アリアがアインヴェイル王國にいる。

狀況を知るためにエントランスに集まっていた人達は、誰もが言葉を失った。

（どうして？　何をするため？）

アインヴェイル王國をいじめたりないのかもしれない。そんな解答が私の脳裏をよぎるけど、それだけじゃないとも思う。

アリアは基本的にちやほやされて、誰かに全て行してもらって自分の願いを葉えたい人間だ。

そんなアリアが、アインヴェイル王國に舞い戻ったのだ。裏があると思うのが自然だ。

「ラーフェンから……いつ？」

最初に聞き返したのは、アガサさんだった。

ディアーシュ様と年が変わらなさそうな騎士は、急いで走ってきたせいでれや息を鎮めて、慎重に答える。

「こちらが農地に錬金の品を設置してしばらくの頃だと。霊に攻撃されそうになって、國境は通すしかなかったそうで。最初は王都へ行き、錬金師を連れて來いと騒いだとのこと」

私はぎゅっとを引き結ぶ。

やっぱりアリアは、錬金と聞いてすぐ私のことを思い浮かべたんだ。だから私がまだ生きていて、錬金師として暮らしているのを壊そうとした。ついでに、そんな私を保護したアインヴェイル王國にも難癖をつけようとしたんだと思う。

「王陛下はどのようになされたのです？」

「はい、王都に殘った錬金師達と相談し、ニルスが錬金師だと聖に名乗り出たと。アレクだけでも殘さなければ、萬が一の時に王都での魔力石や暖石の製造などに支障が出るだろうから……と」

ニルスがそう決斷した理由が痛いほどよくわかる。

たぶん、アレクの方が薬師としての知識も深いので、錬金の技を殘す方として定めて、商人として口の上手い自分が矢面に立つことにしたんだ。

「しかしあの聖は、神殿からリズ嬢のことを聞いて知っていました。神殿は、あの聖にすり寄ることを選んだみたいで……。リズ嬢が王都を出たことを言わざるをえなかったようです」

「王都の人達を守るには、それしかなかったと思います」

私はそう言って、王陛下のことを思う。

なによりも優先するのは國民の命だ。霊をあやつる聖アリアに対してできることは、アリアを遠ざけることだけ。

だから報を與え、猶予を作った。

（たぶん、ディアーシュ様が魔王をかし、アリアの力を取り上げることに賭けるしかなかった）

アリアが到著するまでの間に、遂行できれば……。アリアは無力化され、脅威とはならなくなる。

後は王國に攻撃を加えたということで、アリアを捕縛するなりすればいいだけだ。

上手く行けば、の話ではあるが。

アガサさんが騎士に尋ねた。

「それで、王陛下は何かこちらに伝言をしていないのですか？」

「王陛下は、もし目的が達できないようなら、聖とかち合わないようにして、先んじて王都へ戻って來るといい、と。次善の策を使うため、閣下には協力を頼みたいとのこと」

「……あの聖は閣下に執著していたものね。だまし討ちするにも、閣下が演技をしてみせなければならない、とお考えなのかもしれない」

たとえば、ディアーシュ様がアリアに服従するような演技をして油斷させ、アリアを暗殺するようなことだろうか。

私は心が苦しくなる。ディアーシュ様にそんな真似までさせるなんて……という思いと、ディアーシュ様を夫のように扱いたいのだろうアリアのことを想像してしまい、悔しさをじた。

「それにしても、なぜこの時期に」

一人の騎士が悔し気に言う。

「我らの行などわからないはずなのに……」

たしかに、と誰もがうなずく。

まるで、ディアーシュ様が魔王に働きかけてアリアの力を奪おうとしているのを察したように、やってきたのだ。不審に思うのが普通だろう。

その疑問に、応える人がいた。

「魔王が呼んだのだろう」

「閣下！」

騎士達が驚いて私の後ろを向く。

階段を下りてきたばかりらしい、ディアーシュ様が立っていた。

「お、おは大丈夫ですか？」

「閣下！　安靜にしていなくては！」

私含めて騎士やアガサさん達が一斉にディアーシュ様に駆け寄る。押されそうになったものの、ディアーシュ様の後ろを支えたのはカイだ。

「起きたなら知らせてくださいっす。本調子はまだなんっすか？」

「二日あればどうとでもなる。それで、例の聖の話は聞いていた。おそらく魔王が、私に攻撃されることをじて例の聖を呼んだのだろう。邪魔をさせるために」

「そんな……」

中年の騎士が悔しそうな表になった。

騎士達を勵ますように、ディアーシュ様は言う。

「心配するな。たとえこちらにあの聖が來てもなんとかする。むしろあの火山におびき寄せるつもりだ。そうすれば、王都や周辺の町にいちいち悪行を働くこともない」

ディアーシュ様の言葉に、誰もが希を見出した表になる。

だけど、不安だ。

なにより自分にできることが思いつけなくて、悔しさばかりが募る。

でもディアーシュ様が食事をしたりする間も、邪魔をしないようにじっと黙って、悔しさに耐える。

何かできることはないのかな……本當に？

考える私とアガサさんに、ディアーシュ様が聲をかける。

「話がある」