《【書籍版4巻7月8日発売】創造錬金師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-》第210話「錬金師トール、妻にアイテムを渡す」

──帝國で會議が行われる十數日前。ソフィアが魔王領に到著した頃──

「ようやく來たな。ソフィア皇よ」

「お待ちしていました。殿下」

「到著を楽しみにしてましたので!」

『ノーザの町』を出発して、數日後。

俺とソフィアとエルテさんは、魔王城に到著した。

ルキエもメイベルもアグニスも、ソフィアを大歓迎してくれた。

もちろん、魔王領の人たちも同じだ。

ソフィアはアグニスの親友で、メイベルとも仲がいい。

替で易所の警備をしているミノタウロスさんにも、いい話し相手だ。

だから魔王領のみんなにとってソフィアは、理解者で友だちでもあるんだ。

そんなわけで、魔王城は歓迎一となり──

「「「ようこそいらっしゃいました。ソフィアさま!!」」」

「ありがとうございます! 皆さま!!」

ソフィアはうれしそうに、皆の歓迎をれたのだった。

俺が初めて見るような──無邪気な、子どものような笑顔で。

それから、歓迎パーティが行われた。

その場で、ソフィアは改めて、魔王領に來ることになった経緯(けいい)を伝えた。

もう、皇ではないのだから『ソフィア』と呼んでしいことも。

もちろん、留學生としてやってくるリアナ皇の事も話していた。

「妹がご迷をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いいたします」

ソフィアのその言葉に、みんなは拍手で応えた。

すでに魔王領にとってリアナ皇は、『帝國からの留學生』じゃなくて『ソフィア皇の妹』というイメージみたいだ。

そうして、俺たちは楽しいひとときをすごして──

その後はルキエが用意した部屋で、俺とルキエとソフィアの3人が集まり、これからについての話をすることになったのだった。

「しばらくは慣れないこともあるじゃろう。ソフィアよ」

ルキエは言った。

「必要なものがあったら遠慮なく、余やトールに伝えるがよい」

「ありがとうございます。魔王陛下」

「俺も全力で、ソフィアをサポートするからね」

「はい。だんなさま」

椅子に座ったソフィアは、すごくリラックスしてる。

不思議だった。

ソフィアは『ノーザの町』にいた時よりも、安らいでるように見える。

「……私は、魔王領に來ることが、夢でした」

俺の視線に気づいたのか、ソフィアはそんなことを言った。

「だんなさまと魔王陛下、メイベルさまやアグニスさまを眺(なが)めながら……ずっと、そのお仲間にれていただくことを夢見ていたのです」

「そうじゃったのか……」

「夢が葉ってしまいました。もうむことはありません」

「いやいや。これからだからね」

ソフィアは健康になったんだからね。

そんな『思い殘すことはない』みたいなことを言わないでね。

「大丈夫だよ。ソフィアもすぐに、次にしたいことが見つかるから」

「……だんなさま」

「うむ。そう思うぞ」

「こんなこともあろうかと、ソフィアの『したいこと』を見つけるアイテムを作っておいたからね」

「はい。だんなさま……って、え?」

「む、むむ?」

ソフィアとルキエが不思議そうな顔になる。

俺は続ける。

「ソフィアは魔王領に來たばかりだからね。俺の方で至らないところもあると思うんだ。でも、口にしづらいこともあるよね? だからソフィアの『したいこと』を知するアイテムを作っておいたんだ」

そんなにすごいものじゃない。

以前マジックアイテムを改良して、『応素材』を組み合わせただけだ。

「それがこの『応型(せいしんかんのうがた)・ロボット掃除機』だよ」

────────────────────

応型・ロボット掃除機』

(屬・闇・地・水・火・風)

(レア度:★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★☆)

