《お月様はいつも雨降り》第五十目
風の音……。
でも、僕のに風はあたっていない。
暑くも寒くもない……じなくなくなってきているのかな。
本當に僕のはここにあるのだろうか?
皆既日食の時の太のような黒い円が天頂に浮かんでいるのが見える。
砂の上、ああ、僕は砂の上に仰向けで倒れているんだ。
顔を橫に向けると薄ぼんやりとした暗い世界の中に地平線が続くのが見える。
ああ、戻ってきたんだ……あの世界に……ルナのいるあの世界に。
みんなは?
みんなはどうしているのだろうか?
「上様、上様」
暗い太に重なるようにシャンの顔が視界一杯に広がった。
「寢ている場合じゃないぞ、早く起きろ」
僕は足を延ばしたままゆっくりと上半を持ち上げた。
「まだ、めまいがする」
「めまいという覚は理解できぬが、し気分がすぐれないような顔をしているのは理解できる」
シャンはそう言って、僕の服についている砂をし暴に払い落してくれている。
「立てるか?」
「何とか」
僕は足元をフラフラさせながらも立ち上がることができた。
三百六十度、砂の地平線ばかりが続いていた。
「ここは砂漠?」
「ふぅむ、上様にはここがそのように見えるのか」
「シャンにはどういう風に見えているの」
「仕切られた立方だけでできた世界」
シャンは僕の肩に這い上がって遠くをむようにしている。
「でも、上様、心配することはないぞ、もうどこの箱の中にみんながいるのが分かった」
シャンの聲は自信で満ち溢れていた。
「どうして?」
「この世界はわしの生まれたところだから、上様の言語で端的に表すのなら『子宮』じゃな」
「子宮?」
「うむ、『実家』とか『故郷』とかも選択肢にれてみたが、一番、照合したのは『子宮』じゃ、それは他の人形たちにとってもじゃ」
僕は何でイツキがこの人形を創り、命を吹き込んだ意味がしだけ分かったような気がした。
「上様、わしに心を預けてくれるか?」
「う、うん」
僕はいつものように、シャンと心をリンクさせた。
時間の覚としては、ほんの一瞬だった。
僕が目を開けた時、ヒロト、カエデ、それにサユミがいた。それに見慣れない和裝の人形がいた。
「イツキ……ジュン……ユキオは……あの建にはマサハルやマモルもいただろ」
「分からない……そんなこと言われたって」
カエデの聲は震えていた。
「私見を述べさせていただきます」
執事姿の人形が前に歩み出てきた。
「共通項としては人形持ちのマスターだけがここに集まっています、私の知る所、創造主のイツキ様やユキオ様、他の場所にいたワカナ様は人形をお持ちではありません」
「マサハルは?マサハルだって人形がいたはずよ、それにジュンやマモルにだって」
カエデの言葉に執事姿の人形は首を振る。
「マサハル様の人形は厳にいえば月影タイプではなく、攻撃型人工衛星に知能を與えたです、とは言ってもそこには創造主様の何らかの意図が働いたものだと思います。あちらの世界でも時は流れています、敵への最後の切り札として殘しておきたかったのでしょう」
「ジュンは?」
「ボウ様の『シャン』嬢が與えた損傷がし大きかった模様ですね、マモル様の人形はそこで泣いておられる方です、人形だけこちらに來ているとなるとご主人は……その言葉をここでは控えましょう……ヒロト様は……」
「俺自のに人形を埋め込んでいる、イツキに頼んで」
ヒロトがシャツの元をしはだけると眠っているような他の人形よりもサイズが小さながヒロトのの皮と同化していた。
「『ツカサ』嬢のお顔は初めて拝見いたしました、とてもキュートなお嬢様ですね」
「どうして、どうしてイツキがここに來ていないのよ!あいつが……あいつに私たちはずっと……あの日、あの日から振り回されてきたのよ」
僕はカエデのびに心が痛くなった。みんなが人の知らないところで戦っていたのに、僕だけすべてを忘れてのんきに暮らしていたことを……。
そんな僕の居場所なんて、イツキの力ならすぐに探し出すことができたはずだ。でも、僕を何で呼び戻さなかったのか……。
(気にせずともよい……上様、わしは最初に生まれて最後に完した人形じゃ、創造主様はわしが本當の意味で生まれるのをずっと待っていたのじゃよ……それが上様を慕っていたお月様の願いじゃ、創造主様はそれを守っていただけにすぎぬ)
シャンの意思が僕の心の中に食い込んだ。
「カエデ、イツキは……一番ここに來たかったのはイツキだと思う、でも、それができないから僕たちに託したんだと思う」
「何でできないのよ!だって、こうして私たちを飛ばしたじゃないの」
「あのイツキがマサハルを一人にするわけがないよ……最後の責任を負おうとしている……だから、人形のある者たちだけをこちらの世界に送り込んだんだ、マサハルだって大切な友達だ……」
僕の言葉を聞いていたカエデが大聲で泣いた。
僕は小學校の校庭での出來事が脳裏に浮かんだ。その風景の中では小さいころのカエデが泣くり臺の周りであの頃のマサハルが笑っていた。
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