《【書籍化】生贄になった俺が、なぜか邪神を滅ぼしてしまった件【コミカライズ】》初めての霊契約

「言っておくが、次に攻撃をしてきたら容赦なく撃つからな?」

『ははは、はいっ! そんな滅相もないのですよ! 逆らう気などみじんもないのです!』

巨大な図をこれでもかというぐらいこまらせたドラゴンは涙目になると頭を地面へと押し付け降伏のポーズをとった。

その様子をセレナは信じられないものを見るように放心して見ていた。

「セレナ。そろそろ離れて貰っていいか?」

怖かったからなのだろう、これでもかというぐらい全力で抱き著いてきたので顔が近い。

「あっ……うん。ご、ごめんね」

パッと手を離すと顔を赤らめて離れていく。

『ちっ』

「何か不満でも?」

『ななな、何でもないのですよ。わ、我は不平不満を言わない霊王で有名なのです』

「まあいいか。それじゃあ早速契約をするとしよう」

『わかったのです。では我も本で姿を現すのですよ』

「本?」

俺が疑問を口にしたと同時にポンッと音がしてドラゴンのが霧散した。そして煙が上がる。

「なんだっ!?」

俺は警戒心を引き起こすのだが……。

「多分大丈夫よエルト。霊の契約は人型でないとできないの。だから本來の姿に戻っただけだから」

時間が経つにつれ煙がはれていく。そしてその場に姿を現したのは…………。

「獣人……?」

ウサギの耳にウサギの尾をに著けたの子だった。

「ううう、だから人型になるのは嫌だったのです」

口を開けて驚く俺たちをよそに頭を抱えて涙目でこちらをみる獣人の

黒の布地はに吸い付くようにを覆っているが背中をほぼ出させている。

「お、お前がさっきのドラゴンか?」

思わず確認をしてしまうとウサギの獣人はビクリと肩を震わせると。

「い、いじめる? です?」

涙目になるとそう聞いてくる。思わず保護いそうな仕草だ。

そう思ったのはどうやら俺だけではないらしく……。

「ねぇ、エルト。可哀想じゃない?」

まるで自分が子をげているような覚になる。俺は溜息を吐くと……。

めないよ」

そう呟くのだった。

「それで、その恰好が本ということでいいんだな?」

風の霊王が落ち著いたところで俺は改めて目の前の人に質問をすると。

「厳に言うと違うのです。この格好は數千年前に邪神と戦った時に呪いをかけられたものなのですよ」

なんでも、目の前の霊王は數千年前に仲間と共に邪神に戦いを挑んだらしい。

その時に邪神は彼に呪いをかけたようだ。

「人型になるとこの姿になるのです。だからマリーはなるべく人前に姿を出さないようにしていたのですよ」

なくとも先程までのドラゴンよりはましだと思うのだが……。

「そのマリーというのは?」

「あっ、マリーはマリーなのです。前のご主人様がつけてくれた自慢の名前なのですよ」

そう言ってを張るとの一部が強調された。

「まあいいか、それじゃあ契約をするぞ」

俺は目的を果たすことにした。

「そっ、そのことなのですが……やはりやめておいた方がよいのですよ」

「それは約束を破るということか?」

ビクリとを震わせるとマリーは恐る恐ると上目遣いに俺を見上げる。

「ちちち、違うのですよっ! ただ、霊王と契約するのにはものすごいコストが必要なのです。これまでもマリーと契約をしようと何人もの霊使いが現れたのです。だけど、誰1人契約に功した人間はいなかったのです!」