ソフィア専用に作られた『蛇型・ロボット掃除機』

応素材』が組み込まれているため、考えるだけで作することができる。

オプションとして三角帽子が作られており、使用者はそれを頭に乗せることで、『ロボット掃除機』と接続する。

金屬と『魔織布(ましょくふ)』によって作られている、全長2メートル弱の蛇。

どんな形にもなることができる。

自在に変形する『線』なので、文章をかたちづくることも可能。

魔王領に來たソフィアのために、トール・カナンが作ったアイテム。

思考するだけでれるので、言いにくいことや、やりたいことを、簡単に皆に伝えることができる。

仮に変なことを伝えてしまったとしても、「いえいえロボット掃除機の暴走です。本心じゃありません」と『ロボット掃除機』のせいにすることもできるため、気軽に使える。

もちろん、掃除機としても優秀。

尾のところに『超小型簡易倉庫』がついているので、部屋いっぱいの荷を吸い込める。

まさに最強無敵の『ロボット掃除機』である。

理破壊耐:★★★

(攻撃されたとしても、使用者の思考に応じて素早く避けることができる)

耐用年數:5年以上。

────────────────────

「言葉にしにくいことも、この『応型・ロボット掃除機』なら、ソフィアの意思を察(さっ)して、表現してくれるよ」

「「…………」」

「そうすればみんなも『ロボット掃除機』のきを見るだけで、ソフィアがなにをしてしいのか『なんとなく』じ取ることができるよね? それでソフィアの意を察してくこともできるから、魔王領でのコミュニケーションもうまくいくと思うよ」

「「………………」」

「まずは使ってみてくれないかな? この三角帽子を被れば『応型・ロボット掃除機』と接続できるから。それでかしてもらえば、どんなものかわかると──」

「……だんなさま」

「……トールよ」

「はい」

あれ?

なぜかソフィアが、きらきらした目で俺を見てる。

ルキエは額を押さえてる。困ったような顔をしてる。

どうしたんだろう。

もしかして、このアイテムには、俺の気づかない欠點があるのか?

「トールよ。神でアイテムを作するのは、やめたのではなかったのか?」

ルキエは目を怒らせて、

「ケルヴが『応型・隕鉄浮遊(いんてつふゆう)ブレスレット』で大変なことになったのを忘れたわけではあるまい」

「もちろん、覚えています」

考えただけで空を飛ぶアイテムをにつけたケルヴさんは、飛行能力をまったくコントロールできなかった。

縦橫無盡(じゅうおうむじん)に飛び回った後で、氷の柱にぶつかって止まってた。

だから──

「そんな宰相閣下(さいしょうかっか)の努力を無駄にするわけにはいきませんよね?」

「えー」

「『隕鉄浮遊(いんてつふゆう)ブレスレット』は、飛びながら自分のきをコントロールするのが難しかったんです。自分が止まった狀態で、他のアイテムをかすのなら問題ないと思います」

「……確かに、そうかもしれぬが」

「それに、魔王領で暮らすソフィアをサポートするためのアイテムは必要になります。俺たちが、ソフィアの側にいられないこともありますからね。そんなときも、俺の作ったアイテムが、ソフィアの意を察する『使い魔』として側にいれば、ソフィアも安心するんじゃないでしょうか」

「…………う、うむ。そこまで考えておったのか」

ルキエは心したように、

「トールのことじゃから、思考でアイテムを作することに妙なこだわりを持ってしまったのかと思ったぞ。『思考での作はロマン』とか言ってな。じゃが、そんなことはなかったのじゃな。トールは純粋にソフィアのことだけを思って、これを作ったのじゃなぁ」

「……ルキエさま」

「いや、悪かった。誤解しておった。トールは『思考での作はロマン』などということを、かけらも考えてはおらなかったのじゃな。思考でのコントロールに、こだわりを持っているわけではなかったのか」

