《【書籍化決定】読家、日々是好日〜慎ましく、天無に後宮を駆け抜けます〜》室と火の玉.2
今回はザクッと前半、後半に分かれてます。
前半は里帰り中心に、後半は湯煙連続殺人事件
「二日前に泊まった宿で聞いたんだ。この辺りにはに赤い花を咲かせ、顔が焼け爛れたの幽霊が出ると。そのが男を攫いにきて、居なくなった男の部屋の天井には無數の手形が殘されていたと」
二日前、と言えば山向こうの溫泉地に宿をとった。獨特の匂いがする溫泉が湧き、昔からちょとした観地となっている。
どの土地にも風土記というものがあり、この付近の風土記なら全て読み漁っている。その中には逸話も含まれているけれど、赤い花をに咲かせた幽霊の話は書かれていなかった。読んだ本の容は全部覚えているので間違いない。
「川面に火の玉が飛ぶ。部屋の中に無數の手形が浮かぶといったあれだ」
「あぁ、あれですか」
それなら知っている。
確か、と言いながら寢臺に腰掛け語り始めた。
深夜、千鳥足で男が川辺を歩いていると、若いの聲が聞こえてきた。初めは気のせいだと思っていたけれど、どうもそうではない。何だか自分を呼んでいるように思えた。男は聲に導かれるように、ふわふわとした足取りで進んだ。
はっと気づいた時には川の中にいた。水は膝まであり気を抜くと腳を取られ流されそうだ。の聲は先程より大きく聞こえる。川の上にふわりと浮かぶ火の玉を見て男は我に帰り慌てて川を這い上がった。
その日の夜は家につくと、布団を頭から被り眠った。
次の朝、痛む頭に顔を歪めながら目覚めた。目にってきたのは見慣れた天井。しかし、そこには昨日まではなかった手形がひとつ。ぺったりと天井に張り付いている。男はヒッと聲を上げ部屋を飛び出した。
その夜、男は別の部屋に布団を運び直接床に敷いて寢ることにした。男が住むのは二間続きの借家。古くはない、建てられ十五年ほどで傷みもなく隙間風がることも、雨りがすることもない。
朝起きて、男は悲鳴を挙げた。昨晩までなかった手形が天井に二つ。それからは晝夜続けてどんどん手形が現れてきた。
ある日男は姿を消した。中にった借家の主は腰をぬかした。見上げる天井には水に濡れた手でペタリと押されたようか手形がいくつも浮かんでいた。
話終えると、相変わらず布団を頭から被った白蓮を見る。よく見れば手だけだして明渓の著の端を握っている。
「それだ、その話だ」
「に赤い花が咲いたの話ではないですよ?」
「そうだが、それ以外は梨珍が話していたのと同じだ」
「梨珍さんから聞かれたのですか」
「あぁ、あいつはその手の話が好きでな。昔、無理矢理聞かされたものだ。……無理矢理なのは今回も同じだが。怪談本なんかも埋もれるほど持っているぞ」
明渓の肩がピクリとく。趣向はどうあれ本好きは本好きに寛容だ。是非仲良くなりたい。読んだことがない本があれば貸してもらいたい。
ところでだ、
「その話が怖くて寢れないのですか?」
フッ、と笑いながら明渓が言うと白蓮はかばっと布団から起きた。
「そ、そんな訳ないだろ。その話だけでは」
「ですよね。子供じゃないんですから」
「當たり前だ。でも実際に怪現象が起きていたら話は別じゃないか?」
「……やっぱり怖いのですね」
「だから、違うと……」
白蓮は口をぎざぎざに閉ざした。その様子をみて明渓はくすくすと笑う。
「分かりました。火の玉の謎は解きましょう。だから自分の部屋で寢てください」
「!! 解けるのか?」
「私の予想が正しければ。しかし、証拠がありません。明日、それを探してみます」
聞いてしまったは仕方ない。そして、謎の正に心當たりがあれば、見逃す訳にはいかない。産はともかく、火の玉はちょっと放っておけない狀況だ。
次の日、明渓は伽藍の裏、墓地の前で……飛去來(ブーメラン)を握っていた。火の玉のことを忘れている訳ではない。明渓の中でちょっとこちらの方が優先順位が高いだけだ。
「こちらが昨日頼まれた品になります」
自然薯採りの男に銀子を渡し、明渓と春蕾はくの字型のそれをけ取った。使い込まれているけれど手れもされている。昨日男が使っていたと同じ大きさのを春蕾、し小ぶりなを明渓がけ取った。
