《【書籍版4巻7月8日発売】創造錬金師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-》第209話「帝國領での出來事(16):皇太子と大公の新制」

──十數日後、帝都で──

「さすがは魔王領。こちらの意図に気づいたようだ」

皇太子ディアスは苦笑した。

ここは、帝都の高會議。その會議場。

ディアスは高たちに、魔王領から屆いた書狀を示していた。

『魔王領の錬金師トール・カナンと、大公國の領主であるソフィア・ドルガリアどのには、以前より婚儀(こんぎ)の約束があった。

大公カロンどのに婚儀について相談したところ、大いに賛同してくださった。

直接の主(あるじ)である大公カロンどのの許可を得て、ソフィアどのは魔王領に嫁がれた。

なお、魔王領でのソフィア・ドルガリアどのの分は、魔王ルキエ・エヴァーガルドの義理の姉妹となる。

これは、ご本人の意思を尊重し、大公カロンどのの許可を得た結果である。

ソフィアどのは皇位継承権(こういけいしょうけん)を持たず、皇籍(こうせき)からも外されるとうかがっている。

ゆえに、書狀でのご報告とさせていただいた。

若き者たちの門出(かどで)を、どうか、祝福していただけるように願う。

魔王ルキエ・エヴァーガルド』

──書狀には、そのようなことが書かれていた。

「ソフィアがトール・カナンの妻となり、魔王ルキエ・エヴァーガルドの義理の姉妹となる……つまり、トール・カナンは魔王とも結婚するということだ」

皇太子ディアスはため息をついた。

「これはもう、手の出しようがないね。作戦は失敗だ。魔王領には、よほどの切れ者がいるようだ」

ディアスの目的は、トール・カナンを帝國に取り込むことにあった。

リアナ皇を留學生として、魔王領に送り込むのはそのためだ。

魔王領にいる人間はトール・カナンだけ。

リアナは彼を頼るようになるだろう。

自然と、ふたりは親になっていくはずだ。

その後は、リアナを通じてトール・カナンを説得する。

あるいは策を弄(ろう)して、トール・カナンが帝國と通じているように見せかけてもいい。

そうすれば魔王領の者たちも、彼を疑うだろう。

トール・カナンは魔王領に居づらくなるはずだ。

そうすれば帝國は、トール・カナンを取り戻すことができる。

魔王領を発展させた技を、手にれることができるのだ。

それがディアスの、ひそかな策だったのだが──

「魔王の夫となるトール・カナンには、手の出しようがない。まったく、彼はとんでもない出世をしたものだね。魔王ルキエ・エヴァーガルドと、その臣下の発想にも恐れるよ」

皇太子ディアスは肩をすくめた。

「帝國より追放した錬金師が魔王の夫となり、帝國が『不要姫』と判斷した姫君が魔王の義理の姉妹となるのだからね。まったく、魔王領は本當に予想のつかない國だ」

心している場合ではありませんぞ! 皇太子殿下!」

のひとりが聲をあげた。

「皇帝陛下のご息が魔王領に嫁がれるなど──」

「ソフィアに皇位継承権(こういけいしょうけん)はない。帝國が彼を離宮(りきゅう)に閉じ込めていたのは周知の事実だ。その上、高會議は彼を『不要姫』だと判斷して、大公國の預かりとしたのだろう?」

皇太子ディアスは淡々と告げる。

「そのソフィアが魔王領に嫁いだからといって、文句を言うわけにはいくまい」

「では、帝國と魔王領との政略結婚にするのはいかがでしょうか」

別の高が異論を述べる。

「ソフィア殿下の皇籍(こうせき)を戻し、改めて皇位継承権(こういけいしょうけん)を付與するのです。その上で魔王領の錬金師と、帝國皇の結婚とすれば──」

「一蹴(いっしゅう)されるだろう。今さら、と」

「……ですが」

「今さら取り戻せはしないのだよ。錬金師トール・カナンも、妹のソフィアも」

皇太子ディアスは宣言した。

晴れ晴れとした口調だった。

(わかっていたのだ。この程度の策が通じないことは)

帝國は『強さ至上主義』のせいで、錬金師トール・カナンを失った。

今さら小細工したところで、取り戻せるはずがない。

けれど、ディアスは帝國の皇太子だ。

通じない策だとわかっていても、試さずにはいられなかった。

その理由は──

「この失敗は、後世への戒(いまし)めとすべきだろう」

皇太子ディアスは高たちを見回して、告げた。

「我々が不要だと判斷した者たちを、他國が得た。彼らを取り込み、大きな力としたのだ。帝國はそのことを忘れずに、常に戒(いまし)めとしなければならない。さもなければ、また同じことを繰り返すことになるだろう。有用な人材の流出が続けば、帝國が誇る『最強』も、いずれは崩れ落ちるかもしれないからね」