「あの……なんで二回も言うんですか?」

「そうかそうか。トールは『思考での作はロマン』なんてことは、まったく、かけらも考えておらず──」

「………………ごめんなさい」

俺は素直に頭を下げた。

……だって、ロマンがあるよね。『思考での作』って。

『例の箱』にってた勇者世界の書にも『思考制パワードスーツ』と『応式砲臺』について書かれていたわけだし。

俺はいつか、あのアイテムを再現しなきゃいけない。

今回作ったアイテムはその練習でもあるんだ。

もちろん、ソフィアが魔王領で暮らしやすくするためでもあるんだけど。

でも『思考での作はロマン』ってのも、確かに考えてた。

まさかルキエにその考えを読まれるとは思わなかったよ……。さすが魔王陛下だ。

「ふふっ。やっぱり、魔王領に來てよかったです」

気づくと、ソフィアが楽しそうに、笑ってた。

「魔王陛下も、だんなさまを怒らないであげてください。だんなさまは、私のことを考えて、このアイテムを作ってくださったのですから」

「う、うむ」

「それに、確かにこのアイテムにはロマンがありますものね」

ソフィアはそう言って『応型・ロボット掃除機』をなでた。

それから彼は、じっと、俺の方を見て、

「だんなさまは、この『ロボット掃除機』のきを見て、私の気持ちを察してくださるのですね?」

「うん。まぁ、それなりには」

「私の想いを察して、それをかなえてくださるのですね?」

「……うん。できる範囲で」

「…………あ」

どうしたのルキエ?

なんで目を見開いてるの?

すごくいいことを思いついた、みたいに手を叩いてるのは、どうして?

「トールよ!」

「あ、はい。ルキエさま」

「余に、予約をさせよ!」

「予約ですか?」

「そうじゃ! ソフィアの次は、余にこの『応型・ロボット掃除機』を使わせるがよい」

「え? しいなら、ルキエさまの分も作りますけど……」

「それでは間に合わぬ。今すぐに使いたいのじゃ!」

……そうなの?

でも、これはソフィアのために作ったものだからなぁ。

「ソフィアがいいと言うなら、構いませんけど」

「もちろんです」

ソフィアは『當然です』ってじで、うなずいた。

「よろしければ、先に陛下に使っていただいても……」

「それはできぬ。『応型・ロボット掃除機』は、トールがお主のために作ったものじゃ。それを余が先に使うのでは道理が通らぬ。まずはお主が使うべきじゃ」

「魔王陛下はとても寛容(かんよう)な方なのですね」

「いやいや余の方こそ、お主の知恵には期待しておるのじゃよ」

「ご冗談を。陛下は私の意図に、すぐに気づかれたではありませんか」

「乙じゃからな」

「同意いたします。私も、乙ですから」

……あの、ふたりとも。

なんだかすごく意気投合(いきとうごう)してない?

よく考えると、ルキエとソフィアって能力的に相がいいよね。

ルキエは闇屬の魔が使えて、ソフィアはの魔が使える。

相反する力だけど、だからこそ、おたがいの足りないところを補える。

ルキエは魔王としての権力と國をかす意思が、ソフィアにはずっと離宮で本を読んでいたせいで、膨大(ぼうだい)な知識と知恵がある。

ふたりが組んだら、帝國をはるかに超越する力を発揮するんじゃないかな……。

「トールよ」

「だんなさま!」

「は、はい」

「では、ソフィアが『応型・ロボット掃除機』をれるようにするがよい」

「お願いいたします」

「…………はい」

なんだか妙な予がするけど。

でも、このアイテムを使ってくれと言ったのは俺だからね。仕方ないよね。

「それじゃソフィア。この帽子を被って」

俺はソフィアの頭に、三角形の帽子を乗せた。

応素材』を組み込んだものだ。

「ソフィアの思考を読み取るための帽子だよ。これをにつければ、考えた通りに『応型・ロボット掃除機』をかせるんだ」

ケルヴさんの『応型・隕鉄浮遊サークレット』が失敗したのは、あれは空を飛ぶアイテムだからだ。

空を飛ぶことと、神でアイテムを作すること──慣れないふたつのことが組み合わせた結果、ケルヴさんは『アイス・ピラー』に頭から突っ込む結果になった。

でも、今回は違う。

ソフィアは地面に立って、落ち著いた狀態で『ロボット掃除機』をコントロールできる。

作を誤ったところで落下するわけでもないし、失敗したらやり直しもできる。

だからソフィアは自分の思い通りに『ロボット掃除機を』──って、あれ? どうして『蛇型・ロボット掃除機』が俺の方に向かってくるの? あの……俺の足に巻き付いてるのは、なんで? ちょっと? 服の隙間からり込もうとしてるんだけど? けないんだけど……?

