《【書籍化&コミカライズ】創魔法の再現者 ~『魔法が使えない』と実家を追放された天才年、魔の弟子となり正しい方法で全ての魔法を極めます。貴方の魔法は、こうやって使うんですよ?~》120話 正解

「……貴方の事は、概ね聞きました」

エルメスが語る。

自分が逆立ちしても屆かなかったあのカルマに容易く魔法戦で拮抗し、自分ではまず不可能だっただろう時間稼ぎと分析をなんでもないことのようにし遂げた年は、語る。

「気持ちは理解できますが……それでも、一人で戦うことには限界があると思います」

「……」

「僕も、気がついたのは最近のことなので偉そうには言えませんが。単獨での戦いは、人間である以上どうしても限界があるんです。とりわけあれは僕でも倒せるか分からない、今の王國の人間で単で勝てる人がいるかも分からない程の強敵だ。……周りを頼っても、何ら恥じるところはありません。僕もそうするつもりです」

「……ああ、そうなのかもしれないな」

肯定の言葉をけて、エルメスは続ける。澱みなく、語り続ける。

「貴方の目的は、カルマの打倒ですよね。自分の行で王國を振り回した贖罪のために、そして自分の力でも何かができると証明するために」

ああ。

「であれば、尚のこと僕たちを頼ってください。これまで奴を押しとどめ、奴に関する報を得ただけでも十分な果だ。その上で自分以外の人間に頼り、適切に人を使って任せるのも、一つの戦果の在り方ではないでしょうか」

ああ、本當に。

「リリィ様は、そうしてここまで辿り著きました。今までのこの國では無かった、力無くともせる王の在り方を示してここまで來ました。貴方もそれをすことが出來れば、間違いなくそれは『貴方の力』です。だから──」

「なあ」

──いい加減にして、しかった。

「今すぐその口を閉じてくれないか?」

「!」

地の底から絞り出すような言葉に合わせて、エルメスが口を噤む。

……恐れたわけではないだろう。単純に驚いたことと、こちらの言うことを聞いた形だ。

彼の表には、こちらを嘲るなど欠片もない。しの疑念と、心からのヘルクを案じるだけが浮かんでいる。

つまるところ、悪気など欠片もなく本心から善意百パーセントで言っていて──尚更に、苛立ちが募った。腑が煮え繰り返るほどにしい言葉だった。

「『気持ちは理解できる』? 寢ぼけたことを抜かすな。理解できないよ、他人の心なんて。とりわけお前のような人間に、僕たちのような人間の気持ちは」

ゆらりと立ち上がる。暗い念を宿した瞳で、彼の綺麗な翡翠の瞳を見據える。

「生まれた時から、僕は何かの代替だったんだ」

「……え」

「空の魔のようになることだけが存在価値と定められ、それは無理でも頑張ろうとした矢先に優秀な第二王子に全てを持っていかれた」

眼前の年の境遇も聞いている。エルメス・フォン・フレンブリード。魔法の名家の神にして、家を追い出されたのち遙かな魔法の力を得て帰ってきた規格外。

聞いた瞬間、心から同した──彼の兄君のほうに。

「それで、ようやく何かになれると思って挑んだ継承戦ですらお前が目をかけた候補(リリアーナ)がそう決まっていたかのように臺頭し、対して僕は最初から利用するためだけに擔ぎ出されてその通りに踴らされて捨てられて。結局、僕自の愚かさのせいで何一つ殘っちゃいない」

「……」

「──それで? その上で尚、お前は僕にこうしろと言うのか。命を懸けて、最後に何かの爪痕を殘したくて挑んだものすら橫合いから掻っ攫って、『君には無理だから後は僕たちに任せてすっこんで見ていろ』と? それで僕はどうすれば良いんだ、『助けてくれて、僕に出來なかったことを代わりにやってくれてありがとうございます』と笑顔で拍手でもすれば良いのか、それが正しいことなのか」

正しい。

自分で言ったその言葉に対しても、どうしても苛立ちが募る。

「ああ、正しいよエルメス。お前の言ったことは一から十まで全て正しい。良いなぁ、それをできる力のある人間で。自分にとっての正解が世界にとっての正解で、自分のみが世界のみと何もかも一致している人間は!」

彼の能力を、あらゆる魔法を再現できるものだと聞いた時、思った。

──そんなの、ない。まるで退廃するこの國を救うために、魔法で決まるこの國の秩序を破壊して果を丸ごと自分のものにして、自分だけがたどり著ける高みに上り詰めることが約束された──まるで(・・・)世界に(・・・)選ばれた(・・・・)ような(・・・)ものじゃないかと。

分かっている。どうしようもなく、理解している。

自分の非力を認めて、愚かさをれて。あの魔を獨力で打倒するのはどうあっても不可能だと事実を認識し、それができるだろう眼前の男に、そして第三王派に全てを明け渡すのが正解だと。この上なく正しい判斷だと言うことは、分かっているのだ。

「それで、やっぱり違うんだなと納得して。何の生産もない行為はやめてできる奴に譲って、あの魔を倒すために自分を押し殺して、お前たちの足を引っ張らずに貢獻するのが正しいって!」

そうして、何者にもなれない自分は最初から最後まで落ちこぼれだったと。そういう人生を認めてこの先生きてくたばるのが、正しいんだ。

「僕のやっていることは、王族としても人間としても、個人としても間違いの極みだ。

じゃあさ……なぁ、聞けよ。答えてみろよ、エルメス」

既に、援軍は到著している。つまり第三王派閥の全員がこの場に到著し、エルメスと自分のやりとりを見守っている。どうしようもない本音を、愚かで醜い慟哭を聞き屆けようとしている。

