かったです。貴方に出會えたことで、私の人生は大きく変わりました」

リツィアレイテらしくないくらいにか細い聲で、彼は言う。

謝されるようなことはない。

彼の実力を買ったから、彼に會いに行ったのだ。

「あの時、會いに行かなくとも、いずれ巡り合っていたと思いますよ」

「そ、それって？」

「それだけ、俺はリツィアレイテ將軍のことを凄いと思っています。貴がだろうと、平民だろうと……その実力があれば、遅かれども上に立つ存在になったはずですから」

間違いない。

過去にヴァルトルーネ皇の専屬騎士になれるほど強いリツィアレイテに、一般兵としての人生など似合わない。

自分の槍の腕に誇りを持ち、その真っ直ぐな気持ちを貫き通して貰いたい。心の底から、そう思う。

二日連続！