《【WEB版】劣等賢者のケモノ魔法革命〜「獣人は魔法が使えない劣等種だ」と宮廷魔師から追放されたけど、弟子とFランク冒険者を満喫してたら、いつの間にか最強の魔法學院ができていた〜:書籍化+コミカライズ》38.マッド魔師のジャグラムさん、アンジェリカのせいでひどい目に逢う

「ぐはははは! うまくいったぞ!」

ここはランナー王國の片隅にある、邪悪な瘴気を放つダンジョンである。

その奧に居室を構えるジャグラムは大笑いをしていた。

この男、忌にれる魔法実験ばかりを繰り返し、宮廷魔師の閑職に追いやられた要注意人

しかし、大臣の計畫がことごとく失敗しているとの噂を聞きつけ、古巣に戻ってきたのだ。

彼は大臣に多額の予算を請求すると、これまでに溫めていたとびきりの計畫を実現することにした。

その名も、スライム倍々計畫。

一定時間を過ぎると、倍に増えつづけるスライムを開発するという計畫である。

彼の計算では一日もすれば、丘一つが埋め盡くされ、一週間もすれば國全がスライムで覆われることになる。

スライムは典型的な雑魚モンスターである。

力も弱く、防力もないに等しい。

しかし、それでも増え過ぎれば危機を引き起こす。

特に農地のことごとくを破壊し、ワイへ王國の食料生産に多大な悪影響を及ぼすだろう。

増え過ぎたスライムを駆除するには、1つの方法しかない。

それは分裂の源泉となるコアスライムを討伐すること。

とはいえ、數千・數萬のスライムの中から核となるスライム、コアスライムを発見するのも不可能だ。

つまり、ジャグラムの考案したこの作戦は完璧なまでに破壊的なのである。

ワイへの冒険者たちや兵士たちを崩壊するのではない。

ワイへという國自を崩壊させるのだ。

「ふはははは! これで私も再び、四天王だ!」

この作戦の功をもって、宮廷魔師に返り咲ける。

ジャグラムはそう喜ぶのだった。

「よし、これをさっそく放ってこよう」

ジャグラムはそのスライムを魔法袋にれて、ワイへ王國のとある丘を目指す。

そこは牛を放牧しているような、牧歌的な風景が広がる丘陵地帯である。

誰もが心が和むような場所をスライムがめちゃくちゃにする。

そう思うと、がワクワクしてくる。

そう、このジャグラムという男も、れっきとした格破綻者なのだった。

まったくもって大臣は素晴らしい人材ばかりを集めている。

「ぐははは! スライムの海のようだっ!」

スライムを放った次の日、ジャグラムは大笑いをしていた。

彼の狙い通り、スライムが増し、丘を埋め盡くしているからだ。

騒ぎを聞きつけた冒険者たちが駆除を行っているようだが、スライム退治など三下のやることである。

増えすぎたスライムの前では手も足も出ず、疲弊して休憩を取る始末。

彼は隠ぺい魔法を使いながら、邪悪な笑みを浮かべるのだった。

「な、なんだこれは!?」

異変に気づいたのはその日の午後のことだ。

スライムが思ったよりも増えていないのである。

いや、場所によってはスライムの數が減ってさえいる。

いくら冒険者が範囲魔法を使ったからと言って、こんなことができるとは思えない。

しかし、せっかく増したスライムの數が減りつつあるのは事実だった。

もしかしたら、実験が上手くいかず、増のスピードが低下したのかもしれない。

あるいは、凄腕の冒険者が現れて、スライムを攻撃しているのかもしれない。

ジャグラムは耳ざとい男であり、スライム始末人(スレイヤー)の噂も聞き及んでいた。

スライムとあらば地の果てからでもやってきて、手當たり次第に踏みつぶす輩である。

普段は兜をかぶっていて、素顔を見れることさえまれだと言われていた。

「くそぉっ、かくなる上は! 奧の手を使ってくれるわ!!」

ジャグラムは目を見開き、とっておきの式を発させる。

それはスライムをすべて合させる、魔の融合魔法。

その目的は、巨大なスライム、通稱ギガスライムを作り出すことだった。

ギガスライム。

その見た目は巨大なスライムそっくりながら、強力なモンスターとして知られていた。

限りなく貪なことで知られ、草木のみならず、家畜や人間、あるいは街さえも飲み込んでしまう。

様々な條件がそろわなければ発生しないモンスターながら、十數年に一度は生まれ、災害をもたらす。

過去に大陸の東に現れたギガスライムは一國の首都をほとんど壊滅寸前にまで追い込んだという。

もっとも、その時は勇者を名乗る冒険者たちの活躍で事なきを得たのだが。

「くかかかっ! ギガスライムでワイへの王都をそのまま滅ぼしてくれよう!」

ジャグラムは得意のモンスター合魔法を通じてギガスライムを作り出す。

そして、その真ん中にコアスライムを配置し、ギガスライムをることができるようにするのだった。

「ふははは! 良い眺めだ!」

彼はコアスライムと視覚を共有し、冒険者たちが逃げまどうのを嘲笑う。

おあつらえ向きに雨まで降ってきて、スライムが活するには最適な環境が整った。

計畫では1週間で王都を落とす予定だったのだが、このまま攻め込んでしまおう。

ギガスライムをるジャグラムはまるで魔王にでもなったような気分になっていた。

しかし、ここで予想外のことが起こる。

「な、な、なんだぁああああ!?」

城ほどの大きさのあるギガスライムが浮いているのである。

何かと思えば、猛烈な風が吹いてきているのだ!

突発的な暴風に巻き込まれたギガスライムはぐるんぐるんと回り始める。

「うわぁあああ、目が回るぅうううう!?」

ジャグラムはコアスライムと視界を共有しているため、手ひどい目に遭うことになる。

しかも、彼の災難はこれでは終わらない。

暴風の中、黒い雲が現れて、雷を発生させるではないか!

どぉん、どぉんっと雷はギガスライムのに直撃し、その電撃はどういうわけかジャグラムのにまで伝わってくる。

「ぬぉおおお? ね、貓の聲が聞こえてくるぞ!? 私の頭がおかしくなったのか!?」

そのショックはジャグラムの神を崩壊寸前まで追い込むのだった。

もっとも彼の聞いた貓の聲は幻聴でもなんでもなく、リアルにアンジェリカが引き起こしたものだったのだが気づくことはない。

彼は高速で回転する視界の中で、無限に続くのではないかという苦痛を味わうのだった。

「面白かった」

「続きが気になる!」

「やはり四天王を解雇される奴は違うぜ……」

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