《【書籍化&コミカライズ】創魔法の再現者 ~『魔法が使えない』と実家を追放された天才年、魔の弟子となり正しい方法で全ての魔法を極めます。貴方の魔法は、こうやって使うんですよ?~》123話 決戦前
あとがきに告知あります!
カルマとの遭遇戦、そして第一王子ヘルクとのいざこざを終えたのち。
陣営に戻ると、本陣の守護をしていたルキウスから一通りの進捗を聞かされた。曰く、対策の周知や指示系統の統一等、今回急増した軍隊における諸々の必要準備が概ね完了したとのこと。
つまりは──決戦が、近いということだ。
「明後日。その時に最低限の王都方面への警戒を殘して全軍出撃し──あの魔の大軍、及びカルマを撃破する。先刻の會議で、そのように決まりました」
「……それを僕に明かして、どうしろと?」
そうして、拠點の一室。
會議で決定した事項を伝えたエルメスに──第一王子ヘルクが、胡な目でそう告げてきた。
「僕に話を聞いたのは、カルマの報がしかっただろう。それで話せることは全て話した、もう僕は用済みのはずだ」
ヘルクのことは、経緯的にはもうほとんと捕虜に近い狀態だったとはいえ、一応は王族。賓客として丁寧に扱った。
彼自、ここまで來て意地を張るのは無駄だと悟ったのか、ライラとの大喧嘩で多は溜まったものを吐き出せたのか。報共有自には素直に従って、現在はサラの手も借りて最低限の治療も済ませたところだった。
けれどそれだけで態度が化するほど、彼の境遇も過去も軽いものではなく。
エルメスを見據える視線は、未だ様々なで固く塗られている。
……不思議と、嫌悪はなかった。
ライラとの喧嘩を経て多は彼の抱えたものを知れたこともあるし、彼自の境遇に同できることもあった。
けれど、何より。以前學園でアルバートと対峙した時にも思ったことだが。
力が足りなくても、機運に恵まれずとも。卑屈になっても、みっともなくても、辛さに折れてしまいそうになっても。
それでも確固たる貫き通したい何かを持って、現実を見據えて足掻いている──そういう人が、エルメスは嫌いではないのだろう。たとえそれの原因が自分で、相手は自分を腹立たしく思っていたとしても。
そんな慨を抱いてのエルメスの視線をどう思ったか、ヘルクは続けて。
「それともなんだ、戦えと言うのか? の程を弁えて、何処か木端の戦場で適當な魔にぶつけておけば良いとばかりに酷使でもするつもりか?」
「……いえ。そのような強制はしませんよ」
皮げな表と共に放たれた問いに、エルメスは靜かにそう答える。
けれど、続いて。
「──けれど、この場に拘束もしません」
「……な」
「決戦の時が來たら、貴方を解放します。その後は戦場に參戦するなり、逃げるなりご自由になさってください」
そうする理由は、彼の進退に究極興味がないから──というわけでもない。大別すればそういうことにはなるのだろうが、そう思うに至った理由はもうしポジティブなもの。
「『好き勝手にやっただけ』。ライラ様に言われました、僕もそうだろうと」
「……」
「きっと僕だけでなく、皆がそうなのでしょう。各々が自分のみに従っていて、そのみに大なり小なり隔たりがある以上。そうしてそのみが強いものであればあるほど、衝突も爭いも避けられない。それでもやめられない──ならもう、とことんまで『好き勝手』するしかない」
その言葉とともに自分を見つめ直して、エルメスが改めて分かったことが一つある。
きっと、自分は。その『好き勝手』を邪魔されるのが、何よりも嫌いなのだろうと。自分のものであっても、他人のものであっても。
だから、こうする。
ヘルクのみを、邪魔はしない。彼のむところを、なすところを、可能な限りの自由を與えてしたいようにさせる。
「──ただし」
ただ、その上で。
エルメスは彼のみを知っているし、するものも知っている。
だとすれば……その方向に沿う形で彼の行に指針を與える。それくらいの悪知恵は、エルメスも働いてしまうのだ。
その狙いに従って、エルメスは。これまでの戦いや行、それら全てを統合して思索と実験の果てに出た結論の一つを。
靜かに、告げる。
「──────」
……それを聞き終えた、ヘルクは。
「…………、は」
笑う。皮げに、悔しげに。けれど盡きることのない、意志のを瞳に宿して。
「……やっぱり僕は、お前のことが嫌いだ。多分、この先もずっと」
憎まれ口で、大のことは分かった。
故にそれ以上の言葉は必要なく。エルメスも靜かに一禮だけを返し、その場を去るのだった。
◆
拠點の中を移しつつ、エルメスは考える。
(……道筋は、見えた。カルマを打倒するまでの流れは把握できた)
無論、極めて細い道筋であることは間違いない。
ただ、確かにたどり著くべき勝ち筋は見えている。があるかないかは戦略の面でもモチベーションの面でも雲泥の差だ、最低限戦いにはなるだろう。
……まぁ、一方で。そこに至るまでの不確定要素や不安要素を挙げればキリがないことも確かなのだが。とりわけ──
「いよいよ明後日か。……勝てるだろうか」
「ああ……あの量の魔と戦った経験は誰にもない、果たして……」
「馬鹿者、戦う前からそんなことでどうする。規格外と言うならこちらもエルメス殿だってそうだし、あの北部の怪ルキウス様もいらっしゃるのだ」
「そうだな、何はともあれ立ち向かうしかあるまいが……」
兵舎を橫切る際に、れ聞こえてきた會話。それを聞いてエルメスは思う。
(……やっぱり、兵士の皆さんの士気も問題の一つか)
無理もない、とは思う。
常に未知とばかりぶつかってきたエルメスたちはともかく、それ以外の多くの兵士たちはこの國で代わり映えのしない対処、ある程度の魔ばかりを相手してきた。それにしても統魔法使いのサポートをしていれば良く、基本的に自分達の意思で何かが決まる、という狀況がなかったのだ。
この國、そのものの弱點。──未経験への対処が、あまりに不足している。
その極致のような現在のイレギュラーな狀況は、誰でも大なり小なり不安を掻き立てられても仕方ないだろう。
それが気にならないほどの短期決戦で向こうに有利を取らせずに倒し切れば全く問題ないのだが、向こうとてそこまで甘くはないだろう。綻びが出た時に、それがどう影響するか。
(……こればかりは、考えていても仕方がないか)
何はともあれ立ち向かうしかない、最後の兵士の臺詞に同意だ。
既にここまでやれることは全てやった、後は明後日に自分たちの全てをかけるだけ──と覚悟を決めつつ、歩みを進めていたその時。
「あら、エル」
しばらくぶりの聲がかけられる。
見ると、カティアが向こうから同様に歩いてきていた。
……しばらくぶり、と思ってしまうこと自がここ數日間のあまりの濃さを象徴していただろう。
ともあれ。偶然かもしれないが、久しぶりに。
決戦を前にして、馴染であり主人であると話す機會がありそうなので、一旦はそれを楽しもうと思い。ゆっくりと彼の方へと歩み寄るのだった。
次回、久しぶりのカティア様とのお話。
10/12(水)更新予定です、お楽しみに!
そして、告知です!!
別サイトですが、新作を投稿しました!!
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