《【書籍化】薬でくなったおかげで冷酷公爵様に拾われました―捨てられ聖は錬金師に戻ります―》を育てる研究はまだ続く

冬の間に、まず西の隣國ツォルンへ、使者が旅立った。

私が量産した流炎石を持って、食料の輸をするために。

「元々、アインヴェイル王國は食料の輸をしていた國でした。気候が涼しすぎて、農作の生育が良くありませんし、育てられないもあったので」

今までの経緯を説明してくれたのは、アガサさんだ。

「その量を増やしてくれと頼むだけですし、あちらがしがっているだろう、希な品を持って行くわけですから、渉自は失敗しないでしょう」

「そうだといいです」

いくら私達が植長剤を作ってはいても、限られた農地だけで生産をしていては、みんなが食べるギリギリの量しか作れない可能があった。

もちろん、実験を重ねて長速度を上げたりはしているけれど、やはり限界がある。

今は植長剤をゴラールさん達に任せ、私はいち早く畑とその周辺をし溫めるを研究中だ。

現段階では雪を溶かすことはできても、それで終わってしまう。

溶かした大地の上に作ったアイテムを撒いても、土の上、一メートルぐらいまで溫かくすることができていない。

寒さは、植長が阻害されるだけではなく、枯れてしまう原因になる。

私の理想としては、せめて人の背丈ぐらいの高さまでなんとかしたい。アインヴェイル王國の春の後半、ラーフェンの穀倉地帯の気溫と同じぐらいに溫かくなるまでの間を稼げるといいのだけど……。

「そもそも、撒くのは効率が悪いのかも」

夜の作業場で、私は腕を組んで唸る。

夕食後にここへ來て、作業をしているため一人きりだ。

目の前には赤い鉱があった。インゴットの形をしているのは、材料を魔力を使ってそう形したからだ。

――熱鉱石。

発熱する能力から、わかりやすいようにそう名付けられたとレド様には聞いている。

これまでは砂狀にしたものを撒いて、まんべんなく溫めようとした。

土にれると発熱するように調整したので、それが一番だと思ったのだ。

でも大量に砂にするのも魔力を使うし、塊のままの方がだんぜん効果がある。

あと砂にすると、効果を発揮する期間が短くなってしまう。

塊のままだと三ヵ月、砂だと一カ月くらい。

時間をじっくりととって確認してはいないものの、熱鉄の中の魔力の減り方からすると、それぐらいの期間持つ計算になる。

「塊のまま……だと、ちょっと難しいですよね?」

今日も呼んでいたレド様に相談する。

レド様は可い白貓姿だ。

(もう、サリアン殿下と似ている姿にはならないのかな)

あの時は驚いたけれど、過ぎ去ってしまうと、もう一度見たいなと思ってしまう。懐かしく溫かい記憶がある人の姿だったから。

でもあの時の口ぶりからすると、事は話す気はないようだし。

だってあの後、何度か呼んで教えてもらっているけれど、一度だってレド様はサリアン殿下の姿にはならなかった。

(あの姿になれる條件が、けっこう厳しいのかしら)

一方で、あの姿で『サリアン殿下とレド様に何か関係がある』ことを私に知らせる必要があったのだ、と私は推測している。

でなければ、レド様がわざわざ人の姿になってみせる――しかも、サリアン殿下の姿を選ぶ必要はないのだ。

私がそんなことを考えている間、レド様も腕組みして首をかしげていた。

「知ってはいても、こんな風に使うことはなかったからな。確かに、効果時間のことを考えても、溫められる範囲を考えても、砂のままでは積もった雪を溶かすだけで、収穫できるまでの大きさに生るまで植を守れないだろう」

「はい、そうなんです」

最初は、この寒い中でも芽が出たことを、無邪気に喜んだ。

でも植長剤で日に日に草丈がびていった後……先端から霜にやられて、すぐに枯れてしまった。

念のため、アインヴェイル王國の雪解けの時期に近い気溫にした小部屋を一つ用意してもらい、そこで育ててみる実験もした。でも熱鉱石の効果が及ぶ範囲を超えて長すると、寒さにれるところから枯れてしまう。

「何かいい知恵をお持ちではありませんか?」

自分でも々と試した末に、困り果ててレド様にご教授をお願いしたのだ。

レド様も熱鉱石を見つつ、「うーん」と唸る。

手でれて、何事かを考えていた。

「効果を下げないためには、塊の狀態で使うべきだな。そうすると、作る量と置き方に問題が出て來るか……。このまま置く方法だと、リズ一人では、必要量は作れないだろう」

まさにそこで悩んでいたので、うんうんと私はうなずいた。

「範囲を計る……」

レド様はぶつぶつと言いながら、熱鉱石にちょいと足先でれ、大になって一歩。もう一歩と離れていく。機の端からひょいと下り、し離れた飾り棚に上り、さらに離れた暖爐に上ってから戻って來た。

次にぴょんと飛び上がる。

し考えた後、私の肩に飛び乗り、さらに頭の上に。

「え、レド様?」

「立ち上がれリズ」

「はい……?」

指示された通りに立ち上がると、途中で「うむ、そうか」とつぶやき、レド様はひらりと機の上に降り立った。

「熱鉱石の効果は、一応そなたの腕ほどの高さと、その三つ分の距離まではある。それでぎりぎりの範囲に並べたりすることができれば、丈高い作でも寒さにやられたりはしないだろうが……」

「ちょっと無理がありそうな」

私は、畑を小さく區切るように張り巡らされた棚と、そこに置かれる熱鉱石の景を想像してしまう。

鉱石の數はやっぱり當初想定した倍は必要になるし、棚を作ってもらわなくてはならない。

「棚の材料の輸送……組み立てる人員、作業の時間……」

考えていた通りに、雪が溶け切らないうちにすばやく農作の栽培を始めるのは無理だ。春の例年通りの作付けより、しだけ早めに種まきができるぐらいにしかならない。

「それなら植長剤の方をどうにかしたらいいかな」

「これ以上は無理だろう。調合のバランスの限界だ」

レド様は、機の端に置いていた、緑のった瓶を振り向く。先にレド様にも見せておいた、植長剤だ。

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