「あの……ソフィア、これは……?」

「……私の、今のみです」

「……やはり気づいていなかったようじゃな」

真っ赤になって、両手で顔を覆(おお)ってしまったソフィアと、同じくらい真っ赤な顔で、肩をすくめるルキエ。

ルキエは俺に近づき、ぽん、と、肩を叩いて、

「ソフィアは異國から嫁いできたのじゃぞ。まずは、大切な者のぬくもりを求めるのは當然じゃ。だから『蛇型・ロボット掃除機』でトールを抱きしめたのであろう?」

「は、はい」

「嫁いで來る前は抑えがきいておったじゃろうがな。こうして嫁いできたからには、もう抑える必要もないのじゃからな」

「ご賢察(けんさつ)です。魔王陛下」

「なんの。余もお主のおかげで、々と覚悟ができたのじゃからな」

「全力で協力させていただきます」

「すでに3階のこのフロアは、トールと余、メイベルとアグニス、そしてソフィアのための場所とするように通達を出しておる」

「さすがは魔王陛下。用意周到(よういしゅうとう)ですね」

「余たちのトールのためじゃからな」

「はい。私たちの、だんなさまのためです」

がしっと手を握り合う、ルキエとソフィア。

それからふたりは、俺の方を見て、

「それではトールに、余たちの想(おも)いをたっぷりとわからせるとしよう」

「陛下。メイベルさまと、アグニスさまは?」

「隣の間で控えておる。いつってくるかは、本人たちの意思に任せよう」

「さすがは魔王陛下です」

「世辭(せじ)はいい。では……」

「は、はい。失禮いたします。だんなさま」

ゆっくりと近づいてくるルキエとソフィア。

「ちょっと待ってふたりとも。いや、なにをするかは予想がつくけど……なんでこのタイミングで?」

「トールにはいつも振り回されっぱなしじゃからな」

ルキエは、にやりと笑って、

「たまにはお主を振り回してみたいのじゃ。お主は『応型・ロボット掃除機』で、想いを察すると言ってくれたからの。この機會に──」

「錬金ばかりではなく、一度、徹底的(てっていてき)に、私たちだけを見ていただきたいのです」

覚悟を決めたような顔で答える、ルキエとソフィア。

ふと橫を見ると、続き間へのドアがし開いていて、そこからメイベルとアグニスがのぞいてる。ふたりとも薄い寢間著姿で、そろってを押さえてる。

俺のには『蛇型のロボット掃除機』が巻き付いてる。

ソフィアのために作った新型だ。

はやわらかく、その力は家を傷つけないようにやさしく、かつ、力強く作られている。だから俺のはほどよく拘束(こうそく)されてて、けない。

もちろん『応型・ロボット掃除機』には、暴走したときのための急停止スイッチがあるけど……俺はソフィアに『このロボット掃除機で、願いを伝えて』と言ってある。

ソフィアはその言葉通り、『ロボット掃除機』で『したいこと』を俺に伝えてきたわけで、それを拒(こば)むのは間違ってる。そう思ってしまったせいで『ロボット掃除機』を急停止させることができずにいる。

それに……俺も、みんなの想いを無にしたくない。

と、そんなことを考えてるうちに、ルキエの手が服のボタンにかかっていて──

「それでは──」

「だんなさまに、々なことを『わかって』いただきましょう」

「……失禮します。トールさま」

「わぁっ。メイベル。このタイミングでるのは勇気がありすぎなので! アグニスはまだ準備が……わわっ。トール・カナンさまが……」

こうして、ソフィアが嫁いできた最初の夜は更(ふ)けていき──

俺は今まで知らなかった──ルキエたちの新たな一面を知ることになるのだった。

【お知らせです】

『ヤングエースアップ』でコミック版『創造錬金師は自由を謳歌する』の第8話『健康増進ペンダント』が連載中です。

ぜひ、アクセスしてみてください!

ただいま書籍版5巻の作業中です!

5巻はWEB版とはちょっと違ったルートのお話になります。

荒廃(こうはい)した異世界からやってきた小さな

の正と、その目的は……?

正式な報公開まで、もうしだけお待ちください。

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