《【書籍化】雑草聖の逃亡~出自を馬鹿にされ殺されかけたので隣國に亡命します~【コミカライズ】》ルナティック・シンドローム 05
偽りの聖を造りだした大規模儀式魔陣は、ルカが長剣の一閃で祭壇――正式には魔壇と呼ばれる裝置に埋め込まれた月晶石を破壊した事でその力を失った。
あのを吸収する月晶石である。ゲイルとルカが魔力の流れを解析した結果、それが核になっている事がわかったのだ。
破壊に使った長剣は、ジェラルドが使っていたものだ。
ルカが元々使っていた剣は折れてもう使いにならない。そのままジェラルドの剣を拝借するらしく、ルカは長剣を鞘に収めると腰のベルトに固定した。
そしてまだ座り込んだままのマイアの傍にやってくると、その場に膝を付いて目線を合わせてくる。
「マイア、その首、見せてもらってもいい?」
「えっ、うん、どうぞ」
許可を出すと、ルカの顔がこれまでにないくらい近付いて來て、不覚にもドキドキした。
ルカへの気持ちはキリクで拒絶された時に吹っ切ったはずなのに。助けに來てくれた事で、やっぱり良いなと思う気持ちが再燃する。
「組み込まれてる式が複雑すぎて俺では無理だ。後でゲイルに外してもらおう」
「おじさまなら外せる?」
「ゲイルは元々魔の研究者だし、魔力の制能力も気持ち悪いくらい高いからたぶん外せると思う」
そう告げながらルカはを離す。それが名殘惜しい。
ゲイルを含めた生存者の姿は既にここにはなかった。
ネリーは暗示の支配下にあるジェラルドが人攫いの手から救出した被害者として連れて行ったし、ゲイルはトリンガム侯爵を連れて魔書を燃やしに行った。
焚書(ふんしょ)が終わったら、ゲイルは一緒に攫われてきた人たち全員にマイアを忘れるよう暗示をかけてからこちらに合流する予定になっている。
「マイア、魔陣が気になる?」
何だか気まずくて力を失った魔壇を見つめていたら聲をかけられた。
「ううん、そっちじゃなくて……暗示の魔をかけられたネリーが気になって。ちゃんと何日かしたら正気に戻るのよね?」
「ああ……さっきも言ったけど、ゲイルは魔力制が上手いからたぶん大丈夫だよ」
神作系の魔は、針のに糸を通すような魔力の制能力が求められ、誰にでも習得できるものではないと聞いた事がある。
「ゲイルはすごい魔師なのね。あんなに簡単に人の神に干渉するなんて……悪用すれば何でもできそう」
「ゲイルは確かに優秀だけど、ネリーって子や侯爵が簡単に暗示がかかったのは、意識が朦朧としてたのと、月齢の影響があると思う。健康な人間相手だと抵抗されるからかなり苦労するし、永遠に効果が持続する訳でもない。月が痩せてきたら暗示の魔自かけるのが難しくなるはずだ」
新月の事を失念していた。確かに月が痩せてきたら、魔の効果は落ちるから、大掛かりな悪事に使うことはできなさそうだ。
「疑問は解決した? ……そろそろここを出たい」
「ごめんなさい。聞きたい事は他にもあるけど、それは後にする」
マイアを知っている人間は、侯爵に仕える使用人も含めるとかなりの人數になる。その全員を誤魔化すことができるのだろうか。ゲイルの魔力は持つのだろうか。また、魔陣を破壊したことでティアラやアベル率いる討伐遠征部隊にはどんな影響が出るのだろう。
疑問は山のように浮かぶ。でも今はその一つ一つを確かめている場合ではない。
「じゃあ行こう」
ルカに聲を掛けられ、マイアはこくりと頷いた。
◆ ◆ ◆
マイアが閉じ込められていた建は、トリンガム侯爵家がカントリーハウスとして使用している城らしい。
領都の北に位置する小高い丘の上に建てられた城は、元々國境を守る為に作られた砦だったらしく、あちこちがり組んでいてまるで迷路のようになっていた。
ルカは地下室を出る前に、生きの気配を探知する魔を自分にかけた。
その魔のおかげでどうにか誰にも見つからずに建の外には出られたものの、城壁に空けられた弓用のから見えた景にマイアは気が遠くなった。
城のある丘の上から眼下に広がる市街地までは、城壁が何重にも取り囲んでおり、小さな山のような地形もあいまって簡単には降りられない構造になっている。
地下室から外に出るまでの道のりで既に息が上がっており、ここから街までの距離を考えると、それだけでくらりと目眩がする。
力のないひ弱な自分がけなくて悔しい。
「マイア、乗って」
はあはあと息をつくマイアを見かねてか、ルカはその場に跪いて背中をこちらに向けてきた。
「待って、私、疲れてるけど流石に運んでもらうほどじゃないわ」
合法的にルカに引っ付くチャンスなのに思わず遠慮したのは恥心が勝ったからだ。
