《【書籍化決定】読家、日々是好日〜慎ましく、天無に後宮を駆け抜けます〜》12.産に興味はないけれど.2
後宮にったは通常外には出れない。帝の計らいで、公務として地元を訪れることはあっても、常に侍や武が目をらせている。これは勿論、妃嬪が他の男と會するのを防ぐためだが、妃嬪側から見ても、の潔白を証明する人が大勢いるわけで悪い話ではない。そう、通常は。
しかし、明渓は違う。妃嬪ではなく侍なのだ。だから、伽藍を出たとして何の問題もない。でも、今回は訳あって妃嬪のふりをしている。明渓を妃賓だと信じている武もいる手前、そうそう簡単に外出はできないのだ。問題はそこの折り合いをどうつけるかだ。
「大丈夫です」
「そうでしょうか」
余裕の笑みを浮かべる梨珍を訝し気に明渓が見る。
「明渓様が帝の寵妃でなく、後宮の事件を解決した褒としてここに來ているのは皆知っております。それに見張りの武は全員青周様の部下。青周様が特別に許可を出したと言えば問題ありません」
「しかし青周様は今祭祀の最中です。勝手に許可が出たことにし外出しては後々問題になりませんか?」
「その心配はございません。青周様は明渓様に甘いですから」
ふふっと笑われては、どう返答すればよいか分からない。とりあえず曖昧に笑っておいた。何はともあれ外出できるなら良いか、と思うことにした。
「分かりました。では、妃賓の服に著替えます。梨珍さん、手伝ってください」
そう言うと、明渓は仏像の一つを袂に隠し、大堂を後にした。
梨珍が手配した馬車は、半刻ほどで目的地に著いた。仙都の西の方にある、大きな屋敷が立ち並ぶその場所で、一際年代の屋敷だった。馬車を降りた明渓は、迷うことなく屋付きの立派な門を潛って行く。
「明渓様、ここまで來て今更ではあるのですが、いきなり訪れて人嫌いの藤右衛門が會ってくれますでしょうか?」
「作業が手の離せない段階であれば待たされることはあるでしょうが、會えないということはありません」
斷言する明渓を梨珍は不思議そうに見る。はったりや適當なことを言っているようには見えないけれど、なぜそれほどまでに斷言できるのか分からないのだ。
庭を歩いていると、庭師の老人がいた。明渓達を見つけ、向こうから近づいてくる。
「明渓様じゃないですか? お久しぶりです。が、……すぐに戻りください! 無斷で抜け出したとあれば……」
「大丈夫!! ちゃんと許可は貰ってあるから! それより……今、作業中かしら?」
眉を顰める庭師に、明渓は庭の左奧の建を指さした。そこが鍛冶場となっている。
「一刻程前に仕上げの作業にられましたから、そろそろひと段落すると思います。ちょっと聲を掛けてきますので、先に中にっていてください」
「ありがとう。居間で待っていると伝えて」
庭師はひょこひょこと鍛冶場に向かった。明渓はそのまままっすぐ進み、躊躇うことなく屋敷の扉を開けた。そして慣れ親しんだ家のように居間へと向かい、梨珍に長椅子を進めたのだ。
「庭師とも知り合いなのですか?」
「ええ、子供の頃から。ちょっとお茶を用意させるので待っていてくださいね」
そう言って明渓は部屋を出て行った。これまた迷うことなく臺所にいく。
「あれ、明渓様じゃないですか!」
下が手拭いで手を拭きながら走り寄ってくる。
「やっぱり、抜け出したのですか?」
「許可を貰ったのよ」
やっぱり、とは何だか。失禮な、と思いながら湯を沸かすように頼んでいると、勝手口が開き息を切らせた藤右衛門が顔を出した。
「やっぱり伽藍を抜け出している!! 見つかったらどうするつもり!?」
「違うわよ。ちゃんと許可を貰ってきたわ」
だから、なぜ、やっぱりなのかと、口を尖らす。しかも、久しぶりに會うなり怒られた。全くもって言いがかりだと、不貞腐れる明渓を、それでも藤右衛門は疑い深く見る。
「だから、本當に許可を貰っているわ。侍と一緒に馬車で來たのだから」
その言葉をきいて、藤右衛門と下はホッと息を吐いた。
