《【書籍化】男不信の元令嬢は、好殿下を助けることにした。(本編完結・番外編更新中)》29.( ̄▽ ̄)b
敘勲式の一週間後。
らかい風が木々のい緑をゆする、春の午後。
庭の片隅にある東屋で、クレアは、ジュレミとノアと一緒にお茶を飲んでいた。
ジュレミが、ティーカップを片手に溜息をついた。
「本當に行ってしまうのね」
「はい。ずっと前から決めていたんです。お金がたまったら旅に出ようって。それに、この家も近いうちに住めなくなるでしょうから、新しい住居を見つける必要もありますし」
「……そうね。寂しいけど、仕方がないわね」
クレアが、両手を膝に置いて、頭を下げた。
「改めてお禮を言わせてください。王宮まで來て頂いて、本當にありがとうございました」
「何を言っているのよ。大した話じゃないわ。ラームにも頼まれていたしね。『クレアが魔道の件で困っていたら、絶対に助けてやってくれ』って。――多分、こうなることを予想していたのでしょうね」
呪いが解けた、その日。
クレアは全てを思い出した。
王妃の部屋で、王妃と魔ラームが暗殺の話をしていたのを聞いたこと。
ラームに、記憶を消され、王妃に逆らえなくなる魔法をかけられたこと。
今回の告発の鍵となった記録玉は、クレアがラームの部屋から見つけ出した。
本來であれば、記録玉は、契約者にしか見ることが出來ない。
それを他人にも見える形に改造したのは、製作者であるジュレミである。
また、彼はノアと共に「クレアの化粧擔當」として王宮に出向き、王妃の部屋から、ラームの記録玉と対になる記録玉を見つけ出した。
もし、彼達の協力がなければ、王妃を追い詰めることは出來なかっただろう。
クレアが沈痛な面持ちで口を開いた。
「…記録玉を、最後まで見ました。師匠は、この森の所有者である公爵家(王妃の実家)から、森と家を守るために、暗殺を引きけたんですね」
「そうみたいね。擁護するわけじゃないけど、ラームもきっと辛かったと思うわ」
やるせなさそうに溜息をつくジュレミ。
クレアは俯いた。
ラームがそこまでして守りたかった森と家だが、狀況はあまり良くなかった。
王妃の実家である公爵家の降格に合わせ、貴族達からは焼いてしまえという聲が上がっているらしい。
重罪人として指名手配されている魔が住んでいた森など不吉過ぎる、と。
(多分、この森は近いうちになくなってしまうでしょうね)
クレアに出來ることといえば、製薬関係の道と、ラームが大切にしていたものを、ジュレミの家に運ばせてもらうくらい。
何とも言えない気分で、黙り込むクレア。
ノアが心配そうに、つんつん、と、俯くクレアの袖を引っ張った。
「クレア、元気出して」
「そうよ。クレアちゃんは何も悪いことはしていないもの。元気出さなきゃだめよ」
二人の言葉に、クレアは顔を上げて微笑んだ。
「ありがとうございます。――そうですよね。これから忙しくなるもの。元気出さないと」
ジュレミが、頬杖をついて尋ねた。
「そういえば、あのジルベルトっていう王子様と、あんな形で別れて良かったの? プレゼントを全部返卻して、置手紙でお別れなんて、お互いが一番傷つくパターンよ」
クレアは目を伏せた。
「……お別れが、どうしても言えなくて」
「お別れしなくたっていいじゃない。あの子(ジルベルト)、明らかにクレアにべた惚れだったじゃない」
「ん。クレアのことが大好きなにおいだった」
苦笑いするクレア。
最後の最後で、ようやく彼も理解した。
ジルベルトも私のことが好きなんだわ、と。
(でも、どうしようもないのよね……)
今回の件で、ジルベルトが次期國王になるのは、ほぼ確実。
一方のクレアは、忌み嫌われる魔。
もちろん、クレアも考えた。
魔法さえ使わなければ、魔とはバレない。
もともと魔法が使えないのだから、使わずに普通の人間としてジルベルトの傍にいられないだろうか、と。
(でも、なんの拍子にバレるか、分からないのよね)
萬が一魔力が暴走すれば、分かる者には分かってしまう。
そうなった時に困るのは、クレアよりもジルベルトだ。
(國王が魔を傍に置いていた、なんてバレたら、大変なことになるわ)
(どう考えても、もう會わない方がいい)
クレアは、風に揺れる森の木々をながめながら、口を開いた。
