《【書籍化】男不信の元令嬢は、好殿下を助けることにした。(本編完結・番外編更新中)》03.好殿下に助けられました

本日3話目です。

悍な顔に、驚いたような表を浮かべるジルベルトを見上げながら、クレアは絶的な気分になった。

(よりによって、なんでコイツに見つかるのよー!)

ジルベルトは、オリバー王子とは腹違いの兄で、第一王子。

沈著冷靜、クールでシャープ。

非常に優秀で、宮廷魔法士だった母親譲りの魔法は超一流。

剣にも優れ、二十歳の若さにして騎士団長を立派に勤める若き俊才だ。

しかし、クレアはジルベルトが大嫌いだった。

王位継承を狙うオリバーの最大のライバルということもあるが、何よりこの第一王子、とにかく癖が悪いと評判だった。

「毎晩、複數のと床を共にしている、王都一の好き」

「もっとと遊びたいからと、婚約者を斷っているらしい」

「騎士団にったのは、と遊びやすいかららしい」

聞こえてくる噂は、聞くに堪えないものばかり。

捨てられたと泣くも後を絶たず、遂には、『好殿下』という不名譽な二つ名まで付けられる始末だ。

そんな、好きと名高い好殿下を、真面目なクレアが好きなハズもなく。

王宮ですれ違っても形式的な挨拶をするのみ。

舞踏會でのダンスのいも、「生理的に無理」と、全てお斷り。

嫌いという態度を隠そうともしてこなかった。

そんな相手が目の前にいるのだ。

クレアが絶しない訳がない。

(はあ。逃亡五分で好殿下に捕まるなんて、なんて運がないのかしら)

ガックリと肩を落とすクレア。

そんな彼を紫の瞳で見下ろしながら、何かを考えるように黙り込むジルベルト。

――と、その時。

キャー! というび聲と共に、「ざ、罪人が! クレア様が逃げたぞ!」とぶ男の聲が牢獄塔の中から聞こえてきた。

(ああ、もう終わりね)

俯いてをギュッと固くするクレア。

しかし、ジルベルトがとった行は、予想外のものだった。

彼は素早く自が著ていた黒い外套をぐと、クレアにかぶせた。

し大きいが、その目立つ格好よりはマシだ」

「…え?」

ぬくもりの殘る大きな外套にを包まれて、思わず顔を上げるクレア。

ジルベルトが真剣な目で尋ねた。

「王宮を逃げ出して、行く當てはあるのか?」

「は、はい。あります」

ギュッとケットッシーを抱きかかえて頷くクレア。

ジルベルトが真面目な顔で念を押した。

「その場所は安全なのか? 安全に行けるのか?」

「は、はい。安全です」

こくこくと頷くクレアに、わずかにホッとしたような表を浮かべるジルベルト。

クレアにかぶせたマントのポケットを指さした。

「ほんのしだが、っている。路銀の足しにしてくれ」

ようやく逃がそうとしていることを理解して、目を大きく開けるクレア。

ジルベルトを見上げながら、かすれた聲で呟いた。

「…逃がしてくれるの? どうして?」

ジルベルトは、軽く息を吐くと、紫の瞳で真っすぐ彼を見た。

「クレアは、何か悪いことをしたのか?」

「してませんっ!」

そう小さくびながら、彼は涙がこぼれそうになった。

なぜ自分がこんな目にあっているのか。

自分が一何をしたというのか。

今にも泣き出しそうな表のクレアを見て、軽くを噛むジルベルト。

そして、真っすぐな目で彼を見ると、しっかりと頷いた。

「俺もそう思っている。君は悪いことをするような人間じゃない」

「…っ」

意外過ぎる言葉に、潤んだ目を見開くクレア。

と、その時。

バタバタと足音がして、牢獄塔のり口から慌てたような騎士が何人か出てきた。

そっとクレアをそばの木のに押しやると、背中にかばうように立つジルベルト。

王子を見て、慌てて敬禮をする騎士達。

ジルベルトが、冷靜な口調で騎士達に尋ねた。

「どうした? 隨分慌てているようだが」

「ざ、罪人が逃げまして。を見ませんでしたか?」

大きな背中ので震えるクレア。

ジルベルトは、大丈夫だ、と言うように軽く頷くと、兵士たちに答えた。

「俺は北門から真っすぐ歩いてきたが、など見かけなかった。南方面じゃないのか?」

「はっ! ありがとうございます! 南方面だっ! 探せ!」

「手分けした方が早いな。俺も手伝おう」

「はっ。ありがとうございます!」

後ろ手で「行け」という風に手を振って、騎士達と一緒に離れていくジルベルト。

ぼんやりとその背中を見送るクレア。

ケットッシーが、ふう、と、溜息をついた。

「一時はどうなることかと思ったが、良かったね。さ、あの男が誤魔化してくれているうちに、急いで行くよ」

黙って頷くクレア。

そして、まだぬくもりの殘る外套をぐっと引き寄せると、小走りに北門に向かいながら、小さく呟いた。

「ありがとう」

クレアの姿は、夜の闇へと消えていった。

本日の投稿はこれで終わりです。

また明日投稿します。

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