《【書籍化】薬でくなったおかげで冷酷公爵様に拾われました―捨てられ聖は錬金師に戻ります―》魔力の暴走ですか?

『私に差し出すのではなかったのか?』

「お前にくれてやるのはまだ先だ」

ディアーシュ様が剣を持ち上げた。

そのきに、魔王の目が赤くったような……。

「伏せて!」

アガサさんに抑えられるようにして、巖影に頭を引っ込める。

ぐっ空気の圧が駆け抜けていく覚。

次いで、焼けるような熱さをじたが、両側にいたアガサさんとカイのマントに庇われて、熱が遠ざかった。

「ディアーシュ様は!?」

こんな熱波の中で、ディアーシュ様は無事なのか。

思わず確認してしまった私に、アガサさんがうなずく。

「まだ大丈夫」

「でも、ちょっとヤバイっすよ」

カイの言葉で巖から顔を出して見れば、ディアーシュ様はまだ立っていた。

けれど、今までと違って、袖やマントに一部焼けこげた跡ができている。

怪我をしたかもしれない。

だけど平然とした表のままだ。対する魔王は苛立った顔をしているのに。

『強な……』

顔は瓜二つでも、その聲だけは違う。魔王の方がし高めだ。

「そのの主は、その程度でもよかったのだろうが、私には生ぬるいな」

ディアーシュ様は右腕に繋がる鎖を強く引く。

魔王が気づいて手を引くよりも先に、ディアーシュ様は鎖を斷ち切り、鎖に引かれて近づいた魔王に切りつける。

「…………!」

まさか、魔王を倒した!?

剣の軌跡から吹き出すように飛び散った赤い羽が、あたりを覆いつくす。

それが風に吹き飛ばされるように消えた時、魔王の姿はそこにはなかった。

「倒した……わけじゃない、よね?」

魔王は撤退したの?

思わず姿を探してしまう私の橫で、カイが飛び出して行く。

「閣下!」

カイの聲に、ディアーシュ様が振り返る。

一歩、二歩と歩き出して、そこで膝をついた。

私は目を見張る。

ディアーシュ様が力無く膝をつく姿なんて、想像したこともなかったから。

(まさか、魔王の攻撃でひどい怪我をしたの?)

私も巖から飛び出した。先に行ったアガサさんを追いかける。

ディアーシュ様は、カイの肩を借りて立ち上がった。だから命に別狀はなさそうだったのだけど。

「閣下、これを!」

アガサさんが何かをディアーシュ様の手に押し付けて、握らせた。

以前ディアーシュ様から渡された、黒い石だ。

よくわからないけど、魔王の攻撃をけた時に役立つのかな。

「私が預かったも使いますか?」

「お願いするわ」

アガサさんにそう言われたので、急いであの黒い石を出す。

どう使うのかはっきりわからないので、アガサさんに渡すと、彼はそれをディアーシュ様に握らせていた自分の石と換した。

「あ……」

アガサさんが先に握らせた石が、灰になっている。まるで路傍の石みたいに。

(どういうこと?)

石がこんな風に変化するなんて、魔法の力が込められた石だったのか。そして魔力を使い果たしてしまった?

でもどこに魔力を使ったのか。握っただけなのに。

(違う、握った手から魔力を吸収した?)

魔力を失ったの? でも、なにか違う。ディアーシュ様は強い魔法を使ったのではなかったし。顔はどこか土気をしているように見えるから、何か変化があったのだろうけど。

「落ち著きそうですか?」

心配顔で聞くアガサさんに、難しい表をするディアーシュ様。

「魔力が足りないのなら……」

「いや、おそらく追撃がある。無駄に使うな。自分の魔力は抑える」

「もう來たっすよ!」

周囲を見まわしていたカイがぶ。

同じ方向に目を向けると、火口からはい出してくる者がいた。赤い鉄を溶かして、人の形にしたようなそれは、明らかに魔のたぐいだ。

ディアーシュ様は再び膝をつき、カイに掃討を命じた。

「私はどうにかできる。あれが山を下りたら面倒なことになる。始末してくれ」

「もちろんっす!」

カイは剣を抜いて走る。

その剣からは、白くゆらめく湯気のようなものが見えた。剣に氷系魔法をまとわせているのかもしれない。

一気に坂を駆け上り、立ち上がった魔に切りつける。

蒸気に似た音。

カイの周囲が白く煙ったかと思うと、飛び退ったカイが現れた。

すぐに煙が消え、倒れ伏して真っ二つになった魔が、地面に溶けるように消えて行く。

カイは何度かあの魔とやりあったことがあるんだろう。

アガサさんもディアーシュ様から魔への対応を命じられて、私達からし離れた。

私はディアーシュ様の側に近づいた。

「ディアーシュ様、もしかして魔力の暴走ですか?」

狀況的にそうとしか考えられなかったんだけど、ディアーシュ様はうなずいた。

どうしてディアーシュ様が魔力を暴走させてしまったの?

さすがに魔王との対峙は危険だったんだと思うけど。魔王とは話をするばかりだったけど、魔力でなにか爭っていたのかな。

魔力で直接押し合いをするのが魔王の攻撃の仕方だったのかもしれないけど……。なぜそんな方法をとったのか。私は引っかかりをじた。

「ここから離れる」

剣を抜き、杖のようにしてディアーシュ様が立ち上がった。

背丈が違いすぎて、私では支えられないけれど、ディアーシュ様に付き添って山を下り始める。

背後ではカイとアガサさんが戦ってくれている。

アガサさんも氷の魔法を駆使して魔きを止め、何度も切りつけて倒していた。

けれどその後からも魔は出て來る。

ある程度下ったところで、ディアーシュ様は振り返った。

カイでさえ、次々に出て來る魔に押されていた。じりじりと戦う場所が後退している。

さっき私が隠れていた巖よりも下に來ていた。

アガサさんはそのさらに下。

は五

それらを見たディアーシュ様は、剣を振り上げる。

「アガサ、カイ、橫に!」

指示と同時に、剣を振り下ろす。

ディアーシュ様の剣から、炎が雪崩のように生まれて噴き出す。

二人が素早く左右に移し、山を駆け上る炎を避けた。

炎に取り巻かれた魔は、それ自が熱を持つ存在だというのに、ディアーシュ様の炎に溶け、消滅していく。

「なんて……」

より強い炎で、小さな火を燃やし盡くしたようなじだ。

力押しの方法に驚いていると、ディアーシュ様が地面に座り込んだ。そのままがかしいでいく。

「ディアーシュ様!?」

慌てて近づいて、なんとか頭が地面にぶつかる前にけ止めた。

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