《【書籍化】男不信の元令嬢は、好殿下を助けることにした。(本編完結・番外編更新中)》08.街へ
本日1話目です。
ジュレミとノアが帰った後。
クレアは部屋を歩き回りながら、うんうん唸っていた。
(ど、どうしよう…)
ジュレミの話によると、話は確かな報筋からのもので、暗殺の種類は『毒殺』らしい。
(ジュレミの店の顧客は國の上層部やギルド。今まで報が間違っていたことはないから、多分今回も正しい。…それに、狀況的に暗殺計畫が持ち上がってもおかしくない)
次期王太子指名を巡り、九ヶ月前までは、オリバーがやや優勢だった。
いくら武勇に優れているからといって、好殿下などと呼ばれる男が王太子に相応しいとは思えない、という意見が多かったからだ。
民衆も、オリバーに好意的だった。
『好殿下より、婚約者を大切にしているオリバー様の方が國王にふさわしい』と。
しかし、クレアを謂れない罪で斷罪したことにより、オリバーの評判はガタ落ち。
しかも、東の國境沿いの魔獣討伐で、ジルベルトが華々しい活躍をしたため、勢は一気にジルベルト寄りになったらしい。
(王太子選定まで、あと四か月。この狀況をひっくり返そうと、暗殺の一つや二つ、計畫されても不思議はないわ)
ジルベルトが殺されることを想像して、思わずしゃがみ込むクレア。
お腹の底が冷たくなる嫌な覚がする。
(だめ。あの人が死ぬのは絶対にだめ)
クレアのことを信じて逃がしてくれた大切な恩人。
「それなのに、私、お禮も言えてない」
彼はジルベルトを助ける方法を必死に考え始めた。
(手紙で知らせる? 駄目ね。きっと読まれてしまうし、信じてもらえない)
(直接會って知らせる? 無理ね。私はお尋ね者の上に魔だもの。王族の彼に接なんてしたら、迷がかかるわ)
(誰にも気付かれずに彼を助ける、良い方法はないかしら……)
――その夜、クレアは遅くまで考えを重ねた。
*
翌日晝過ぎ。
クレアは、師匠が置いていった、あせた紺のローブをにまとい、魔の家を出た。
念のため、魔法を使って、髪のと目のを、この國で最も一般的な茶に変えている。
向かうのは、門からし歩いたところに建っている、転移魔法陣の設置してある小屋。
小屋の壁には、二つの転移魔法陣が描かれている。
一つは、『ジュレミの店』。
もう一つは、『森のり口』。
ジュレミの渾の力作で、魔力登録していない者には使えない仕組みになっているらしい。
クレアは、軽く息を吐くと、森のり口行きの魔法陣に手を置いて、ゆっくりと魔力を流し始めた。
魔法陣が鈍い金にり始める。
そして、徐々に空気が歪みー-、數秒後。
クレアは、り口が蔦に覆われている、っぽくて薄暗い窟の中に立っていた。
用心しながら蔦をかき分けて外に出ると、そこは鬱蒼とした森。
「ええっと、サザラナの木、だったわよね」
ところどころに生えているサザラナの木を頼りに、木の枝や落ち葉を踏みながら歩くこと二十分。
森の終わりと、王都に繋がる街道が見えてきた。
そして、慎重に森を出て、街道を歩くこと更に二十分。
前方にそびえるのは、王都を囲む堅牢な城壁。
クレアは軽く息を吐いた。
久々の王都に、張が走る。
何か聞かれたらどうしよう、と、ドキドキしながら門の列に並ぶが、師匠の貸してくれた分証を見せてお金を払うと、あっさりパス。
クレアは、約九ヶ月ぶりに王都へと足を踏みれた。
(ああ、久し振りだわ)
彼はローブを目深に被ると、目をあちこちにかしながら歩き始めた。
街は活気に満ち溢れており、人々が忙しそうに働いている。
(このへんは馬車でしか通ったことがないのよね。自分の足で歩けるなんて、夢みたい)
(自由ってなんて素晴らしいのかしら!)
軽い足取りで石畳の上を歩くクレア。
ショーウインドウをしたり、店先に置いてある薬草や薬をチェックする。
そして、一件の小さな洋服店にると、新しいローブとワンピースを選び、今著ているものを著替えた。
(たまには、新しい服も買わないとね)
(あのお菓子味しそう! 森は甘いが無いのが玉に瑕よね)
來た目的を忘れ、買いに熱中するクレア。
そして、浮かれた足取りで繁華街を歩いていた――、その時。
「キャー!!! ジルベルト様ー!」
聞こえてきた黃い聲に、ふと顔を上げると、そこにはたくさんのに囲まれた、一人の騎士が立っていた。
スラリとした長に、黒髪と紫の瞳。
國隨一の剣の使い手であり、騎士団長でもある、第一王子ジルベルトだ。
とっさに店のに隠れるクレア。
彼の視線の先で、ジルベルトが周囲を囲んだ達に尋ねた。
「今日も元気そうだな。変わりないか?」
「「はい! 今日も元気ですわ!」」
そうか、と、想のよい笑顔を浮かべるジルベルト。
キャーっという黃い聲を上げながら、ジルベルトの仕草に悶(もだ)える達。
クレアは思わずジト目になった。
(――なんだか、すごく腹が立つわ。なんなのよ、男って)
自分が買いに夢中だったことを棚に上げて、冷たい目でジルベルトを見るクレア。
もう帰ってしまおうか、とも考えるが、彼は、ブンブン、と首を振った。
(彼は恩人なんだから、やることをちゃんとやらないと)
クレアはフードを目深に被ると、ジルベルトの方へ歩き始めた。
ちなみに、クレアの計畫は、ジルベルトに闇魔法である『解毒能力強化の魔法』をかけること。
この魔法が効いている限り、どんな毒を飲んでも、で分解することが可能になる。
一般的な『火地風水』屬ではしえない、闇屬ならではの魔法だ。
(ただ、闇魔法の弱點は、に接しないといけないことなのよね)
服越しでも、相手を手でれなければ、魔法をかけれないのだ。
しかし、幸いなことに、街で見かけるジルベルトは、よくに群がられている。
達の中にって、こっそりジルベルトにればいい。
そう思って、ジルベルトを囲むたちのにるべく、き出したクレアだったが、
――十分後。
彼は、とあるカフェで、テーブルに突っ伏して、ずううううん、と、落ち込んでいた。
(は、れなかった…)
達の引くほどの熱気と、我こそはジルベルト様の傍に、という気合に、クレアは負けてしまったのだ。
そして、まごまごしているうちに、「済まないが、もう行く」と、立ち去るジルベルト。
彼は溜息をついた。
(私が、あの中にってるのは、きっと一生無理だわ。―――あまり気は進まないけど、こうなったら家に忍び込むしかないわね)
クレアは、運ばれてきたマドレーヌを食べながら、闇夜に紛れてジルベルトの自宅に潛することを決心した。
夜、2話目を投稿します。
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