――そして朝。

騒がしさで私は目を覚ました。

雨避けの布を張った下で眠っていた私は、飛び起きて狀況を知る。

「え、魔！？」

ディアーシュ様達が戦っていた。

バッタの形に赤褐の巖が固まったような姿の魔だ。カチカチと羽に似た部分で音を出しながら、飛び跳ねて騎士達を襲っている。

質も巖そのものなのか、騎士達は攻撃をけ止めては腕の負荷にうめいていた。

すぐに防や腕力の強化の魔法などを使っていたけど、それだけでは相殺できないみたい。

いつも通りのきを見せながら、痛みすらじていないのはカイぐらいだ。

そして、より異様だったのはディアーシュ様だ。

剣を一閃する度に、あふれる炎の波。

素早く魔を焼き切っていく姿は、魔王のように強く恐ろしい。

ゆるがないディアーシュ様の強さに、魔達も警戒する。

そしてディアーシュ様に気を引かれたところを狙い、他の騎士達が攻撃していく。

何か手伝わなければと思ったけど、その必要もなく、またたく間に戦いは終わっていった。

最後の魔が倒れ、煙となって消えた時に、深く息を吐く。

私も相當張して、息を詰めていたらしい。

「もう大丈夫ね」

私の側にいたアガサさんが、抜いていた剣を鞘に収めた。

「さ、食事をしてしまいましょう」

アガサさんにうながされて、朝の食事の支度を手伝う。

パンと干しをれたスープを胃の中に押し込んで、早めに終わらせる。魔がまた出たら……と思うと、ついつい急いでしまうのだ。

そして食事後、ディアーシュ様と私、アガサさんとカイだけで山を登った。

「どうして他の騎士を置いて行くんですか？」

よくわからなかったので聞いてみると、ディアーシュ様が答えてくれる。

「馬を守るには人數が必要だ」

簡素な返事に、それならもうし多く連れてきたらいいのに……と思いつつも、そのあたりに明るくない私はうなずくしかない。

アガサさんも、あいまいな笑みを浮かべるばかりで、カイなどは口笛を吹きながら歩いて行く。

ここからの登山は、最初だけ大変だった。

地面から盛り上がるようにして土と巖が魔に変じて行く。

その度に、ディアーシュ様とカイが藪を切り開くかのように倒してしまう。おかげで、私は安全に進むことができた。

やがて、地面が赤黒い場所へ到著した。

そこから上は、山頂までずっと地面のが赤黒い。火山の火口近くはこんなじなのだろうか？

本でしか知らない私には、実際のところがわからない。

でも魔が出にくくなったおかげで、採取ができた。

荷が重くなってしまいそうなところだけど、きちんと対策はしてある。

「よろしくね」

沢山鉱石を詰めた袋が、ふわっと持ち上がる。

袋を持ち上げているのは、四羽の銀の鳥だ。金屬のような姿でありながら、生きのように大きな翼を羽ばたかせ、飛んで行く。

これぞ私の兵。鳥の姿をしたアイテムだ。

印になるアイテムをつけた屆け先へ、飛んで行ってくれるのだ。その鳥に荷をぶら下げさせれば運搬してもらえる。

ただ、それを十二羽ほど持って來たせいで、ディアーシュ様にあきれられた。

「よくそんなに持ってきていたな」

「あって悪いものでもないですし、軽いので」

なんとかして採取を大量に持って帰りたかった私の、苦の策なのです。

誤魔化し笑いをした私に、ディアーシュ様はため息をつく。

「ひとまずそこにいるように。周辺に魔が來ないことは先ほど確認したが、一応魔力で壁ができる魔法をかけていく」

そしてどこかへ行こうとする。

「どちらへ……」

聲をかけた私を振り返り、ディアーシュ様は……なぜかし、困ったような顔をした。

（この人も、こんな表ができるんだ）

新しい発見をしたような気がして、私は言葉が止まってしまった。

一方のディアーシュ様も、しばらく何も言わずにいて……。

「アガサ、頼む」

なぜかアガサさんに後を任せて、次にカイを見る。

「必ず守れ」

「お任せください！」

元気なカイの返事を聞き、ディアーシュ様は今度こそ歩み去ってしまった。

彼の向かう先にあるのは、山頂よりし下の火口だ。

そこに何があるんだろう。

「アガサさん。ディアーシュ様が火口へ向かった理由を聞いてもいいですか？」

ここまで來たら、さすがに教えてもらえるのではないだろうか。

私と同じように、ディアーシュ様の姿を見送ったアガサさんは、振り向いて悲しそうな笑みを浮かべる。

「このアインヴェイル王國で最も危険な場所よ」

「危険って、火口には強い魔でもいるんですか？」

アガサさんはうなずいた。

「ええ。……魔王が」