《【書籍化】薬でくなったおかげで冷酷公爵様に拾われました―捨てられ聖は錬金師に戻ります―》弟子達の闘
弟子となる人々が集められたのは、それから三日後のことだった。
すごく早い。
どれだけアインヴェイル王國が、窮地に陥っているのかがわかる。
集めたディアーシュ様というか、王陛下達の危機もすごかったのだろうし、見知らぬ怪しげな技を學ぶためにすぐ手を挙げた三人もすごい。
しかも私の依頼通り、薬師が三人だ。
薬師の三人には、切実な理由があって弟子になることにしたようだ。
「薬の材料が手にらねぇんだ」
最初に教わる一人になったのは、薬師ギルドのギルド長だ。
名前はゴラール。
薬師という外見じゃない。正直兵士でもやっているのかと思ったほど、筋骨隆々のおじさんだ。頭はつるっとしていて寒い季節は辛そう。
「材料は取りにいかなきゃならん。王都の壁の外へな。だが誰もできなくなった。魔法が使えないから、今まではたやすい相手だった小さな魔でも命取りになる」
きっとこの人は自分でも採取に出ていたのだろう。剣とか斧とか振り回してそうだもの。
「うちも同じ理由です。薬屋としても商売ができない恐れがあります。あふれるほど魔力石を作って売れば、薬の材料を採取に行く人間や他の地方から運ぶ人間も増えて、容易に手にるでしょう」
そう言ったのは、薬師らしい線の細そうな青年アレクだ。長い淡いの髪を首元で結んで、眼鏡をかけている。
彼は個人で薬の店を持っている人らしい。
「ただまぁ、値段は上がるでしょうね。常に魔力石を仕れないといけないですし。その分、魔力石の販売で資金を貯めたいと思っています」
彼は気質的には商人ぽい。
細目の青年ニルスは、元の私と同じぐらいの年齢だと思う。覚えが早そうだということで選ばれたのかもしれない。
薬も扱う商人のところで、薬を作っている青年だと聞いた。
この三人に、錬金の魔力石を作る部分だけ教えることになった。
まずは最初に行う作業の手順と描くべき図を書いた紙を渡して説明を始める。
魔力を使って魔法の品を作れるようにするための技が、錬金だ。
でも普通の魔法とは違う。
作業としては、に魔力を込めるのが難しい。
様々な作業一つ一つに魔力を使う。その辺りの覚を覚えるのに、やっぱり三人は苦戦した。
「……っ!」
せっかく作った翡翠を溶かしたインクが、魔力の込め過ぎで焦げ付いた。
「え、なんでですかね?」
石に図を描いたものの、魔力を込めなさ過ぎたのか、石からインクがするっと落ちてしまう。
「や、これ難しいわ……」
説明と手順は、それほど難しいものではない。
というか、錬金の基本的知識とかそういうのは省いた。超大急ぎで覚えてもらうためには、魔力石だけ作れる知識だけでいい。
基礎知識やなぜ翡翠なのかとか、水晶を使う意味、何より魔力図の線一つ一つの意味などは除外。
とにかく魔力!
魔力の込め方だけ!
そして魔力石だけでも量産できるようになるといい。
こんな風に弟子をとることになった事も話して理解してくれているので、三人とも魔力のことに集中しつつ作業を覚えようとしてくれた。
良かったことは、教えるのが子供だと最初に説明してくれていたからか、三人とも私を変に侮ったり教えられるのを嫌がらなかったことだ。
おそらくそのことで、儲けと天秤にかけても辭退した人もいるんだと思う。そういう人は、この三人が習得後に教えてもらうつもりなのかもしれない。
それでいいと私は思う。むやみに喧嘩がしたいわけではないし。
とにかく三人はがんばった。
結局一週間。
公爵邸に來てもらって午前中教えて、あとは自主練習を積み重ね、夕方確認。
それを繰り返して――なんとか、魔力石は作れるようになった。
その後、三人が「覚えたてで誰かに教えるのは不安だから、習期間がほしい!」と要求したので、三日ほど時間を空けてから、彼らは魔力石作りの弟子をとったそうだ。
弟子の方も、覚えるのと習とで、二週間かかった。
私はその間、せっせと魔力石を作り続けていたのだけど。十日目にディアーシュ様がやってきて、生産制が整ったことを教えてくれた。
「そうしたら、魔力石はそんなに作らなくても大丈夫ですね!」
「もう作らなくてもかまわないが」
ディアーシュ様が「まだ作るつもりなのか?」と不思議そうに首をかしげた。
「一応、しは作っておきたいです。やっぱり魔力の量が違うので……」
たとえば、私が採取などで誰かに協力をお願いしたい時など、魔力石を持って行くく量が変わる。魔がうごめく森や山にるのだから、しでも軽な方がいいし。
自分が必要になるかもしれないし。
「たしかに、やはり魔力量が違うようだったな」
最初に教えた三人も、彼らから教わった人達も、どうしても石に込められた魔力の量が足りない。
仕方ないことではある。
作ることはできても、その意味や必要な理由を理解していないと、どうしても加減とかそういったことはしにくいし。覚えたたてだから、習度も足りない。
「とりあえず、これからは他のも作ってみてくれ。魔力石以外にも、魔の討伐に役立つが々あると言っていただろう?」
「はい」
買い取ってくれる約束をしていたし、せっかく魔王が師匠になってくれるのだから、んなをたくさん作りたい。
うなずく私を見て、満足したかのように、ディアーシュ様がお茶に口をつけた。
作業場の隣の部屋で話していて、端に控えていてくれるナディアさんが、お茶とお菓子を用意してくれていたのだ。
それにしても、今日は報告があったからだけど、最近、ディアーシュ様が午後のお茶の頃に作業場にやってくる。
何か確認しているようだけど……私がまた疲れ過ぎないようにかな? 中が大人だから、加減はできるのに。
だとしても、ディアーシュ様に話せるわけもない。
私は大人しくお茶とお菓子を頂くのだった。
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