《【書籍化】雑草聖の逃亡~出自を馬鹿にされ殺されかけたので隣國に亡命します~【コミカライズ】》旅の終わり 04
夕食後も刺繍に取り組んでいたマイアは、鳥の羽ばたきのような音を耳にして顔を上げた。
そしてぎょっと目を見開く。聞こえてきた音は比喩ではなかったからだ。
室にいつのまにやら鳩がり込んでいた。街中で良く見られる土鳩(どばと)と呼ばれる種類の鳩だ。
鳩はマイアが針仕事をする機の縁に留まると、人の聲を発した。
「マイア、窓を開けてしい」
ルカの聲だった。そしてマイアは察する。この鳩はルカが魔で出したものだ。
部屋の窓もドアも閉ざされていたけれど、魔の鳩だからり込めたのだろう。
室にはバルコニーに繋がる大きなガラス窓がある。分厚いカーテンを開けるとバルコニーにルカが立っているのが見えた。
マイアは慌てて上著を羽織ると窓を開けに行く。すると途端に外からを切るような冷気が吹き込んできた。
よく見ると白いものが散らついている。アストラに比べるとこの國は海流の影響で溫暖だが、陸部に位置する東部ではそろそろ雪が積もりはじめる時期だ。
「どうしたの? ルカ。寒いよね。中にって」
「いや、もう遅いから……」
時刻は既に夜の九時前だ。確かに特別な関係でもない未婚の男が一緒に過ごす時間ではないが、ルカとは森を抜ける時同じ天幕の中で眠った仲なのだから今更だ。
「って。私が寒いの」
マイアはルカの服の袖を摑むと引っ張った。するとルカは小さく息をついたものの素直に従ってくれた。
「そうだよね。マイアも寒いんだった」
「そっちに座って」
ルカはマイアの指示に従い、マイアがそれまで使っていた椅子の向かい側に置かれていたソファに腰かけた。
機の端に止まっていたはずの鳩は、ルカが魔を解いたのかいつの間にやら消えている。
ルカはマイアのやりかけの刺繍に目を止めると話しかけてきた。
「魔布を作ってたの?」
「うん。手持ち無沙汰だったから」
守袋はまだ完していない。だから何を作っているのかまでは話さなかった。
「お茶を淹れるね。シェリルさんがアストラのお茶を持ってきてくれたの」
茶葉はこちらでは輸品なので高級だが、アストラでは一般的に栽培されている作のため庶民にも近な飲みだと聞く。シェリルが持ってきてくれたのはこちらでも上流階級の間で好まれている紅茶だった。
室にはお湯を沸かすための魔やら茶やらが置かれていて、自由にお茶を淹れて飲めるようになっていた。
マイアは魔に魔力を流すと、シェリルに教えてもらった手順を思い出しながら茶葉の準備をする。
聖になってから紅茶は近なものだったけれど、いつも侍に淹れてもらっていたから自分で淹れるのは初めてだ。
張しながらルカに差し出すと、「ありがとう」と小さくお禮を言われた。
マイアもまた自分の分のカップを持って元いた席へと著く。
「ちょっと薄いね。ごめんね、実は自分で淹れるのは初めてで……」
「そんな事ない。味しいよ」
ルカはティーカップを口に運ぶと穏やかに微笑んだ。
「その服もシェリルが?」
ルカに尋ねられてマイアはこくりと頷いた。
マイアはまだシェリルが持ってきたアストラの裝をに著けていた。
それだけでなく、シェリルはマイアの髪を複雑な形に結い上げ、髪飾りを挿してくれた。歩揺(ほよう)と呼ばれる垂れ下がる鎖や貴石の付いた髪飾りは隣國では一般的なものだ。
アストラでは、民族裝の首元が詰まっているせいか首飾りをに著ける風習がないそうだ。その代わりに、大振りな耳飾りや歩揺の付いた髪飾りが好まれる。
「気が引けるくらい良くしてくれるの。何だか申し訳なくて」
「……逃げられたら困るから」
「えっ……?」
ルカの発言にマイアは目を見張った。
「苦労して國境近くまで連れてきた聖を逃がす訳にはいかない。マイアを丁重に扱う裏にはそういう『上』の思が働いてる」
「…………」
そんな事一々言われなくてもわかっている。
ルカ、ゲイル、アルナ、シェリル――これまで出會ったアストラの人がマイアを助けてくれたのは、マイアが希価値の高い生きだから。
だけど改めて口にされると心が痛んだ。その言葉がルカの口から飛び出したものだから特に。
「どうしてそんな事を言うの? 私を傷付けたいの?」
冷靜を裝って尋ねると、ルカはぎょっと目を見開いた。
「へ? いや、違う! そう取れるかもしれないけど、俺がマイアに話したい本題はそうじゃなくて……」
ルカがあまりにも慌てた様子でまくし立てるから、マイアは毒気を抜かれた。
「俺がここに來たのは、本當にこのままアストラに移してもいいのか、マイアの気持ちを確認しておきたかったんだ」
どこか歯切れの悪い言い方だった。