──知ったことか。むしろ好都合だ、全員聞いて行け。

そんな自棄に近い思考と共に、けれど聞いてほしい、答えてほしいとの切実な願いを込めて。

ずっとに留めていた暗い本音を、ぶ。

「──人間は(・・・)、正しい(・・・)ことしか(・・・・)しちゃ(・・・)いけない(・・・・)のか(・・)!?」

「──」

その、問いだけは。

エルメスのを穿ったことが、彼の反応から分かった。

「はっきり言ってやる、僕はお前が大嫌いだ。本當の意味で選ばれた力を持って、自分のみはいつだって世界から肯定されて。誰がどう見ても間違っているものだけを心のままに斷罪できる、正しい行だけをしていれば良いお前のことがッ」

ぐらを摑み上げる。

別にこいつを毆れるだなんて微塵も思っていないけれど、それでも。何故かされるがままのエルメスに、歯を食いしばって全てをぶつける。

「そんなものが、人間であってたまるか。じゃあ僕たちはどうすれば良いんだ、笑ってお前の行を肯定して庇護下にるか、無様に喚いてを突き通してお前に斷罪されるか、そのどちらかしか突きつけてこなかった──いいや、結果的に全てそうなってきたんだろう!?」

「ッ」

エルメスの顔が歪む。

それを見ると、どうしようもなく昏い愉悅に浸される。

そんなヘルクを止めるものは、止められるものは誰もいない。力量ではなく神的に皆が圧倒されて、また彼を止めるにはあまりに優しすぎるものが多すぎたから。

そんなエルメスに向かって、とどめとばかりにヘルクは。

「最高の侮辱をプレゼントしてやろうか──お前は(・・・)アスターの(・・・・・)完形だよ(・・・・・)。自覚行も無自覚行も全て最後は正解に収束する、いざとなればその力で全部勝手に辻褄を合わせる類の存在だ。僕たちもそうするし、この先もずっとそうしていくんだろう! なぁ答えてみろよ、この化──」

けれど、そこで。

この場の誰もが予想だにしなかった人が、驚くほどの速度で橫合いからり込んで。

そのまま、一切の躊躇なく。多分他の誰にも不可能だっただろう程の遠慮のなさで。

──ヘルクの顔面を、毆り飛ばした。

「……え」

思わず呆けた聲をあげるエルメスの前で、結構な勢いでヘルクが吹き飛んでいく。

驚きと疑念の表を浮かべて、エルメスはその當人を見據え。

「──ああ。言っておくけれど貴方を助けたわけじゃないわ、混じりっ気一切なしの本気で。むしろ心的には向こう寄りね、私も貴方のことは大嫌いだもの」

この場にいること自が意外だった、彼の名を呼ぶ。

「ただ……それ以上に、うちのお兄様の八つ當たりが聞くに堪えなかったから」

「……ライラ、殿下」

艶めく金髪を靡かせて、々お転婆と言うには苛烈すぎる行をした彼──第二王ライラは、行とは裏腹に複雑そうな表を覗かせたのち。

「……ま、言葉自には割と共できちゃう部分も多々あるところが困りだけれど……でも、それ以上にあの愚兄が甘ったれなのも間違いないわ」

というわけで、と聲を切り替えて、エルメスに背をむけヘルクの方に向き直る。

「まぁ、ここは私に任せてちょうだい」

「え」

「というか、多分私にしか無理だわ。……お兄様の気持ちが貴方にはわからないってところも同意よ、エルメス。あの類の心境は、本當に恵まれてきた人間には理解できない」

「っ……はい」

そう言われると、エルメスも引き下がらざるを得ない。正直なところ、言葉の數々をける中で彼自それを朧げながら実してしまっていたから。

大人しく下がったエルメスに、そこでライラは何を思ったかし聲をらかくすると。

「話が早いわね、謝するわ。……それに、ね。私、普通の家族ってものにずっと憧れてて。だから一回、やってみたかったのよ──」

しく凪いだ聲に、しだけ挑発的な、好戦的な気配を滲ませ、告げる。

「──兄妹喧嘩、ってやつ」

それで、何をするつもりなのかはおおよそ悟った。

今度こそライラにお任せして下がるエルメスを他所に、ライラは再度聲を切り替えて。

「さぁ、というわけでお兄様? あの時の謁見の間ぶりかしら、近くにいると聞いて可い妹がわざわざ會いにきて差し上げましたわ。というわけで、久々に、兄妹水らずで」

にっこりとした表とは、聲とは全く裏腹に、拳を固めて構えるような作と共に。

こう、告げるのであった。

「お話(・・)、しましょっか」

次回、ライラ対ヘルク。王族のお話も絡める予定です。

更新は10/1(土)を予定しております。一週間空きが続いて申し訳ございませんが、その次辺りからはペースを戻せるように頑張ります、お待ちいただけますと嬉しいです……!

『創魔法』三巻、現在発売中です!

畫面下部の畫像リンクから書籍コーナーに飛べます。

例によって一部立ち読み+口絵も見られるようになっているので、

よろしければ是非是非購をご検討いただけるととても嬉しいです……!

今後とも、『創魔法の再現者』をよろしくお願いいたします!

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