「投げても良いか?」
返事が返ってくるより早く明渓が投げる。飛去來は右方向に緩く曲がりながら飛び、ある程度したところでくるりと向きを変えた。しかし、手元に戻ることなく四尺ほど手前でポトリと落ちた。
続いて春蕾、こちらは予期せぬ方に飛んでいく。
「おい、俺のは違う方へ飛ぶぞ」
「旦那、飛去來を寢かせ過ぎです。もうし立てるようにして投げてください」
「春兄の持っていた本にもそう書いていたわよ」
「お前、相変わらず気持ち悪いくらい記憶力がいいな」
口をへの字にしながら、春蕾は明渓をじろりと見る。もっともそんなこと、明渓は気にしない。すでに何度も繰り返し投げている。
「では私はこれで」
立ち去ろうとしている男に明渓は聲をかける。
「道の墓地側にある石垣が崩れてかかっていると聞きました。明日にでも総點検しますが、気をつけてください」
「……総點検、分かりました。ありがとうございます」
山の中央には墓地がある。山道はそれより六尺ぐらい下がった位置をずっと山頂まで続いている。
山道からは墓石の上すら見えない。土砂が崩れないように斜面には石が積み重ねられ石垣ができている。とはいえ、綺麗な石垣ではない。々なや大きさの石で雑に作られたで、表面はでこぼこだ。王都の石垣のようにつるりとはしていない。
しかし、これでもましになった方だ。昔は石垣がなく土がわになっていた。大雨の後、土が崩れ土から人骨が飛び出したことがあった。道を歩いていると、手の骨が橫から突き出していたと祖父が言っていたのを思いだす。
「総點検、そんな話が出てるのか?」
「多分、明日か明後日あたりすると思う」
明渓はぶん、と飛去來を投げながら答える。
一刻程練習したが、春蕾は上手くできない。どんな剣でも扱える彼にとってこれは不満らしい。眉間の皺が深くなっている。
「持ち方を変えたらいいんじゃない?」
背後に周り、春蕾の手や腕にれながら持ち方や腕の振り方を指南する。
「何?」
「いや、それなりに長しているんだな。音叔父が心配するわけだ」
何故、ここで父が出てくる。明渓が訝しげに首を傾げた時だ。
「何をしているんだ?」
背後から低い聲がした。
「せ、青周様!」
春蕾が慌てて頭を下げる。
「お前は確か明渓の従兄弟だったな。々慣れ親しくしすぎではないか?」
「申し訳ありません。兄弟のように育ったもので、慎むべきでした」
(私は侍だから問題ないと思ったけれど、ここには妃嬪として來ているんだった)
それなら帝以外の男と親しくするのはご法度だ。しまった、と思いながら青周を見ると、何だかイライラしている。比較的、冷靜沈著な彼にしては珍しい。
「青周様、私からも謝罪いたします。ついつい飛去來に夢中になりました」
「ほう、これはどうした」
「自然薯採りから買いました」
「……かなりの量の説明を端折っていないか? 俺が祭祀をしている間、何をしてたんだ」
呆れながら、明渓の手元から飛去來を奪うと、ヒュッと墓地に向かって投げる。それはくるりと向きを変え、吸い込まれるように青周の手に戻ってきた。
「さすがです。青周様、教えてください!」
両手の指を元で組み、目をキラキラさせながら青周に詰め寄る。満更でもない青周に対し春蕾は青い顔で狼狽える。
「おい、明渓。青周様に対してそれは失禮……」
「構わぬ。普段から剣の手合わせもしている。いつものことだ」
(いつも?)
そんなに頻繁に手合わせはしていない。何故、誇張する。丈夫は、まるで春蕾を牽制するかのような表をしている。
「羨ましい……」
ぼそりと呟く春蕾の言葉に、青周の顎がし得意気に上がった。しかし、春蕾は明渓と手合わせができるのが羨ましいわけではない。青周と手合わせしている明渓が羨ましいのだ。武にとって青周は憧れの人だ。
「明渓の専屬護衛は暫く良い。伽藍の警備に加われ」
「はい。失禮いたします」
春蕾は(青周を)名殘惜しそうに何度か振り返りながら、その場を立ち去っていった。
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