「ついにあの邪魔者を追放してやりましたね！」

「お見事でしたよ、大臣様！」

ここはランナー王國。

アンジェリカがつい先日まで宮廷魔師をしていた國である。

王宮の一室では、ジャーク大臣とその取り巻き達、レイモンドとカヤックが品のない笑い聲をあげていた。

「當然ですよ。あの獣人はうろちょろして目障りでしたからね。そもそも、劣等種に宮廷魔師など務まるはずがないのですよ」

大臣は取り巻きたちの言葉に気分を良くして、ふふんと鼻を鳴らす。

普段は表一つ変えない彼であるが、アンジェリカの解雇はよほど喜ばしいことのようだ。

「國王は予定通りいなくなりましたし、これでこの國は大臣様のものです。何もかも予定通りですな！」

取り巻きの一人はさらに小ズルい顔をして、そんなことを言う。

その表はを共有するもの同士のいやらしさに溢れていた。

「あの平和ボケした國王がいなくなり、劣等種もいなくなり、全ては順調ですな！」

大臣は取り巻きの言葉に深くうなずく。

そう、彼らはこのランナー王國を手にれるための謀を張り巡らせていたのだ。

「ふふふ、後は隣國、ワイへ王國を攻め落とすだけです！」

「さすがは大臣様！」

「私たちの誇りです！」

大臣は目の奧をらんらんと輝かせて、とりまきの賛辭にこたえる。

取り巻きたちは大臣の機嫌を伺い、さらにおべんちゃらに終始する。

みっともない男たちのなれ合いが繰り広げられるのだった。

しかし、その空気を破壊するものが現れる。

「だ、大臣様！　街道にモンスターが出始めましたぁっ！」

味い食事を平らげて、気持ちよくワインを傾けていた時のことだ。

部下の一人が駆けこんできたのだ。

「な、なんですか、みっともない！　モンスターごとき、どうして退治できないのです！」

大臣はルールとマナーに厳格な男である。

ノックもせずにってきた部下を叱責する。

「も、申し訳ございません！　で、ですが、非常に強いモンスターです。冒険者はおろか、宮廷魔師の若手三人衆も歯が立たず逃げ帰ってきました！」

「な、なんですって！？」

部下の報告によると、宮廷魔師の三人組が討伐に向かうも返り討ちにあったとのこと。

命に別狀はないというが、評判を落としたことは間違いなかった。

「ええい、あの者どもも末席とはいえ宮廷魔師の端くれ。名前を汚すようなことをするなんて許せませんね……」

大臣はぎりぎりと歯噛みをする。

彼自、宮廷魔師から大臣へとり上がった男である。

無能な部下にいらだちを隠せないのだった。

もっとも彼は知らない。

ここ一年間、宮廷魔師の多くは実戦に出ていないということを。

ほとんどのモンスター討伐はアンジェリカが何気なく終わらせてしまっていたのだ。

彼らの悲劇はアンジェリカがどんな魔を打ち倒しても、それをインチキと見て顧みなかったことにあるのだった。

「魔法兵団を出して數で抑え込みなさい！」

大臣はふぅっと息を吐いて怒りを鎮める。

それから比較的冷靜な策を命令するのだった。

この大臣、アンジェリカなど獣人への差別は別にして、ただの愚か者ではない。

必ず勝てる戦いをする、狡猾な男だったのだ。

「さて、レイモンドさん、カヤックさん、いよいよ、計畫を実行に移すときです」

ひと悶著が過ぎると、大臣は取り巻きの二人に再び向き直る。

一人の男の名前はレイモンド。

人呼んで、漆黒のレイモンド、という人である。

長くびた黒い長髪に切れ長の黒い瞳。

も淺黒く、おそらくは下著も黒い、吐く息さえも黒そうな男だ。

眼は鋭く、それは彼の扱う魔法の種類にもよっているのだろう。

「ははっ、このレイモンドにお任せください。必ずや、ワイヘ王國を混の渦におとしいれて見せます」

彼は跪きながら、にやりと邪悪な笑みを浮かべる。

宮廷魔師でありながら、裏の仕事ばかりを好んで擔當している男である。

呪いや錬金にたけ、怪しげな魔道をつくることで知られていた。

「いやいや、このカヤックにお任せください！」

そして、もう一人の男がカヤック。

腹のつきだした大柄な男である。

魔力によってモンスターをる魔獣使いであり、彼もまた大臣直屬で裏の仕事を行う邪悪な男であった。

この二人の男は宮廷魔師の出世競爭で競い合う仲であり、二人ともに今回の仕事も任せてほしいと志願する。

「大臣様、流通は國のです！　このカヤックがワイヘ王都までの街道をずたずたに引き裂いてご覧にれます！　つきましては、先日手にれた魔獣と魔道をお貸しください！」

そんな中、カヤックは一歩前に出て、自分の策をアピールする。

それは隣國の街道をモンスターで襲わせるという極悪極まりないものだった。

彼は狙いは手柄だけではない。

大臣が手にれた魔獣を実戦で使ってみたいと考えていたのだ。

その魔獣は強力なものばかりで、並の冒険者では歯が立たないレベルのものである。

順當に行けば、ワイへ王國に大きな打撃を與えることができるだろう。

「くふふ、それではカヤックさん、頼みましたよ」

大臣は満足そうな笑みを浮かべて、カヤックを選ぶことにした。

まずは経済的な打撃によってワイへ王國を揺さぶるのが得策であると考えたからである。

先を越されたレイモンドは軽く舌打ちをする。

こうして邪悪な大臣たちの隣國侵略の謀が始まるのだった。

しかし、彼らは知らない。

その隣國、ワイヘ王國に彼らが追放したアンジェリカが向かいつつあることを。

「面白かっタ」

「続きが気になル！」

「魔獣で街道を襲うだって！？　なんて卑劣なやつ！」

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