どうやら噓を言っている様子はない。

霊王との契約に失敗すると命を失うことになるのです! マリーはこれ以上ヒトの命を奪うのは嫌なのです!」

「でもそれなら契約を斷ればいいんじゃあ?」

セレナの疑問にマリーは答える。

霊王には契約を挑まれた時點で応じる義務があるのです。だからマリーは2人にそれを言わせないで追い払おうと魔法を使って脅したのですよ」

「なるほど。あくまで善意による行だったと?」

「なのですっ!」

はっきりと青い瞳が俺を真っすぐに見つめてくる。どうやら噓ではないらしい。彼は俺を心配しているようだ。

「話はわかった」

「良かったのです。それじゃあ、マリーは適當な大霊か上級霊を呼びつけて契約の準備でも――」

「いや、お前と契約する」

「なんでなのですかっ!? 話を理解したんじゃ?」

マリーはウサミミをピンと立てると大聲を上げた。

「それじゃあ、エルトはそこに立って。マリーちゃんはその正面ね」

霊の契約をするので俺とマリーは向かい合わせに立つ。

「いいこと? 霊契約に必要なのは両者の同意とコスト容量よ」

その言葉に俺とマリーは頷く。

「通常コストが足りなければ契約は立することがなく、同じ霊とは2度と契約を結ぶことはできなくなるの」

今回の場合、もし契約が不立の場合は俺の命が無くなるらしいのであまり関係のない話だ。

「ううう、本當にやるのですか? マリーはこれ以上死なせたくないのですよ」

耳をぺたりと伏せて浮かない顔をしているマリー。今からでもセレナに止めてしそうな顔をしているが……。

「それじゃあエルト。契約の言葉を私の後にしたがってなぞってね」

「わかった」

セレナはコホンと咳ばらいをすると【契約の言葉】を口にした。

「我が名はエルト。我、汝に名を與え、ここに契約を結ぶことを宣言する」

契約の言葉を口にすると俺とマリーの周辺を緑が覆った。

「これが契約の結界よ。いったん発すると契約を完了しない限り2人はここから出られないわ。さあ、マリーちゃん続きを」

セレナが促すとマリーは覚悟を決めると……。

「我は霊王。汝の良き隣人として共に歩むことをここに誓う。願わくば我に名を與え契りを結ばんことを……」

マリーのから緑が溢れ俺に流れ込んでくる。

「これは……?」

「今マリーちゃんから出ているオーラがエルトのを測っている。彼という存在をれる資格があるかどうかそれが試されているのよ」

の中にマリーが流れ込んでくるのがわかる。互いの意識にれ合い、記憶にれている。

は數千年の間ずっとここで過ごしていたようで、寂しかったが伝わってくる。

「これは……エルトさんはだからこそ……そうなのですね……」

一方、マリーも俺の記憶にれているのか、最初は浮かない顔をしていたくせに今では嬉しそうな笑みを浮かべている。

「だからエルトさんはあれを使えた……これなら確かにマリーをれることも……」

そうこうしていある間にマリーから流れ込むオーラの量が減りやがて…………。

「これで1段階は完了ね。エルト問題はない?」

「ああ、どうやらコストとやらも足りたようだな」

マリーの瞳が潤み涙が零れる。いまならその意味が理解できた。

は數千年待ちわびていた。新たに自分を使役できる存在を。

「それじゃあ最後は名前を與えてお互いの力を通すパスを作っておしまいね」

セレナのその言葉に頷くと……。

「我、エルトは汝に【マリー】の名を與える」

「えっ? 前の名前でよいのです?」

驚きの表を浮かべるマリー。

「ああ、お前は前のご主人様が大好きだったみたいだからな。思いれのある名前は奪えない」

1人になる前のマリーはとても幸せそうに仲間たちと過ごしていた。俺はその名前と思い出を奪うことはしたくない。

「ありがとうなのです。エルト様」

激したマリーは俺に近寄ってくる。そして……。

「さて、最後はマリーちゃんがエルトにれてパスを作ればおしまいよ」

「マリーはずっと孤獨だったのです。だけど、今日こうして新しいご主人様に會うことができた。ここに籠っていた數千年の月日は辛かった。でもそれもご主人様に會えたことで無駄ではなかったのです」

マリーが両腕を回し俺に抱き著いてくる。そして…………。

「なあっ!!」

セレナの驚き聲が谷に響き渡る。

視界一杯にはマリーの青い瞳が映り込み、にはらかいが……。

しばらくするとマリーはを離した。

「ちょ、ちょっと! 何をしているのよっ!」

契約が終わり、オーラが消えるとセレナは目に涙を浮かべるとマリーに詰め寄った。

「えへへへ、ご主人様と契約をしただけなのです」

そういうとを指でなぞって見せる。どうやら俺はマリーにキスをされていたようだ。

「ふざっけんじゃないわよっ!」

セレナの怒りが周囲に響き渡るのだった。

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