「そういう意味じゃない。ここからは壁を乗り越えていくから」
「は?」
ぽかんと呆気にとられたマイアに、ルカは服の袖をまくって右の手首にはめた腕を見せてきた。
「これ、魔力の糸を出す魔なんだけど、こいつを使って壁を越えて街まで降りる。マイアに糸を伝ってよじ登る腕力はないだろ?」
「それはどうだけど……」
「見ての通りここから麓までは城壁のせいで迷路みたいになってる。それなら壁を越えて最短距離で移するのが一番早いし人にも見つからない。俺に著するのは嫌かもしれないけど、ちょっとの間我慢してしい」
「い、嫌じゃない! ただ、ちょっと恥ずかしくて……」
顔が熱い。きっと赤くなっている。そんなマイアに引き摺られてか、ルカもほのかに顔を赤く染めた。
「俺だって恥ずかしいよ。こんな汚れてるのにの子と引っ付くなんて」
ここで恥じらうのは卑怯である。可らしい系統の顔立ちのせいであざとさすらじる。
「あ、魔で綺麗にすればいいのか」
「大丈夫! そこまでしなくていい! 街に著くまで魔力は溫存した方がいいでしょ!」
こうなったらやけくそだ。役得と思う事にして、マイアはルカの背後に回った。するとルカは、背負いやすいようその場にしゃがみ込んでくれた。
「ごめんルカ。こんな議論してる場合じゃなかった」
「こっちこそ汗臭かったらごめん」
「そ、そんな事ないよ」
むしろいい匂いがする。
格好いいだけじゃなくていい匂いもするなんて反則だ。
香水の類を使っている気配はなかったから、このどこか爽やかな匂いはルカ自の匂いなのだろう。
「……あんまり嗅がないでしい」
「ごめんなさい」
咎められてマイアは再び頬を染めた。
おずおずと首に腕を回すと、ルカはしっかりとした手つきでマイアのを持ち上げた。
目の前にルカの頭が來てつむじが見えた。
細に見えても男の人だ。肩幅も背中も想像していたよりもずっと大きくて、男の格差を実する。
「重くない?」
「全然重くないよ。強化魔の発中だし」
ルカがこちらを見た。頭がいてふわふわの髪のがマイアの顔にれた。
「なるべく怖くないようゆっくり行くけど、舌を噛まないように気を付けて」
「わかったわ」
「右手外すよ。しっかり摑まってて」
前置きしてからルカは右手を外し、左手一本でマイアを支えた。しだけ不安定になったので、マイアは慌ててルカにしがみついた。
背中の筋のが伝わってきてドキドキする。
ルカは右手を真っ直ぐ上に掲げると、魔の腕を起させた。
すると金の糸が腕から出され、城壁の上の方に撃ち込まれた。
糸の強度を確認するように、ルカはくいっと右手を引く。
そして問題ないと判斷したのか、その場で姿勢を低くした。
「跳ぶよ」
前置きしてから一気に跳躍する。
「きゃ……」
予告されていたのに悲鳴がれかけて、マイアは慌てて口を噤(つぐ)んだ。を噛み、目をぎゅっと閉じて聲を出さないための努力をする。
一瞬の浮遊の後に著地の衝撃が伝わってきて、ようやくマイアは目を開けた。
「大丈夫?」
「うん。ちょっとびっくりした」
ちゃんとこちらの様子を確認してくれるルカは紳士だ。
「一回降ろす。し休もう」
「ううん、そのまま行って。どんなじかはわかったから」
「本當に平気?」
「うん」
マイアはルカの首に回した手に力を込めた。
「しんどくなったら教えて」
「うん。ありがとう。ルカは優しいね」
やっぱり、すき。
それを思い知らされてマイアはこっそりとため息をついた。
◆ ◆ ◆
二度、三度と跳躍を繰り返すうちに、上下移の獨特の浮遊に慣れてきて、目が開けられるようになった。
そして実したのは、ルカの能力の異様な高さだ。
城壁や頑丈そうな木の幹に撃ち込んだ魔力の糸を巧みにり、壁も崖もお構い無しに乗り越えていく姿は野生のみたいだ。
小さな山と言い換えてもいい丘の上からの景は綺麗で、きに慣れてきたら爽快を覚えた。
でじるルカの熱がおしくて、このまま時が止まればいいのにと思う。
マイアはこっそりとルカの髪に顔を寄せた。ルカの髪は見た目通り細くてらかい。
「すごいね。空を飛んでるみたい」
「浮遊の魔が使えたらもっと楽に逃げれたんだけどね」
「使えないの?」
「使えるけど適正的に魔力消費が馬鹿にならなくってね。見兼ねたゲイルがこの魔を作ってくれたんだ」
會話をわしている間にも、どんどん市街地が近付いてくる。
最後の城壁を乗り越えて、ルカの背中から降りるのが名殘り惜しかった。
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