エピカ=フォン=ダグラス。

ルドルフ=フォン=アーガス。

帝國のに明るくなくとも、この二人の名を知らない者は殆どいない。

帝國軍の輝かしき活躍の立役者。

共に魔師団長、騎兵師団長を務める彼らは、その名に恥じない活躍をしている。

帝國軍を語る上で、なくてはならない存在なのだ。

そんな彼らは、

「お久しぶりです。ヴァルトルーネ様」

「ご無沙汰です、陛下」

帝國軍を抜けようとしていた。

▼▼▼

対面した時の空気はとても重かった。

というのも、俺とリツィアレイテが異様に張していたからである。

リツィアレイテは、以前帝國軍に屬していたことから、彼らのことは勿論知っている。彼の所屬は騎竜兵師団だったので、直屬ではないものの、頬の強張りが抜けきれていないのは明らかであった。

……そして、俺もかなりガチガチに固まっている。

理由はリツィアレイテのものとは全く違う。

今世において、俺はこの二人との接點はあまりなかった。チラリと顔を見た程度、挨拶をわした程度。

それほどまでに関わってはこなかった。

しかし、俺はこの二人のことをちゃんと知っている。

戦い方も、格も、のも……。

俺は過去にこの二人を殺したから。

戦の世であったとはいえ、剣で無慈悲に切り刻んだ。

彼らの片をバラバラに飛散させた。

そんなことがあったのだ。

気まずくて仕方がない。

勿論、向かい合う二人はそんなことは知らない。この世界では、まだ起こっていない悲劇であるのだから、知らないのは當たり前のことだ。

このことを知っているのは、俺とヴァルトルーネ皇だけ。

口が裂けても言えないことだ。

「それで、ヴァルトルーネ様の橫にいるのが……ああ、専屬騎士のアルディア卿。それから、今まで恵まれなかった天才騎竜兵のリツィアレイテ……」

エピカは素直にそう言葉をぶつけてくる。

特に反論はない。

値踏みするような視線をけながらも、俺は顔を変えないように心掛けた。

「アルディア=グレーツです」

「私はリツィアレイテです」

俺とリツィアレイテが名前を告げると、エピカとダグラスは軽く會釈を返してきた。

「よろしくね、二人とも」

「今後は世話になる」

やはり、二人は既にヴァルトルーネ皇が囲い込みに功している。接し方も心なしか、らかいもののようにじた。

「それにしても、ヴァルトルーネ様は、いかにも強そうな人たちを揃えているのですね」

口を開いたエピカは、指で髪を巻きながら告げる。

「そう思う？」

「ええ……それも、恐ろしい程に、ね」

「そうかもしれないわね」

わした言葉に含まれた意味は非常に曖昧なもの。

そのままエピカは姿勢を楽なように崩した。

「まあ、その話は後回し。今後は共に働くんですから、話す時間は沢山ありますもんね」

微笑み、その場を立ち去るエピカ。

こちらに視線を向けないまま、手だけをヒラヒラと振っていた。

「ルドルフ、後は全部任せるわ」

「おい！」

「昨日は夜遅くまで働いていたから、寢不足なのよね〜」

摑めない人だ。

ルドルフは若干苛立ちめいた表を浮かべたが、慣れっこなのか深いため息を吐き、首を振った。

「たく。あいつは相変わらず勝手な格だ」

苦労人だなぁ。

自由人に振り回される側は、こちらが想像している以上に疲労を溜め込みやすい。

立ち去ったエピカの後には、靜かな空気が漂っていた。

張も、何もない。

エピカという衝撃的なが全てを掻っ攫っていった。

やがて、ヴァルトルーネ皇は口を開く。

「ルドルフ、こちらは貴方が報を共有してくれれば構わないわよ」

「はぁ……そうですね」

エピカやルドルフが多忙であるのは簡単に想像できる。

彼の告げた「寢不足」というのも、的外れな容ではないのだろう。

それを態度に表さなかっただけ。

……本當にそうなのかは、彼にしか分からないが。

「陛下、僭越ながら申し上げると……あのの適當な格を矯正した方がいいですよ」

「苦労しているのね」

「はい。他の人が想像している以上に」

「そうね……考えておくわ」

まあ、ヴァルトルーネ皇なら放置しそうだな。

ルドルフの願いが葉うのはみ薄。

その長い付き合いをかれからも継続していってほしい。

「それで、ルドルフ。話は戻るけれど、貴方とエピカは特設新鋭軍に加することになった。それに伴って、配屬先も決まったわ」

ヴァルトルーネ皇が手を後方に差し出す。

「リツィアレイテ」

「はい、こちらです」

リツィアレイテは特設新鋭軍の配屬に関する資料をヴァルトルーネ皇に渡した。

「……そう、空きポストはかなり多いのね」

「そうですね。統括部門や士候補生育部門の上位役職は埋まっていますが、一般兵部門、魔導部門、騎竜部門などの戦闘職代表となる人が決まっていません」

「なるほど。リツィアレイテ、貴はどう思う？」

「はい。ルドルフ卿には、一般兵部門の代表。エピカ卿には、魔導部門の代表を務めてもらうのが一番適切かと思います。帝國軍から他にも人を連れてくるのなら、尚更でしょう」

テキパキと話を進める二人。

そんな中で、ヴァルトルーネ皇は俺の方にも視線を向けてくる。

「ねぇ、アル。騎竜部門だけれど、帝國軍騎竜兵師団長をトップに據えるのは、どう思う？」

ルドルフ、エピカが特設新鋭軍の中樞を支えるのであれば、そちらに聲をかけることも可能としてあり得てくる。

だが、これは迷いなく答えられる。

「適切ではないと思います。彼を抱えるのは、リスクが大きいですから」

「そう……分かったわ」

考えをまとめたヴァルトルーネ皇は一息吐いてから、ルドルフに手に持っていた資料を差し出した。

「ということで、貴たちは特設新鋭軍が新たに設立した部門の代表になって貰うわ。その他の兵師団長とは恐らく一緒になることはなくなるけれど、質問はあるかしら？」

その資料にルドルフは手をばす。

そして、真剣な顔で真っ直ぐその資料を眺めた。

「いや、異論、質問はない。それで納得した」