《お月様はいつも雨降り》第四従四目
(イツキ……イツキ)
人形の群れからを隠すイツキの頭の中に直接、何かが呼び掛けてきた。
イツキは、他のみんなが隠れているコンビニの方を振り返ってみたが、人影はない。
(イツキ……隠れているのなら返事をして)
どこかルナの聲のようにも似ていたが、し違和があった。
(みんなをわたしが呼んだの……もう、時間がないの……イツキ、お願い、出てきて)
イツキは迷ったが、自分が姿を見せることで、マサハルたちが助かるのならと思い、勇気を出してがれきの後ろから立ち上がった。
人形たちは一斉に音をそろえイツキの方にを向けた。
「僕はここにいる」
イツキがいた場所に一の人形が近付いてきた。
(イツキ……會いたかった……)
それまで顔の無かった人形の頭部にルナの顔がぼんやりと浮かびあがった。
「ルナ……なんでそんな姿をしているんだ」
(本當のわたしはここにいない……本當のわたしはここにはいない)
「本當のわたしって、だってルナ、ルナなんだろ!」
イツキは人形の前に走り出ていた。
(お願い……時間がないの……渦から生じたこの人形たちを通じてイツキに伝えたいことがあったの)
「時間がないって、ここはどこなの?どうしてルナはここにいないの?」
(ここはみんながいた時からの先の世界……どうしてもイツキには見ておいてほしかった世界)
イツキは頭を抱えた。
「こんなのって悪い夢じゃないか!」
(悪い夢じゃなくて、これは今おきていること……)
「それでもいい!なんでもいいよ!だから、ルナ!戻ってこい」
(もう、わたしは戻れない……けれど、そのためにこうやって力がしだけ分けてもらうことができる)
「分けてもらうって……誰から?」
(時の客人……)
「まろうど?」
(すべてをる技を手にれた時間の絶対者……それは大昔から神様とも呼ばれていた)
「神様?」
(ううん、神のフリをした……悪魔のような生き)
「それを止めれば、それを止めればいいのか」
人形は靜かにうなずいた。
(イツキと一緒に……いてくれる人)
人形の群れの後ろの方から一の大きな人形がイツキに近付いた。
その人形は自らの両腕で自分の腹を中心から真橫に引き裂いた。
のようなドロドロとしたの中から全の子供が地面に落ちた。
「ボウ!」
顔以外のが粘に覆われたボウは呼吸を辛うじてしていたが、イツキが何度呼び掛けても返事はしなかった。
(ボウくん……誰にも盜られないように、わたしの中で守っていたの、みんなのところに屆けるために)
ボウは一の小さな人形をしっかりと自分ののところで抱えていた。
(その人形も連れて帰って……その意味をイツキやボウくんなら分かってくれる)
「ルナ、帰ろう!」
イツキの脳裏を爪で引き裂かれたような景が飛び込んできた。
それは大きなミートボールのようなの塊が一列に並んでいた。その塊、一つ一つの正面に小さな顔のようなものが付いている。
そのうちの一つの顔がルナだった。その塊から小さな人間の形をしたものが分裂して離れるように下に落ちていく。
離れ落ちたは今、イツキの前に並んで立っている人形だった。
(人を創り時間を自由にスリップさせる技を得た時、その世界に天國も楽園もなくなるの……)
イツキは失した。歯をガチガチと鳴らし、気絶するボウを支える手は大きく震えた。
「イツキから離れろ!」
イツキからし離れた場所に石や折れ曲がったパイプを持ったマサハルたち全員が立っていた。
「イツキに手を出してみろ、僕はゆるさないぞ」
ヒロトがんだ。
「違うよ……みんな……違うんだよ」
ボウは蚊がとぶようなかすれた聲でいきり立つみんなを制した。
(この人形たちの力を使ってみんなを戻してあげる……でも、これが最後……わたしの生んだ人形の力を全部使ってしまうから……となるわたしも……でも、よかった……ずっと、探していたから)
金屬がこすり合うような音が周囲に響き渡る。
「ルナ!ルナ!」
イツキのびは聲にならなかった。
「イツキが何か言っている?」
