帝國軍には大まかに５つの分類がある。

・最もスタンダードな兵士を寄せ集めた、歩兵師団。

・機力と見回りに優れた、騎兵師団。

・鉄壁の守りを見せ、要塞の防衛に欠かすことのできない、重裝兵師団。

・攻撃、防衛、支援など幅広い作戦遂行が可能な魔のスペシャリスト、魔師団。

・帝國軍の伝統的な強さの象徴、騎竜兵師団。

所屬ごとにそれぞれの個は濃く反映される。

それは、部隊の雰囲気でもそう。

例えば、実力よりも家柄を優先する風のある騎竜兵師団。その中の騎竜兵隊の一つに所屬したならば、平民などに大きな機會は訪れない。

──リツィアレイテが、その一例だ。

「著いたわ」

帝城からし離れた場所にある館。

門の前にいた帝國の兵士はヴァルトルーネ皇が現れるなり、その鉄格子の門を開いた。

「さあ、行きましょう」

當たり前のように前に進んでいく。

俺とリツィアレイテは言われるがままに付き従う。

この場所は有名なところだ。

館に続く長い道、広大な中庭には杖を持ったの銅像が立っていた。

「ダグラス侯爵家の持家……ここ、帝國軍魔師団長の滯在場所です」

リツィアレイテは早々に勘づいたようだ。

そう、ここは帝國軍のトップ、魔師団を統べる要人の一人、エピカ=フォン=ダグラスが寢泊まりしている館だ。

「ルーネ様、まさか……！」

「そのまさかよ。エピカには特設新鋭軍にってもらうわ」

衝撃的過ぎる話だ。

しかし、門兵が軽々しくヴァルトルーネ皇を通したのを拝見するに、事前に話し合いの場を設けているのだろう。

──向こうも乗り気なのか？

分からない。

ヴァルトルーネ皇の発想も驚きであるが、なによりエピカの判斷が理解出來ない。

彼とは前世で會ったことがある、敵同士として……。

あの時も、彼は魔師団を率いていた。

あの厄介な魔力量は忘れられない。

無數に飛んでくる魔の雨。

実力は、リツィアレイテにし劣るくらい。しかし、今現在のリツィアレイテよりはほんのしだけ強いだろう。

魔においての天才。

エピカとは、帝國軍でも大きな存在を殘していた。

「ルーネ様、エピカ卿が軽々しく帝國軍を離れるとは思えないのですが」

誰もが疑問に思う所。

彼がいなければ、帝國軍の一翼が大きく揺らぐ。

「安心してちょうだい。エピカだけではないわ」

「はい？」

「もう一人いるという意味よ。騎兵師団長のダグラスも、今回こちらに引き込む人なの」

斜め上の解答だ。

確かに、今の帝國軍にかつてほどの力は存在していない。

ヴァルトルーネ皇は特設新鋭軍を優先的にかして、組織としての地位の転換を促している。

それにしたって、帝國軍が長年この國を支えてきたという事実に変わりはない。

だからこそ、そうも簡単に中樞に位置する人間をかせるのかと思ってしまった。

「ダグラス卿……！　あの方は確か、帝國軍では特にヴァルトルーネ様に好意的な方だと記憶しています。憶測の域を出ない噂みたいな側面もあったと思いますけど」

リツィアレイテの答えに、俺も気付いた。

「鋭いわね。そう、私はもう彼らのことを手のに収めているわ。今回は異後の事後確認をするためだけなのよ」

ヴァルトルーネ皇の言葉からして、これは規定事項。

前々から布石を打っていたのだろう。

忙しなく皇帝としての業務をこなしながら、こうしたところにも抜かりなくアプローチをかけていた。

別件の仕事に手を取られていた俺は、全く気付けなかった。

「一、どうやって……？」

「簡単な話よ。元々帝國軍の業務遷移も、人材異も、私が皇帝となったのを機に彼らと共に計畫していたこと。帝國軍は歴史ある組織だけれど、その分古い考えの貴族や縁者が多くを占めている。そんなもの、扱いにくくて手に余るわ」

だから、優秀な人間を特設新鋭軍に移していくのか。

帝國軍には、保守的な考えを持つ貴族、その縁者を殘す。

伝統を重んじる者たちにとって、特設新鋭軍など認めるに値しない組織。

そういう者たちは、進んでこちらにってきたりはしない。

その結果、帝國軍は、の良い隔離施設みたいな存在になると。

「なら、抜け殻になった帝國軍は……」

「暫くはそのまま。名ばかりの組織になるけれど、々と都合が良いから殘しておいて損はない」

「実質的に特設新鋭軍を新たな帝國軍に據えるのですね」

「ええ、帝國軍は貴族が幅を利かせていた分、軍費の無駄も多かったから、費用の圧にもなるのよね」

ヴァルトルーネ皇の考えは當初から変わっていない。

彼はこのヴァルカン帝國をより良い國にしたいと願っている。

そのためならば、悪しき伝統などは切り捨てる覚悟がある。

後世に託す明るい未來をむからこそ、彼は進み続けられる。

「服しました。ルーネ様」

「ありがとう。そう言ってもらえて、嬉しいわ」