「ジルベルトは、いつも私を助けてくれました。男不信になってしまった私が、また男を信じてもいいかもしれないと思えたのは、彼のおです。
だから、彼の足を引っ張るような真似はしたくないんです。
ジルベルトはきっと立派な國王になると思います。その橫には、きっとコンスタンスのような可らしくて賢いが合うのだと思います」
「……そう」
やるせなさそうな顔をするジュレミ。
クレアは、いたずらっぽく笑った。
「それに、私、久し振りに社界に出て気が付いたんです。私には貴族よりも自由な魔の方が合っているなって」
ジュレミが微笑んだ。
「ふふ。そうね。貴族令嬢もなかなか様になっていたけど、あなたは自由が似合うわね」
その後、三人は、作っておく薬や、道の運び込みのタイミングなど、こまごまとしたことを相談。
「また手伝いに來るわね」と言い殘して帰っていく、ジュレミとノア。
その後姿に手を振りながら、クレアは小さく呟いた。
「ありがとう。ジュレミ、ノア。――私も早く忘れて元気にならないとね」
*
そこから出発までの二週間、クレアは仕事に沒頭した。
作っておかなければいけない薬もたくさんあるし、ジュレミの家に運ばせてもらうもたくさんある。
幸い、荷の片づけは、苦手なクレアに替わってノアが擔當してくれたので、クレアはストックしてある素材を使いきる勢いで、製薬しまくった。
山のように積み上がっていく薬箱に、クレアの調を心配するジュレミとノア。
その度に、クレアは笑顔で、「大丈夫です」と、返事をした。
(だって、これくらいしないと、ジルベルトのことを考えてしまうもの)
考えてしまうのが怖くて、寢る時間と、ノアとジュレミとお茶をする時間以外は、製薬に沒頭する日々。
――そして、敘勲式から一か月後。
朝焼けがにじむように空に広がる早朝。
朝もやの中、小さな旅行鞄を持ったクレアが、魔の家の前に立っていた。
「こことも、しばらくお別れね」
赤い屋を見上げながら呟くクレア。
次來るときは、もしかすると立ち退きの時かもしれない、と、思いながら、転移小屋に向かって歩く。
朝もやに包まれた小屋の前には、すでにジュレミとノアが立っていた。
「ん。クレア來た」
「あら、荷はそれだけなの? 大丈夫?」
「はい。大丈夫です。この鞄、見かけよりるんです」
そんな會話をした後。
ジュレミが笑顔でクレアを抱きしめた。
「行ってらっしゃい。たまに來て、風を通したりしておくわ」
「ん。畑の世話もしておく」
クレアの腰に抱き著くノア。
ありがとうございます、と、二人を抱きしめ返すクレア。
そして、首を傾げた。
「なんだか、二人とも機嫌が良いですね」
「そりゃそうよ。大切な友達の門出だもの。機嫌も良くなるわ」
「ん。今日はいい日」
珍しくニコニコ笑うノア。
クレアは嬉しくなった。
なんて良い友人を持ったのだろう。
ジュレミが持っていた布包みを差し出した。
「これ、お菓子とか食べがっているわ。道中食べて」
「こんなにたくさん! ありがとうございます!」
「大した量じゃないわよ。遠慮せずに食べてね」
にっこり笑うジュレミ。
そして、クレアの背中をそっと押した。
「ささ。名殘惜しいけど、キリがないわ。早く行きなさい」
「ありがとうございました。では、また」
「ん。クレア。がんばって」
ニコニコ笑う二人に手を振りながら、小屋の中にるクレア。
そして、軽く息を吐くと、森のり口行の魔法陣に手を置いて、ゆっくりと魔力を流し始めた。
魔法陣が鈍い金にり始める。
そして、徐々に空気が歪みー-、數秒後。
クレアはり口が蔦に覆われている、っぽくて薄暗い窟の中に立っていた。
(さあ、いよいよ旅の始まりね)
気合をれるクレア。
そして、用心しながら蔦をかき分けて外に出て、――固まった。
(……え?)
そこにいたのは、長で悍な顔立ちの、黒いローブをにまとった男。
彼――ジルベルトは、クレアを見ると、目を細めて穏やかに微笑んだ。
「おはよう。クレア」
何が起こったか分からず、呆然とするクレア。
そして、次の瞬間、心の中で絶した。
(や、やられたー!!!!!)
彼の頭の中で、ジュレミとノアがニヤニヤ顔で ( ̄▽ ̄)b した。
誤字字ありがとうございました!
殘すところあと一話になりました。
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