問題を解決した後、私達はアインヴェイル王國の王都へ戻った。

けれど私は公爵邸に行くのではなく、王宮の片隅でごやっかいになることにした。

なにせ姿が子供に戻らない。

私のことを子供だと思っている人ばかりのところへ、何の準備もなく戻るわけにもいかない。

それに疲れきっていたこともあり、王陛下がひっそりと休める場所を提供してくれたのだ。

同じようにサリアン殿下も、ディアーシュ様に助けられて保護された、という形で王宮に滯在していた。

だけどお互いに休むことが必要だったから、久々に再會したのは一週間後のことだった。

「ごめんね」

春のしが降り注ぐアインヴェイル王國の庭で、四阿にいたサリアン殿下はそう言った。

春とはいっても早春。

空気はまだ涼しすぎるので、外でお茶を楽しむものではないと思うけど、溫石があるので問題はない。

もうし溫かくなると、逆に溫石も暖石も暑くじてしまって使えなくなる。しばらくは生産しなくても良くなるだろう。

「なぜ謝罪を？　私は助けていただいてばかりだったのに……」

私がそう言うと、サリアン殿下は苦笑いする。

「リズを騙したりしてたから。でも、リズを守るためだったんだ。違う魔王が與えた力は、僕では消せないから」

サリアン殿下は話してくれた。

自分は魔王のだったと。でもまだいせいで、魔王のになることはできない。

だから魔王の協力を得て、ラーフェンから私を逃がすことしかできなかった。

魔王であるレド様の方も、違う魔王が関わることに、手を出すのは難しい。だからラーフェン王國では私を救うことができなかったのだ。

「それで、アインヴェイル王國に行くように仕向けたんですね？」

サリアン殿下はうなずいた。

「剣は跳ね返すようにしていたんだ。それでレドの薬を飲めば、姿を変えて逃げられる。そしてアインヴェイル王國は子供に比較的優しい國だから、子供の姿なら大丈夫だと……」

サリアン殿下は、をうるおすようにお茶を飲む。

「そして異國人だとわかれば、その頃國境付近に炎の魔王のがいただろうから、保護されると期待していたんだ。なによりリズの錬金は、魔法が使えなくなった國でこそ真価を発揮する」

「それで……私をディアーシュ様が側で守ってくれるだろうと？」

「上手く行かないようなら、レドが君の持つ瓶を通して、彼に接したはずだよ。炎の魔王のだからこそ、あの聖が唯一霊の力を使っても殺せない人だったから。でも、その必要はなかったらしいと聞いてるよ」

サリアン殿下が、そこまで考えていたとは。

そして結果的には、殿下が考えた以上の果があった。

アリアから逃れるどころか、彼の力は消滅し、彼もいない。

「僕はラーフェンに戻るよ。あの聖がひっかきまわした國の後始末もあるし」

王子であるサリアン殿下が、異國に留まり続けるのは難しい。そして殿下がであるからこそ、戻らなければラーフェン國王が大騒ぎをして、アインヴェイル王國に難癖をつけるだろう。

「今、無事に僕が戻ってアインヴェイル王國の公爵閣下に助けられたと言えば、國王達もアインヴェイル王國に頭が上がらなくなるだろうし。リズは……どうするの？」

尋ねられて、私は答えに詰まる。

王陛下達にも、私の自由にしてもらっていいと言われている。

ただ心配なのは、助けてくれたサリアン殿下のことだ。

ラーフェン王國に戻ったサリアン殿下は、またひとりぼっちになるのだ。今度は私も魔王のについて知ったのだから、もっと寄り添ってあげられるのに……。

自分もまた、サリアン殿下のことを家族のように思っていた分、切ない気持ちになる。

そこでふと、サリアン殿下が言った。

「行ってあげるといいよリズ」

「？」

首をかしげ、サリアン殿下が見ている方を向く。

「ディアーシュ様……」

し離れた場所に立っているディアーシュ様。

警備のための騎士や近衛兵よりも遠くにいるから、言われなければ気づかなかった。

「きっとリズを待ちくたびれてる。あと、たまに遊びに來ていいかな？　僕にとっての『お姉さん』は、リズだけだから……」

微笑みの中に寂しさがのぞく。

王陛下からも先に事を教えてもらっていたけど、サリアン殿下は寂しかったのだ。

レド様の次のであり、ラーフェン王家は魔王とのかかわりを伏せていた。

そして魔王の話は家族にも口外しないようにしていたらしい。

國王とになる人間だけが知る極事項になっていたため……強い魔力を持つサリアン殿下は、國王に大事にされているらしいということで、王位を末っ子可さにサリアン殿下に與えてしまうのでは？　と疑われてしまったらしい。

第一王子と第二王子、そしてサリアン殿下の母が違うせいで、王位爭いは母方の貴族達の間で加熱し、サリアン殿下も巻き込まれそうになった。

サリアン殿下は、弱々しい子供を裝うことにした。

すでに魔王であるレド様との流を始めていたサリアン殿下は、レド様のれ知恵によってそう行したそうだ。

だから兄弟は頼れなかった。

諦めきって、家族などいないものだと思っていたサリアン殿下。

しかし今度は何も知らない貴族達が婚約者を紹介して來て、そこからまた王位爭いに引きずり込まれるのを警戒していた頃――出會ったのが私だった。

最初は、神殿に出りすることで、神になりたがっていると思わせるつもりだった。

けれど裏表のない、謀とは縁がなさすぎる私だったらと、姉のように慕うことができたらしい。

――唯一の家族と思った人なんです。

サリアン殿下はそう言っていたという。

「もちろんです」

微笑むと、サリアン殿下も笑みを返してくれた。