《【書籍化】男不信の元令嬢は、好殿下を助けることにした。(本編完結・番外編更新中)》20.月見花
魔の森を離れて二日目の晝過ぎ。
「あれが、月見花の群生地に一番近い街だ」
ジルベルトが馬上から指さしたのは、眼下に見える、城壁に囲まれた小さな街。
城壁のはるか先には、広く青い海が見える。
クレアは風で飛ばされそうになったフードを手で押さえた。
「隨分と風が強いのね」
「海が近いからな」
行こう、と、何気なく風からクレアを守りながら進むジルベルト。
城門から中にり、前の街と同じように、繁華街からし離れたところにある靜かな宿にる。
(この宿も素敵ね)
清潔な宿に、満足するクレア。
ここも騎士団の上層部がよく使う宿らしい。
部屋で荷を解いていると、ジルベルトがやってきた。
どうやら宿の主人に月見花の群生地について聞いてきたらしい。
「ここから馬で一時間ほどの場所にあるそうだ。この町の城門が閉まるのは零時らしいから、その前に行って帰ってくる必要がある。製にはどのくらい時間がかかる?」
「二時間ぐらいだと思うわ」
早めの夕食をとって、月が出る頃に群生地に行くことに決める二人。
それまで數時間。
ジルベルトは街へ出て報収集。
クレアは、勧められて部屋で休むことにした。
「……ふふ、まさか旅がこんなに楽しくなるなんてね」
ベッドの中に潛り込みながら、一人呟くクレア。
一人だったら、絶対にこうはいかなかっただろう。
ジルベルトのおだ。
「それに、ジルベルト様、よく笑うようになったわ」
彫刻のようにほとんど表を変えないジルベルトが、旅に出てから、笑うようになった。
その笑顔を見ると、気を許してくれていることが伝わってきて、嬉しいと同時に心がとても騒がしくなる。
この時間が永遠に続けばいいとは思うが、旅はもう折り返し地點。
これからメインの月見花の製が待っている。
クレアは寢返りを打つと、「ジルベルト様のためにも、製、絶対に功させないとね」、と思いながら、目を閉じた。
*
夕日の名殘が消えつつある、夜に限りなく近い夕暮れ。
ジルベルトとクレアは馬に乗って、月見花の群生地に向かっていた。
「し風が収まってきたようだな」
「そうね。助かるわ」
製道のっているカバンを抱え直しながら答えるクレア。
頭の中で、手順を何度も復習する。
そんなクレアを鍛えられた腕で抱きかかえながら、馬を走らせるジルベルト。
そして、完全にが沈み、月が明るく地面を照らし始めたころ。
二人は、広い草原に著いた。
「わあ。すごい」
目を丸くするクレア。
一面、白くる丸い月見花に覆われた草原は、とても神的だ。
「素敵! まるで、真珠みたいだわ」
「クレアは真珠が好きなのか?」
「ええ。寶石の中では一番好きよ。――じゃあ、しもったいないけど、花を摘んでいきましょう」
馬から降りたクレアは、しゃがみ込んで花を摘み始めた。
馬を傍の木につないだジルベルトも、同じように花を摘んでいく。
そして、十分後。
クレアは、白く丸い花びらがいっぱいった小さな鍋を、ジルベルトが作った竈の上に乗せた。
「では、はじめます」
木べらに魔力を流しながら、ゆっくりとかき混ぜるクレア。
白い花びらがゆっくりと解け、になっていく。
「…見事なものだな」
心するように呟くジルベルト。
途中、白い花を追加したり、火を強めたり、様々な工夫をして、約一時間。
「で、できたわ…」
遂にが明になった。
持ってきたビンに出來たを移し、ふうっと息を吐くクレア。
予想より苦戦したが、これだけあれば十分だ。
疲れただろう、と、隣に座って、水筒のお茶を勧めるジルベルト。
ジルベルトが持つとなんだかコップが小さく見えるわね、と、クスリと笑いながらお禮を言うクレア。
二人は、まだし熱いお茶を飲みながら、煌めく小川のように見える星空を眺めた。
クレアがぽつりと呟いた。
「これで、足りない材料は鱗ね」
「ああ。今手配しているから、いずれ何とかなるだろう」
ぽつりと呟くジルベルト。
そうですね、と、返しながら、クレアのは痛んだ。
鱗が見つかれば、あとは解呪薬を作るだけ。
彼と會う理由もなくなる。
今のうちに聞いておこう、と、クレアが口を開いた。
「そういえば、前から聞きたかったのだけど、どうして噂を否定しないの?」
「噂か。どの噂だ」
「好殿下、よ」
軽く苦笑するジルベルト。
「…噂ではなく、真実かもしれないぞ」
「真実のはずがないわ。宿に可いの子がいても見向きもしていなかったもの」
クレアが、「好殿下設定はどうなっているんだ、ってじでしたわよ」と、指摘すると、ジルベルトは、參ったな、という風に笑った。
「いつかは分からないが、どこからか、俺が好きだという噂が流れた」
そのも葉もない出鱈目な噂を、初めは嫌がっていたジルベルトだが、そのうち都合が良いことに気が付いたという。
「まず、山のように來ていた縁談が減った。と遊びたいからという理由で、王立學園ではなく騎士學校にもれた。遊びにくいからと言って王宮も出ることが出來たし、騎士団にることもできた。何より大きいのは、勝手に婚約者を決められないことだ」
「噂の容は酷いが、結果は萬々歳だ」と、小さく笑うジルベルト。
クレアが尋ねた。
「でも、王位継承爭いに不利よね?」
「……俺は別に王にはなりたいとは思っていない。むしろ、なりたくない方が強い」
クレアはきょとんとした。
「であれば、王位継承権を放棄すれば良いんじゃないのかしら?」
「本來はそうしたいところなのだが、……まあ、々あるんだ」
ジルベルトは、ふっと笑うと、グイっとお茶を飲み干した。
「話はこれくらいにして、そろそろ行こう。門が閉まる」
これ以上聞けないことをじ、はい、と、大人しく返事をして立ち上がるクレア。
道を鞄にしまい終わると、ジルベルトが馬に乗ってやってきた。
「手を」
「はい」
手をばすクレアを、引っ張って馬に乗せるジルベルト。
そして、その腰を優しく引き寄せると、たくましい腕で彼のを抱きしめた。
「ジ、ジル様?」
突然の行に、驚いて固まるクレア。
ジルベルトは小さくため息をつくと、小さく呟いた。
「これで旅も終わりだな」
「……そうね」
「楽しかった。ありがとう」
「私こそ」
ジルベルトの鍛えられた腕に、そっと手を添えるクレア。
抱きしめる腕に力がこもる。
クレアは、ジルベルトの大きなに自のを預けると、目をつぶった。
(なんて溫かいのかしら)
何も言わずに、クレアを優しく包み込むジルベルト。
――そして、二人はそのまましばらく星空をながめたあと、靜かに街に戻っていった。
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めっちゃ早くて正確!
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