《無職転生 - 蛇足編 -》6 「ルーシーの家族」
私の名前はルーシー・グレイラット。
グレイラット家の長だ。
私には大勢の家族がいる。
三人のママ。
三人の妹。
三人の弟。
二人のおばあちゃん。
二人のおばさん。
三匹のペット。
全部で十六人。大勢だ。
ママから紹介しよう。
ママは三人いて、白い髪のママと、青い髪のママと、赤い髪のママがいる。
白い髪のママは、私を産んでくれたママで、パパの一番最初のお嫁さんだ。
ママの中では一番年下で、一番甘えん坊だとパパは言っていた。
白い髪のママは饒舌な人で、私にいつも言った。
「友達を作ることが大事だよ。それと、弱いものイジメは絶対にダメ」
白い髪のママは、友達を大事にするということの大切さを言い聞かせてくれた。
青い髪のママは、ララのママで、パパの二番目のお嫁さんだ。
ママの中ではく見えるけど一番年上で、一番頼りになるとパパは言っていた。
青い髪のママは、無口な人だったけど、たまに私に言った。
「好きなように生きて、わからない事があったら誰かに聞きなさい」
青い髪のママは私に何かを言い聞かせる事は無かったけど、何でも知っていて、聞けばなんでも教えてくれた。
赤い髪のママは、アルスのママで、パパの三番目のお嫁さんだ。
ママの中では一番年上に見えるけど、一番いのだとパパは言っていた。
赤い髪のママは言葉があまりうまく無かったけど、私にいつも言った。
「誰かを守ることが大事よ。そのためには強くならなくちゃいけないわ」
赤い髪のママはそう言って、私を鍛えてくれた。
私は三人のママの教えを守ろうと思っている。
友達を作って、その友達を守るために強くなる。
でも弱いものイジメは絶対にしない。
そして、困ったら青ママにどうすればいいかを聞く。
そうすれば間違いは無いし、褒めてもらえる。
パパにも「ルーシーは賢いね、さすがお姉さんだ」と褒めてもらえる。
妹と弟は六人だ。
一番上の妹のララは、とっても優しい子だ。
青ママとおんなじの髪を持っていて、長い髪を一本のおさげにしている。
不思議な子で、金髪のおばあちゃんや、ペットのビートとお話している事が多い。
おばあちゃんもビートも喋らないのに、ララだけが喋るのだ。
そんな人で、いつもボンヤリしているせいか、広場に遊びにいくと、近所の子供にお下げを引っ張られてイジメられている事が多い。
すぐに私が助けてあげるけど、あんまり嫌そうな顔はしていなくて、拍子抜けする。
お晝寢が大好き。よくレオの背中に乗っかって、気持ちよさそうに寢ている。
一番上の弟のアルスは、勇敢な男の子だ。
赤ママとおんなじの髪を持っていて、短く切りそろえている。
おませさんでやんちゃだけど、いつも私やララを守ろうとしてくれる。
きっと私と一緒で、ママの教えを守ろうとしているんだと思う。
赤ママにすっごく期待されていて、最近では毎日走ったり、剣を素振りしたりしてる。
アイシャおばさんと仲がよくて、一緒にいる時はいつも嬉しそうだ。
一番下の弟のジークは、泣き蟲な男の子だ。
アルスの後ろをよちよちとついていこうとしては、置いて行かれて泣いている。
その度に私はアルスを叱る。するとアルスはジークの手を引いて、レオの背中に乗っけてあげるのだ。
ララはジークがレオによじ登ろうとすると、自分はちょっと後ろに下がって、前に引っ張りあげる。そしてジークが落ちないように後ろから抱きしめて、すやすやと眠ってしまう。
実は私だけが知っているんだけど、ジークはすごい力持ちだ。
凄く重い箱とかを、ひょいっと持ち上げてしまうのだ。
もう一人の弟はクライブという。
ララと同い年で、本當は弟じゃない。
白ママのおばあちゃんの子供だ。ママいわく、従兄弟みたいなもの、らしい。
なんて呼ぶのかよくわからないけど、私は彼のことを弟として扱っている。
よくうちに遊びにきては、アルスと仲良さそうにしている。
私のことも好きみたいで、よく抱きついてくるので、頭をなでてあげると、恥ずかしそうに笑う。
一番下の妹たちは、生まれたばかり。
まだまだ小さくて、よくわからない。けど、きっとみんないい子に決まっている。
私はそんな兄弟姉妹のお姉さんだ。
お姉さんだから、しっかりしなさい。
と、ママたちには何度も言われてきた。
私は言われたとおりにしようと思っている。
弟も妹もみんなかわいいから、みんな守ってあげたい。
おばあちゃんも二人いる。
金髪のおばあちゃんは、パパのお母さんだ。名前はゼニスさん。
とても綺麗な人だったというけれど、喋らないし、話しかけても返事をしてくれない。
いつもボンヤリしていて、お庭でビートと一緒にいる事が多い。
でも、私が悲しんだり、怒ったりしてる時は、なぜか頭をなでてくれる。
不思議なおばあちゃんだ。
茶髪のおばあちゃんは、アイシャおばさんのお母さんだ。名前はリーリャさん。
元々は、おじいちゃんの家に仕えるメイドだったらしくて、まるでメイドのような立ち居振舞いをする。
三人のママは、このおばあちゃんには一目置いているけど、昔、私はなぜ、茶髪のおばあちゃんがおばあちゃんなのか、わからなかった。
以前、道端で誰かが「メイドなんて下々の者なんだから、顎でこきつかえよ」なんて話していたので、私もやってみたら、赤い髪のママに凄く怒られた。
おが真っ赤になるまで叩かれて、一晩そこで反省しなさいと、家の外に放り出された。