『強さ至上主義』を改める。

たちの意識を変える。

ディアスが行ったのは、そのための策だった。

功すれば、帝國はリアナを使って、トール・カナンを取り返すことができる。

失敗すれば、帝國はトール・カナンを失ったことを思い知ることになる。

どちらにしても、ディアスにとっては問題ない。

ソフィアまで失ってしまったのは、手痛い誤算ではあったのだけれど。

「……確かに、皇太子殿下のおっしゃる通りかもしれません」

「……我々は、空飛ぶ魔王を見ております。その隣にいた、トール・カナンも」

「……あれがトール・カナンの力だとしたら、我々は、とんでもないものを失ったのでは……」

「これが結果だ。今後はトール・カナンにもソフィアにも、手出しすべきではない」

呆然とつぶやく高たち見ながら、皇太子ディアスは宣言した。

「繰り返す。今回の件を戒(いまし)めとして、我々は変わらなければならないのだ。その第一歩として、私は大公カロンどのを、相談役に任命することを決めたのだ。では……おりください。大公どの」

「失禮する。高の方々」

會議室の扉が開き、大公カロンが姿を現す。

大公カロンは、皇太子ディアスを守るように、その背後に立ち、

「カロン・リースタンである。これより私は、皇太子ディアス殿下の相談役を務めることと相った。共に、帝國の発展に盡くしていきたいと考えている。皆さま、よしなに」

「大公どのには私の補佐役として、様々な相談に乗ってもらうことになる」

皇太子ディアスは続ける。

「ソフィアは魔王領に嫁いだが、國境地帯が大公領であることは変わらない。ゆえに、魔王領との外についても、大公どののお力を借りることになる。むろん、帝國の軍事的な面でも」

「老骨(ろうこつ)ゆえ、お役に立てかどうかわからぬが」

「それを言うなら私は若輩者(じゃくはいもの)だ。一人前になるまで、指導していただかなければ」

「ならば、私は殿下に忠誠(ちゅうせい)を誓(ちか)うといたしましょう」

「「「…………元剣聖の大公どのが、殿下に……忠誠を」」」

皇太子と大公の親しげな様子に、高たちがため息をつく。

新しき帝國を作ろうとする皇太子と、元剣聖である大公。

そのふたりが強く結びついている様子に、國の変化をじたようだ。

「……確かに、帝國は変わるべきかもしれない」

「……皇太子殿下と大公どのが共に並んで進んで行くのが、新たな帝國の姿か」

「……これまで通りには行かぬ、ということか。やむを得ぬな」

たちは口々に、嘆(かんたん)の聲をらす。

皇太子ディアスは『強さ至上主義』を捨てると宣言した。

その方針に不満を持つ高もいる。

だが、ディアスをサポートするのは最強の元剣聖、大公カロンだ。

『強さ至上主義』は捨てても、帝國が『最強』を従えていることに変わりはない。

それが高たちの不満を打ち消したのだろう。

「では皆の者。今後ともよろしく頼むよ」

皇太子ディアスは安心したように、うなずいた。

大公カロンが補佐にることは、以前から決まっていたことだ。

けれど、まさか忠誠を誓ってくれるとは思わなかった。

これは、ソフィアの婚禮を、ディアスが認めたことへの禮だろうか。

だとすれば、ディアスはソフィアに助けられたことになる。

(結局、ソフィアは帝國の中に収まる人材ではなかったということか)

ならば、魔王領で幸せになればいい。

ディアスはソフィアに借りがある。彼が魔王領と親しくなっていたからこそ、ディアスは魔王やトール・カナンの力を借りて、リカルドたちの暴走を止めることができたのだから。

そんな彼が幸せになるのを、邪魔するわけにはいかない。

兄としても、皇太子としてのプライドにかけても。

(だからといって、魔王領に膝(ひざ)を屈するかどうかは、別の話なのだが)

そのための新制だ。

今は、魔王領の方が強くとも、10年先……100年先はわからない。

魔王領という強國の存在を意識しながら、を持って、帝國を発展させる。

それが、皇太子ディアスの方針だった。

「今後とも、よろしくお願いします。大公どの」

意。私と殿下の方針が一致する限り、お仕えすることを誓います」

「相変わらず食えないお方だ」

「おほめの言葉としてけ取りましょう。それより、早急にお決めになるべきことがあるのでは?」

「……そうでしたな」

皇太子ディアスは、高たちに向き直る。

「それでは、新制での最初の議題だ。妹が焦(じ)れているものでな。早急に準備を進めたい。『聖剣の姫君』であるリアナの、留學準備について──」

皇太子ディアスは次の議題を告げる。

大公カロンはディアスを守るように、背後に立つ。

堂々とした皇太子と大公の姿に、高たちが一斉に頭を下げる。

こうして、帝國の新制はスタートしたのだった。

【お知らせです】

『ヤングエースアップ』でコミック版『創造錬金師は自由を謳歌する』の第8話『健康増進ペンダント』が連載中です。

本日、第8話−2がアップされました。

ぜひ、アクセスしてみてください!

ただいま書籍版5巻の作業中です!

WEB版とはちょっと違ったルートにった5巻はどんなお話になるのか……ご期待ください。

公開できるようになりましたら、詳しい報をお知らせします。

    人が読んでいる<【書籍版4巻7月8日発売】創造錬金術師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました->
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください