《【書籍化】男不信の元令嬢は、好殿下を助けることにした。(本編完結・番外編更新中)》〈番外編〉騎士カーティスの波萬丈な二日間⑤
「いいわよ! 魔力を高めて!」
ジュレミの聲と共に、魔力を高めるカーティスとノア。
そして、靄のようなものに包まれ……
気が付くと、彼等は見知らぬ薄暗い小屋の中に立っていた。
(……これが転移か。凄まじいな)
カーティスは、ほんの一瞬で知らない場所にいることに衝撃をけた。
(噂では聞いていたが、これほどのものとは)
ノアが、呆気にとられたように立ち盡くす彼を、気遣うように見上げた。
「大丈夫? 気分は?」
「はい。とても驚きましたが、特に気分は……」
悪くありません。と、言いかけて。
カーティスは、「うっ」と思わず片手で口元を押さえた。
強烈なめまいと共に胃の底から何かが湧き上がってくるじがする。
カーティスの顔が変わったのに気が付いたのか、ノアが小屋のドアノブに手を掛けた。
「はじめては大気持ちが悪くなるって言ってた。こっちきて」
片手で口元を押さえるカーティスの服の裾を引っ張って、ノアが外に出る。
彼をそばにあったベンチに座らせると、心配そうに顔をのぞきこんだ。
「大丈夫?」
「は、はい。外の空気を吸って落ち著きました」
気分は超絶良くないが、心配させないようにと頑張って笑ってみせるカーティス。
ノアが首を振った。
「無理しちゃだめ。顔が緑。カエルみたいになってる」
「カエル」
「ん。待ってて。なんか持ってくる」
カエルはちょっとショックだな~。と思いながら、走っていくノアの後姿を見送るカーティス。
これは二日酔いより酷いな。とベンチの上でうずくまる。
そして、しばらくして。
ようやく吐き気が治まって、ゆっくりと顔を上げると。そこは見たこともない場所だった。
(……ここは、どこだ?)
目に飛び込んできたのは、鬱蒼とした森と赤いとんがり屋の小さな家。
家の正面には手れされた広い庭が広がっている。
春風にのって漂って來るのは鳥の鳴き聲と、土と花のにおい。
(……どこかは分からないが、良い所だな)
爽やかな風に目を細めるカーティス。
油斷すると、寢てしまいそうな気持の良さだ。
そして、太を浴びてキラキラと輝く庭をぼんやりと眺めていると。
軽い足音がして、ノアが木のコップにれた何かを持ってきた。
「これ。飲んで。お茶」
ノアちゃんは優しいなあ。と、心の中で思いながら、「ありがとうございます」と笑顔でお茶をけ取るカーティス。
飲むとスッと気分が良くなる。
(これはもしかすると魔の薬の類なのだろうか)
そんなことを考えつつ、お茶を有難く飲みながら。
彼は隣で足をブラブラさせながら座っているノアに尋ねた。
「味しいお茶ですね。どこから持って來られたのですか?」
「あっち」
ノアがとんがり屋の家を指す。
「誰かお知り合いの家なのですか?」
「ん。ラームの家」
あっけらかんと答えるノアに、そうですか。と微笑むカーティス。
そして思った。
ラームって間違いなく指名手配中の魔の名前だよな。と。
指名手配中の魔の家の前にいるとか、結構大事なんじゃないだろうか。
(……でも、まあ、あれだな。ノアちゃんよく人の名前を間違うから、ラームじゃなくて、ラムウかもしれないよな)
お茶を飲みながら、聞かなかったことにする青年騎士。
その後。
「待たせたわね」と、馬を連れた魔ジュレミが到著。
転移してきた小屋の壁に描かれている魔法陣にカーティスの魔力を登録して、再び転移。
気が付くと、彼は薄暗い窟の中に立っていた。
(……今度は大丈夫そうだな)
一回目ほど気分が悪くなってないことにホッとしながらノアに続いて蔦のカーテンをくぐる。
外に出て、周囲を見回した。
(森……だな)
「ここは、どのあたりでしょうか」
「ん。王都の近くにある森」
王都の近くにこんな森あったかな。
そうカーティスが首を傾げていると、背後の窟の中から馬の嘶く聲がして、蔦の間から馬を引いたジュレミが出て來た。
「無事に著いたわね。帰りもここからになるから覚えておいてちょうだい。馬は後から私が取りに來るから、どこかにつなげておいて」
「はい。分かりました」
「それで、どう? ノア。 クレアの居場所、分かりそう?」
魔の言葉に、目を瞑って鼻を軽くかすノア。
目を開くと、大丈夫、という風に頷いた。
「ん。問題ない」
そう。良かったわ。と、安堵の表を浮かべるジュレミ。
カーティスの方を向いてにっこり微笑んだ。
「じゃあ、ノアのこと、よろしくね」
カーティスは力強く頷いた。
「はい。お任せください。命に代えてもノアさんをお守りします」
こうして、「そこまで気合れなくてもいいのよ」とジュレミに苦笑いされながら。
二人の馬の旅が始まった。
し解説すると、カーティスが最初に転移したのは本編主人公クレアが住んでいた魔(ラーム)の家です。
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