《【書籍化決定】婚約者が浮気相手と駆け落ちしました。々とありましたが幸せなので、今さら戻りたいと言われても困ります。》2-17

結論が出たのは、それから三日後のことだった。

サルジュの三人の兄が、通話魔法同様國じられていた移魔法の実験を繰り返し、だいたいどれくらいの魔力を使うのか調査していたようだ。

その結果、サルジュの魔力量ならば大きな問題にはならないだろうと結論が出て、ようやく許可が下りたようだ。

そこまでしてくれたのなら、アメリアとしても安心できる。

正式に許可が出たので、すぐに帰國に向けて準備を始めた。

まず、ここで暮らしていた痕跡を消さなくてはならない。

サルジュは、持って行く以外は魔法を解除して元に戻したようだ。畑や果樹は枯れるまで放置しておくのかと思っていたが、そうではないらしい。

アメリアは、カイドが周囲を見回っている間に畑を撤収するというサルジュに付き従った。

「枯らしてしまうのですか?」

サルジュの魔法で青々と茂っている野菜畑を見てそう言うと、サルジュは首を振る。

「いや、元に戻す」

「元に?」

「そう。こうして……」

サルジュが魔法を使うと、まるで逆再生をしているように、葉がんでいく。驚いて見つめるアメリアの前で、野菜も果樹もすべて、たちまち種の狀態に戻っていた。

「……すごい」

そう呟くのが一杯なほど、あっという間の出來事だった。

呪文を唱えていなかったから、魔法だろう。

長した植にも驚いたが、それを種の狀態まで戻す魔法にも驚いた。この退行魔法は、サルジュが開発したらしい。

「貴重な植の種や、改良中の作が意図せずに枯れてしまった場合、種の狀態に戻すことでもう一度植え直すことができる。この魔法を開発したお蔭で、研究がはかどったよ」

「それは……素晴らしい魔法ですね」

栽培方法に失敗しても、種に戻して植え直すことができるなんて、他の植學の研究者が聞いたら言葉を失うに違いない。

魔法に不可能はないように思える。

けれどサルジュは、驚きを隠そうともしないアメリアにこう告げた。

「私の魔法などよりも、アメリアの発想の方が素晴らしい。蟲害を防ぐための魔法水といい、長促進魔法を付與した料。そして、雨を降らせる魔導だ。この大陸は、アメリアによって救われるのかもしれない」

「そんなことは……」

さすがにありえないと慌てて否定するも、サルジュは熱を宿した瞳でアメリアを見つめる。

「謙遜する必要はないよ。やはり研究所や図書室にばかり籠っていては、新しい発想は生まれないのかもしれない」

サルジュはそう言って広い大地を見渡している。

「完全なものを作りたかった。これで、ビーダイド王國を……。この大陸を救えると思っていた。けれど、王城の庭で育てて品種改良したグリーは蟲害に弱くて、そのせいでなかなか普及しなかった」

視線を遠くに向けたまま、サルジュが語ったのは主食となる穀、グリーの新種改良をしたときのことだった。

王城の整備された庭に、蟲がり込むようなことはほとんどない。だから研究していたときには、蟲害に弱いことがわからなかったのだろう。

だが実際に植えられるのは、ほとんど魔法を使用したこともない、耕しただけの土地である。

「私は明らかに失敗していたのに、父も兄もよくやったと謝してくれた。だから、今度こそ完全なものを作ろうと、私はますます研究にのめり込んだ。それでもなかなか果は出ず、気が付いたら私はひとりになっていた」