「今更何を……」
「今更じゃない。……元々マイアが討伐遠征から逃げたのは、ティアラ・トリンガムの信者に殺されかけたせいだっただろ? でもあのは俺たちが城の地下の魔陣を壊したから力を失ったはずだ。恐らくあのの治癒魔をけたせいで魅了されていた連中もいずれ正気に戻るはずだ」
思ってもみなかった指摘にマイアは目を見張った。
々な事が起こりすぎて考えが及ばなかったが、確かにルカの言う通りだ。
「ティアラが治癒能力を失えば、第二王子率いる第一部隊はまず間違いなく遠征を切り上げる羽目になる。そして唐突に力を失ったあのはその理由を追及されるだろうね。そこにトリンガム侯爵が怪しい儀式魔に手を染めていたという噂が流れたらどうなると思う?」
「噂を流すつもりなの……?」
「トリンガム侯爵はうちの國民に手を出している。その罪は償ってもらわなければならない」
ルカのその言葉に、マイアは既に裏でアストラの工作員がいている事を悟った。
「転移魔はマイアも知っていると思うけど大量の月晶石と魔力が要求される大掛かりな魔だ。その使用許可を出してまで急いでマイアをアストラに移送しようとするのは、マイアの亡命理由がなくなった事に気付かせない為だ。そんな狀況だけど、本當にマイアはアストラに移しても後悔しない?」
「……どうしてルカはそんな事を私に教えてくれるの?」
マイアの問いにルカは目を伏せた。
「取り返しのつかない狀況になってから國の思に気付いたマイアがどう思うのかを考えるといたたまれなくなった。……アストラの諜報員としては、隠し切るのが正しいのはわかってるけど、俺はマイアに恨まれたくないんだと思う」
「恨んだりなんか……」
親切な態度の裏側に隠されていたものを突き付けられて、正直まだ頭が混している。
だけどこれだけは言える。アストラの思がどんなものであれ、マイアはルカに謝こそすれ恨むつもりはない。
彼はアストラの諜報員だ。國家の命令に逆らえないのは痛いほどに理解できるし、そもそもルカに助けてもらわなかったら今頃マイアは死んでいた。
ダグに刺されての中に埋められて……仮に息を吹き返してから出出來たとしても、場所は魔蟲が跋扈するフェルン樹海の中だ。
また、聖の魔力に目覚めていなければ、今頃マイアは最底辺に近い庶民の生活を送っていたはずだ。それと比較すれば隣國に囲い込まれる事くらい――とも思えた。
「恨まないよ。ルカは命の恩人でしょ」
改めて斷言すると、ルカの瞳が揺れた。
「俺は祖國についてマイアに耳障りのいい事しか伝えていない」
「そうなの?」
「…………」
沈黙が気まずい。ルカが暗い表をしているから猶更だ。マイアは小さく息をつくと平靜を心がけて言葉を紡いだ。
「きっと私を取り巻く環境は、首都に戻ってもアストラに亡命したとしてもそんなに変わらないよね。そんなの何となく予想できるよ」
マイアはこの國の貴族社會では、出自のせいで軽んじられてきた。
アストラは魔力保持者は生まれに関わらず貴種(ステルラ)と呼ばれ、こちらの貴族に相當する特権階級として扱われる國だが、排他的と聞いているのでよそ者という視線を向けられるに違いない。
「この國で育ったマイアがアストラに馴染むには時間がかかるだろうし、もしかしたら外國人という事で心無いことを言われるかもしれない。できるだけマイアが嫌な思いをしないように助けてあげたいけど、今の俺は諜報員だから所屬を考えたら正直役には立てないと思う」
ルカはいったん言葉を切るとマイアに向き直った。
「もしマイアが亡命をやめて、この國で今後も生活して行きたいのなら手伝うよ」
ルカの発言にマイアは眉をひそめた。
「何言ってるの、ルカ。それじゃルカの立場が……」
マイアを亡命させる為にアストラは既にかなりの人員と資金を費やしているはずだ。
「俺の立場なんて考えなくていい。マイアがどうしたいかで決めてくれたらいいから。……とはいえすぐに決斷するのは無理だと思うから、明日もう一度、このくらいの時間に聞きに來る」
そう告げるとルカは席を立ち、マイアに背を向けた。
「えっ……ちょっと待って。ルカ、帰るの?」
「の子の部屋に長居する時間じゃないから」
バルコニーに続く窓へと移したルカは、ちらりとこちらを振り返るとふっと微笑んだ。
そして引き止める間もなく隣の部屋のバルコニーへと飛び移る。
「ルカ……」
一人取り殘されたマイアは小さな聲で呟いた。
優等生だった子爵令嬢は、戀を知りたい。~六人目の子供ができたので離縁します~(書籍化&コミカライズ)
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