《【書籍化】世界で唯一の魔法使いは、宮廷錬金師として幸せになります ※本當の力はです!》42.ミア様の訪問③
「わー。めっずらしいお客さんじゃん」
レイナルド様の言いつけで四人分の夕食を手に現れたクライド様は、珍しいといいながらずいぶん落ち著いて……というか面白がっていらっしゃる。
レイナルド様は腕組みをしたまま座っていらっしゃって、ミア様はニコニコと微笑んでいた。いつもとは違う雰囲気が気になりながら、私はそのバスケットの中からお鍋を取り出す。
「き、今日は何でしょうか……!」
「サーモンとポテトのグラタンに、フィーネちゃんの好きな焼き立てパンだって。クリームチーズと生ハムもついてるから、オープンサンドにできるね」
「わぁ……! デザートもあります」
今日はデザートにシナモンロールがついている。甘くスパイシーな香りに鼻をくんくんとさせていると、私とクライド様を互に眺めていたミア様が大聲で喚いた。
「何それ。サンドイッチにグラタンにデザート⁉︎ 食堂のメニューよりよっぽど豪華なんだけど⁉︎ アンタ、いくら平民の出だからってご飯目當てでここに通ってたわけ?」
「…………!」
ち、違います……! と思ったけれど、最近では半分ぐらいあっている気もする。
ちなみに、レイナルド様からの明確な敵意を認識したミア様は、かわいらしい『ミア・シェリー・アドラム』の顔を封印されたらしい。
そして、すぐに答えられなかった私を見て、一どういうことなのかレイナルド様は気をよくされた様子だった。
「フィーネに食事の楽しさとおいしさを教えたのは俺だからな」
「レ、レイナルド様、本當にありがとうございます」
「レイナルドは本當にフィーネちゃんに甘いよな。最近は俺への冷たさが際立って悲しーわ」
「……お前とフィーネへの扱いが同じはずないだろう?」
私たちのやりとりを凝視していたミア様が私の耳元でボソッと呟いた。
「……アンタ、玉の輿いけるんじゃない?」
そんなに大それた冗談は本當にやめてください。
そのまま、流れでミア様はバスケットの中を覗く。そこにはほかほかのパンとシナモンロール。歓聲を上げるのかなと思ったけれど、その反応は意外なものだった。
「……デザートって、シナモンロールなの……?」
さっきまでの図太さが噓のように、強張った聲と表をされている。
「は、はい。お嫌いでしたか?」
「嫌いじゃないわ。大丈夫よ、こんなの」
けれど、その表も口調も、ただ嫌いな食べを前にしただけのようには見えない。複雑そうで、ひどく強張った顔。
どうしたのかな……。
しして準備が整い、珍しいメンバーでのディナータイムが始まった。
いただきます、と手を合わせた後で私は早速グラタンにフォークをれる。
こんがりと焼け目がついたチーズがとろけた先に、サーモンとじゃがいもが重なっている。一緒にフォークにのせ口にれると、クリーミーな味わいが広がった。
「じゃがいもに生クリームを合わせているのでしょうか……? 濃厚でおいしい……! 加えてサーモンの塩気がとってもいいじです。使われているハーブはローズマリーですね。味に深みが、」
「フィーネちゃんのその分析聞くの久しぶりだわ、まじで。休暇、楽しかった?」
「はっ……はい、それは」
クライド様が突っ込んだ質問をしてくるので、レイナルド様とダンスをしたり湖畔で魔法を使ったりいろいろやらかした自覚のある私は努めて平靜を裝う。
いつも、私に答えてくださるのはレイナルド様。けれど、今日はニコニコと微笑んでいるだけだ。そして、私の隣に座ったミア様のことを注意深く見ているのがわかる。
このアトリエに來たばかりのころ、いつもドキドキしていて伝えたいことがなかなか言葉にならなかった。
そんな私を変えてくれたのが、この食事の時間。ミア様を仲間にするつもりはないけれど、普段たまに見せる翳りのある表がとても気になる。
もしかして、魔力空気清浄機の生をお手伝いしてくれようとしたことと何か関係があるのかもしれない。
あまり関わりたくはない方だけれど、ミア様は工房では私を助けてくださることもある。私も『フィーネ』としてなら、何かミア様にできることがあるかもしれない。
まずはとにかく、今日の夕食もとってもおいしい。この冬の間に味のレベルが3まで上がってしまうかもしれない、と張った私は、隣のミア様の様子に驚いた。
「⁉︎ ……ミアさん、お口に合いませんか」
「……おいしいわよ」
「では、どうして」
どういうことなのか、ミア様のお皿のグラタンもサンドイッチもあまり減っていないのだ。
王宮の廚房で作られるご飯はとてもおいしいはず。どうしたのかな、と心配した私にミア様は口を尖らせた。
「私、食なの」
「……」
アカデミーにいた頃、ミア様はそんなに食が細かったかな……。
そう思っていると、私たちの空気を察したクライド様が間にってくださった。
「あ、わかった。デザートのシナモンロールが食べたいんでしょ? 甘いものが好きなんて、ミア嬢もやっぱりの子だね」
「違いますわ。シナモンロールは殘してはいけないのよ」
「……」
いつも想のいいミア様のつっけんどんな答えに、私は首を傾げる。
ふざけているのかと思ったけれど、ミア様は顔をこわばらせたままかなかった。
本當に、何か様子がおかしい気がする……。
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