《【書籍化】薬でくなったおかげで冷酷公爵様に拾われました―捨てられ聖は錬金師に戻ります―》霊の元へ

私達は、王都の南西部へ向かった。

數日前の私の進言通り、その場所では霊の周囲を囲むように氷の壁が作られるなど、対策がとられているそうだ。

「その対策が當たって、ずいぶん吹雪かなくなったっす!」

カイが笑顔でそう言ってくれて、私はほっとした。

たしかに王都でも、吹雪はなくなっていた。

(レド様の助言は間違ってなかったんだ)

それがわかっただけでも心強い。

これから、私も使ったことがない、そして文獻すらも読んだことがない未知のアイテムを使うことになる。

きっとこの『霊の眠り』も、効果を発揮してくれると思えた。

「でもその提案もリズがしたって聞いたっす! 一どこでそんな話知ったんっすか? やっぱり本?」

「本……ですかね。それか師匠だったような……」

あいまいに誤魔化したが、カイはそれでも十分だったようだ。

「本読むの俺苦手っす。よく読めるっすね。えらいえらい」

カイは敬語を使ってくれているけど、やっぱり私のことは小さい子扱いする。

馬に乗れない私を前に乗せてくれていたのだけど、そんな私の頭をでてほめてくれた。

ぐぬぬ……。

本當は私の方が年上なのに。

この間何かの拍子に年齢を聞いたら、やっぱりカイは十五歳だった。なのに子ども扱いされるのはちょっと微妙な気分になる。

そんな私とカイの様子を見て、大柄な騎士達がくすくすと微笑ましそうに笑う。

「いいなカイ、仲間ができて」

「ちょうどいい話し相手だな! 可い會話で聞いてるこっちが恥ずかしくなってくる」

からかわれてしまった。

でも否定するのも問題がある。

黙っていると、先頭にいるディアーシュ様がこちらを振り返った。

「お前達、余力があるならし速度を上げろ。ルドの町で宿をとる」

「野宿はしたくありませんからなぁ」

はっはっはと笑ったのは、ディアーシュ様の側にいた襟足まで髪をばした中年の男。今の私の回りほどの腕の太さがある、公爵家の騎士隊長だ。

そうして二人が速度を上げると、他の人達も馬を勵ます。

とはいっても、全部で六人だ。

今回は時間を短するためと、大勢連れて行っても仕方ないので、ほんの數で移している。

この六人というのも、魔に対応するのに最低限それだけの人數が必要だろうというだけで、そうでなければ、ディアーシュ様は私とカイと、隊長だけ連れて行ったかもしれない。

なんにせよ數での移で、霊のせいで寒くはなったものの大雪は降っていないため、道を馬が走れる。

おかげで一泊する町へ、予定どおりに到著できた。

ただ町は、明かりがない。

夕暮れの中、宿と數か所だけ家の明かりがついているだけ。ただ町の周辺には氷の壁が作られ、巡回している兵士の姿もある。

「町の人は……避難したんですか?」

不思議に思って尋ねると、カイが首を橫に振る。

「魔が明かりに寄ってきやすいから、夜は明かりをなくしているだけなんですよ。町の人間が避難するには、魔への対応に人が必要っす。それはむずかしいっすからね」

なるほど。安全に避難させる方が難しいし、寒さは暖石や溫石があればしのげる。なので魔に襲われないようにしてやり過ごすことを選んだのだ。

ここで一泊。

そして翌日、いよいよ問題の場所へ到著した。

「まるで、氷の城ですね」

曇り空の天へ向かってびる、薄青の氷柱。

林立するそれは、高さも違い、円錐形のものもあって、城の尖塔が並んでいるように見えた。

曇天の中の強くないを、この氷の塔がいくつも反して周囲が明るい気がする。

奧には塔を繋ぐ壁が見えて、その先にお城があるように見せていた。

「戦いながらの氷壁建築だったからなぁ。壁じゃなくて塔を作って、その間を壁みたいに繋いだじになったんだよな」

教えてくれたのは隊長さんだ。

霊の攻撃から逃げ回りつつ、これを作るのは大変だっただろう。

レド様の助言に従ってディアーシュ様にお願いしたことだったが、効果があったとはいえ苦労したはずだ。

そして霊は……壁の向こうにいた。

「晝は、比較的おとなしい。攻撃を加えなければ」

「ああ……」

哀しみの聲が、私の口からこぼれた。

その霊は、雪原の上に浮きながら、自分を抱きしめるようにして目を閉じていた。

一見すると、青白い石膏像のようにしい。

真っ直ぐな髪は扇形に広がり、星のようにところどころ輝いている。

その背にはふんわりとした結晶が絡みついて、き通るマントのようだ。

でもすんなりとびた手足が、目を凝らせばひび割れているのがわかる。

パリ、とかすかな音がして、ひび割れた箇所から表面がはがれて落ちた。

――ルル、ルルル。

聲が聞こえた。

たぶん、霊の聲なんだと思う。聞いているとが痛むから、たぶん霊も痛いか辛さをじているんだろう。

こわれかけている、ということが私の目にもはっきりとわかった。

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