ペットのレオとを寄せ合って震えていると、茶髪のおばあちゃんが家にれてくれた。
おばあちゃんはその時、私に何があったのかを教えてくれた。
私はその時、茶髪のおばあちゃんはメイドだけどおばあちゃんで、顎で使っちゃいけないのだと知った。
おばさんも二人いる。
どっちもまだ若いのでおばさんというと怒るけど、おばさんはおばさんだ。
もっとも、私にとってはお姉さんみたいな存在だ。
上のおばさんは、金髪のおばあちゃんの娘で、パパの妹。名前はノルンさん。
いつも一生懸命な人で、よく私と遊んでくれて、いろんなことを教えてくれた。
私はこのおばさんがとても好きだ。
將來は、このおばさんみたいになりたい、と思っている。
ちょっと前にお嫁さんに行ってしまって、今は家にはいない。
たまにしか家に帰ってこなくて、帰ってきたら下のおばさんとよく口喧嘩している。
仲が悪そうに見えるんだけど、口喧嘩しながら笑ってて、なんだか楽しそうに見える時もある。
下のおばさんは、茶髪のおばあちゃんの娘で、パパの腹違いの妹。名前はアイシャさん。
茶髪のおばあちゃんと一緒で、いつもメイド服をきていて、家の事を取り仕切っている。
私が家で何かをする時にお世話になるのは、大このおばさんだ。
お料理もお洗濯も、なんでも教えてくれた。
アイシャおばさんは何でもできる人で、とても優秀だとママが言っていた。パパのしごとも手伝っているらしい。
なのに、たまに茶髪のおばあちゃんに怒られてる。不思議だ。
ペットは三匹いる。
大きな白い犬のレオは、守護魔獣だ。
とても賢くて、私たちの言葉を理解している。
家族全員を見守っているじで、パパも何かあったらレオに頼りなさい、と言っていた。
ララがお気にりで、家にいる時はララにベッタリだ。
アルマジロのジローは、青ママの乗りだ。
臆病な格で、叱られると、すぐにお腹を見せるか、ボールのように丸まってしまう。
でも、私たちが出かけている時に何かあると、唸り聲を上げて相手を威嚇することもある。
彼なりに私たちを守ろうとしてくれているのだ。
トゥレントのビートは、アイシャおばさんの菜園の守護神だ。
植の魔なので何を考えているのかはさっぱり分からないけど、金髪のおばあちゃんや、ララと一緒にいる事が多い。
菜園の作を荒らそうとする相手には容赦がない。
よく、パパが大好きな「米」の実を食べようとした小鳥なんかが捕まっていて、ビートの養分にされている。
ちょっと怖いけど、家族に襲いかかった事は無い。
それどころか、私たちが近づくと木の実をくれる。彼も家族なのだ。
十六人。
私に家族はいっぱいいる。
ママも妹も弟も、いっぱいいる。
でも、パパは一人だ。
一人しかいない。
私はパパが大好きだ。
心ついていない頃は、パパのことを避けていたらしいけど、大好きだ。
パパの匂いは、とっても安心する。
たまにお髭がジョリジョリしているけど、それも好きだ。
パパはあんまり、お髭にはらせてくれない。
たまにぼーぼーにびてる時があって、私がそれにさわろうとすると、やんわり手を取って、「ごめんね、いま剃ってくるからね」とお風呂場の方に行ってしまう。
そんなのいいのにと思うけど、パパなりに考えがあるのだろう。
お髭はらせてくれないのは殘念だけど、でもそんなことで私はパパを嫌いになったりはしない。
ただ、パパはあんまり、私に期待してくれていないのだと思う。
なんとなくだけど、そう思う。
心配はしてくれるし、してもくれるけど、期待はしてくれていないのだと思う。
きっとそれは、パパが凄い人だからだ。
うん。
私はよく知らないけど、パパが凄い人だっていうのは、なんとなくわかる。
パパが私ぐらいの頃は、魔だってとっくに聖級を使えたし、學校に通うどころか、教える立場になっていたらしいし。
五歳になって、町中や公園で遊ぶようになって、んな人とおはようの挨拶をするようになったのだけれど、そういう人たちは、みんなパパのことを知っていて、パパのことを尊敬していた。
特に、すごく偉そうな人ほど、パパを褒めるのだ。
ママたちも凄いのだけど、パパは別格なんだと、私は子供ながらに理解している。
そんなパパが、私に……いや、私たち(・・・)に期待してくれないのも、仕方ないのだと思う。
でも、私はパパに褒めてほしい。
ママたちの教えは守るし、弟や妹たちも守る。
すると、ママたちはたくさん褒めてくれる。
けど、パパにも、褒めてしいのだ。
私はもう七歳だ。
今日から學校にいく。
大人の人も通う學校で、白ママと青ママとパパが通っていた學校だ。
赤ママは通っていなかったけど、たまに先生として剣を教えていると聞いている。
あなたなら大丈夫。今まで教えたことをきちんと守れればやっていけます。と青ママは言ってくれたけど、し不安だ。
大人の人がいっぱいいる所。
そんなところでちゃんとやっていけるのか。
お友達はできるのか。
期待もあるけど、不安が大きい。
でも、きっと、そこで頑張ったら、パパも褒めてくれると思う。
「ルーシーはすごいね。さすが俺の娘だ」って、褒めてくれると思う。
そしたらきっと、期待もしてくれると思う。
だから、それを目指して頑張ろうと思う。
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