サルジュの熱と才能に、他の研究者はついていけなかったのだろう。

こうしてひとりになった彼は、とうとう寢食さえ忘れて沒頭するようになってしまった。

「でもそんな過失を、アメリアの魔法水が補ってくれた。料も魔導も、私では思いつくことはできなかった。すべてアメリアのお蔭だ。私には、君が必要なんだ」

「サルジュ様……」

彼の役に立てたのなら、これほど嬉しいことはない。

けれどアメリアにとっては、サルジュこそが本の天才だ。

魔導を作り出し、土魔法で種から果実を実らせるまで長させ、さらに再現魔法で修復したり、退行魔法で元の狀態に戻したりする。

そんなことは、サルジュ以外の誰にもできない。

「いくら思いついても、わたしにはそれを実現させる力はありません。すべてサルジュ様がいてくださるからこそ、可能になるのです」

サルジュのお蔭だと強く言うと、そっと手を握られた。

「そうか。アメリアも、私を必要としてくれるのか。ならばこれからも、アメリアが思いついたことを実現させよう。どんなことでもやってみせるよ」

「……サルジュ様」

彼ならば、本當に何でもやってしまいそうだ。

でも、自分の考えがその原力になれるのかと思うと、嬉しい。

ふとアメリアは、まだ彼の助手でしかなかった頃のことを思い出す。

していた土魔法の遣い手で、植學にも通じていたサルジュに憧れて、しでも追い付きたくて必死に頑張っていた。

そんな相手が、自分の手を取って必要だと言ってくれる。

婚約者として、助手として傍にいた。

けれど今は、サルジュにパートナーとして認められたような気がして、心が幸福で満たされていく。

(サルジュ様と一緒なら、本當にこの世界の食糧事を解決できるかもしれない)

ひとりならば、もちろんそんなことをできるはずがない。アメリアには、そんな実力も才能もない。

でもそんなアメリアの隣にはサルジュがいる。ふたりならきっと実現できると信じることができる。

荒れ果てた大地を見つめながら、アメリアはいつか必ず、この地も蘇らせてみせると誓う。

そうしているうちに、周辺を見回っていたカイドが戻ってきた。

彼もまた、家も畑もすべて元通りになっていることにかなり驚いた様子だ。

魔法は便利だとよくおっしゃいますが、ここまで多種多様な魔法を使われるのは、サルジュ殿下くらいですよ」

「便利なものは、使った方がいいだろう」

あっさりとそう答えたサルジュは、確認するように周辺を見渡した。

修復したものは魔法で元に戻してあるが、服はそのまま借りている。アメリアとサルジュはシンプルな服裝をして顔を隠すマントを羽織っているし、カイドは旅の剣士のように見えるだろう。サルジュの髪も、ジャナキ王國に滯在していたときのように、黒髪にしている。

おそらく人のいる場所に出てしまっても、不審に思われることはないだろう。

「そろそろ移する。準備はいいか?」

サルジュの言葉に、アメリアとカイドは頷いた。

「はい」

「いつでも大丈夫です」

そう返答したふたりに頷き、サルジュは移魔法を使う。

アロイスに連れ去られそうになったときのように、ふわりとした浮遊

「……っ」

あの瞬間を思い出してしまって思わずが竦み、目を閉じてしまう。けれどを包み込むのはサルジュの魔力だ。何も心配することはないと、素直にを預ける。

ふと重力をじてそっと目を開けると、三人は薄暗い路地に立っていた。

どうやらどこかの町に辿り著いたようだ。運の良いことに、周りには誰もいなかった。

アメリアは周囲を見渡して、ほっと息を吐く。魔導師のいないこの國で、突然出現したところを誰かに見られていたら、大騒ぎになっていただろう。

「サルジュ殿下。お加減の方は問題ございませんか」

見知らぬ土地で移魔法を使ったサルジュを、カイドが気遣う。

「心配ない。ただ、殿下はやめた方がいいだろう。誰かに聞かれたら面倒なことになってしまう」

「……承知しました」

カイドは頷き、周囲を見渡す。

「どうされますか?」

このまま移するか、それとも報収集をするか。

サルジュはしばらく考えたあと、報収集を、と答えた。

「この町がベルツ帝國のどこにあるのか、把握しておきたい」

「承知いたしました」

カイドが先頭に立ち、サルジュとアメリアがそれに続いた。

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