ヒロトは逃げもせずに人形を見つめたままのイツキが不思議だった。
「人形に顔のようなものが付いている」
しかし、ヒロトのところからは遠くてよく見えなかった。
誰かの顔のようにも見える人形の頭部から渦のようなものが生じ、徐々に広がっていく。
(さようならボウくん……イツキを助けてあげてね……また、みんなで……)
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壁の崩れた場所からライトのが揺れく。
「不明シャトル一臺確認しました、乗車する複數の児の姿も確認、すぐに救助作業にります」
「ここだけ天井が崩落しなかったんだな」
「擔架が必要だ!すぐに手配を!」
消防や警察など合同で災害級の実験事故があった『トキノマチ』の生存者を捜索していた。
見學に參加していた子供たちにも多くの死傷者が出た中で、これだけ複數の児が無事に生存していたことは夕方のニュースでも大きく報じられた。
事故があってから丸一日経っていたが、シャトルで生存していた児の服や髪のはもう何日も経っているような狀態のように救助隊の目には見えた。
救助されたうち、意識の戻らない男児一名を除いて皆、大きなケガもなく、意識もはっきりしており、あの狀況下で奇跡とさえ言われた。しかし、同じグループにいたと思われる児の発見にはまだいたっていない。
後日、あの巨大施設でどんな実験をしていたのかということがマスコミの一番の話題となったが、その原因を探ることは不可能であった。
様々な國が絡む國際的な施設なので、國連の調査も思うようには進んでいなかった。
隣のエリアで開催予定だった科學博覧會は急遽中止に決定。
海外からの渡航客に期待していた通や観産業にとっては大きな痛手となった。
マスコミの目は奇跡的に救助された子供たちとの接が試みられたが、それもプライバシーの壁に阻まれ思うような記事を書くことができなかった。
噂では施設に関係する者の近親者も含まれていたという噂が挙がっている。
病院の一室で醫者や看護師が見守る中、背広姿の男ふたりに男児が質問されている。
「君の名前はシジマ・アキツくんでいいんだよね」
若い男の聲は優しい。
「はい……」
「アキツくんは友達と『トキノマチ』に行ったこと覚えている?」
「トキ……覚えていません」
もう一人の男は児が笑顔で寫った寫真を男児に見せた。
「そうか、それならこの子のことを知っている?」
男児は寫真を見たが、首を傾げた。
「……知らない子です」
「なら、この子は?」
「知りません」
続けて何枚かの寫真を見せても男児は無反応だった。そのような短い質問のやり取りが二十分ほど続いた。
「もう、このへんでよろしいでしょうか」
白の醫者に促されて、背広姿の男はその場を離れた。
男児はまた一人ベッドに橫になりかなくなった。
「ドクター、あの子の記憶が戻ることはないのですか」
「解離健忘癥と思われますから時間は非常にかかります、他の患者の癥例からも戻らないということは十分にあり得ます、脳波等の検査やカウンセリングは定期的な継続を予定していますが、薬による治療はこの子の年齢からも行いません、まぁ、それらによりどう治療効果が進展するかは現段階では何とも言えないのが実です」
「今は回復の見込みなし……そうですか、分かりました、また伺う時に連絡いたします」
二人の男は醫師に一禮をして帰っていった。
「あの方たちは警察ですか?あまり見ない顔ですね」
看護師が何気に醫師に聞いた。
「一人が総務省、一人が防衛省だとさ」
「え?そんな人たちが來るのですか?」
看護師は驚きの表を見せた。
「ああ、今回の大きな事故はただの事故じゃないということだろうな、余計なことは考えないで、我々は患者を診てあげればよい、余計な詮索をすると警察に捕まってしまうかもしれないぞ」
「いやだ、先生ったら」
看護師は醫師の冗談に笑いながらもしだけ顔をひきつらせた。
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