「それなら良かった、ところで事件の解決に盡力して帝から褒に帰省を賜ったと聞いているけれど、お通りは?」
「謁見はしたけれど、通いはないわ。今のところ計畫通りよ」
すでに計畫通りではない。じろっと顔を覗き込んでくる藤右衛門から明渓は視線を避けた。昔からやたら観察力がありが鋭い。ちょっとしたいたずらや隠し事なんかもすぐにばれて怒られていた。今回もここが正念場だとかに気合をれる。
下がれたお茶を盆にのせ、年季のはいった廊下を歩き居間の扉を開けると、梨珍が慌てて立ち上がった。お茶の乗った盆を持とうと手をばす。
「申し訳ございません。明渓様にお茶を用意させるなんて」
「気にしないで。ここの臺所は良く知っているから」
梨珍の視線が明渓の背後でぴたりと止まる。
「あの、明渓様の後ろにいらっしゃる方は?」
「この方が十八代目藤右衛門よ」
その言葉に目をパチパチとさせ、梨珍は藤右衛門を見つめた。絹のような濡れた黒髪、き通るようでありながら弾力のある白い、そして扁桃に似た形の良い黒目がちの瞳。明渓によく似たがそこにいた。
「……では、藤右衛門は、しかも明渓様のお母上であったのですか」
「先代までは全て男でしたが、子が私しかおらず止む無く後を継ぎました」
(止む無く、なんて噓だ)
明渓は知っている。母が心底、刀鍛冶の仕事が好きなのを。放っておけば丸二日飲まず食わずで打ち続け倒れたこともある。何かに沒頭すると周りが見えなくなる素質もしっかりとけ継がれている。
「それで、人前にあまりお出にならないのですね?」
「刀鍛冶を信用しない商人や武はなくないですからね。ですから、帝や東宮から聲を掛けられたこともありましたがお斷りいたしました」
(それは半分噓だ)
今なら、なぜ母が帝に會いたがらなかったのかは分かる。そしてそれは長年皇族に仕えている梨珍も同じようだ。
「英斷かと存じます。明渓様そっくり……いえ、明渓様がお母上に似たのでしょうが、その白いを若い頃の帝が見ていれば、夫がいようが國屈指の刀鍛冶だろうが、強引に後宮に引きれていたことでしょう。でも、東宮にまで會われなかったのはどうしてでしょうか?」
「私は今年三十五歳になりました。東宮とさして年齢が変わりません。父親と同じ好みを持つ息子は珍しくないですからね」
そう言って、母は明渓を意味深な目で見た。どうやら、父親からいろいろと聞いているようだ。
「確かに、帝のご趣味はしっかりと皇子達に引き継がれているようです」
こちらも意味ありげに明渓を見てくる。
(居ずらい)
昔からよく來た母の生家なのにとても座りが悪い。ちなみに明渓の生家はここから僅かばかり歩いた場所にある。母親は昔から二つの家を行き來して暮らしていた。
とりあえず、話がそれる前に要件を切り出すことにした。足元に置いていた風呂敷を長卓に置くと結び目をほどいく。すると一の仏像が現れた。こっそりと懐にれて持ち出したあの仏像だ。それの裏側の刻印が見えるように仏像を橫に倒して置く。
「これを作ったのはお母様よね」
「そうよ、義兄様に頼まれてね。まさか、あなたが持ってくるとは思わなかった。いったい伽藍堂で何をしているの?」
「産探しを頼まれたから暇つぶしに探していただけよ」
「暇つぶしね……ところでこれは何処にあったの?」
明渓ははて、と首をひねる。三の仏像を鏡の前に置いたまではよいが、長さや重さを測っているうちに、どれがどの部屋のものか分からなくなったのだ。
「青周様の寢室か、白蓮様の寢室か……」
「……明渓、を掛けるなとは言わないけれど、兄弟同時はよくないわ」
ずいっと顔を近づけ真剣な目で諭された。言いがかりだ。火のを振り払っているのは自分の方だと言いたい。しかし、余計なことを話すとそこから妃賓でないことがばれかねない。実に不本意だ。
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