《げられた奴隷、敵地の天使なお嬢様に拾われる ~奴隷として命令に従っていただけなのに、知らないうちに最強の魔師になっていたようです~【書籍化決定】》―09― 軽減
「あの、ティルミお嬢様、これから僕はどうしたらいいんでしょう」
朝食を食べ終えたのを契機に、僕は質問をした。
「どうって?」
彼は首を傾げる。
僕がティルミお嬢様に仕えるという言質はもらったが、的にどう仕えるのかまでは聞いていなかった。
お嬢様の頼みなら、雑用でもなんでもこなそうと僕は思っているのだが。
「ひとまず、僕に契約魔をかけてください」
そうだ、新しくお嬢様の奴隷となるんだから、契約魔をかけてもらわないとなにも始まらない。
「むうっ、心外だわ。私がアメツに契約魔を施すと思われてたなんて」
なぜか、彼は不満そうな表を浮かべていた。
「ですが、ティルミお嬢様は僕を奴隷として――」
「あなたに対して、私のものになりなさいとは言ったけど、それは奴隷になれって意味じゃないわよ」
「じゃあ、せめて使用人として働かせてください」
「あのね、アメツ。今のあなたは客人なの。だから、そんなことを気にする必要はないわけ」
「……わかりました」
本當にそれでいいのかと不安に思ったが、彼にそう言われてた以上、納得するしかないんだろう。
◆
それから、ティルミお嬢様に屋敷の中で自由に過ごすよう言い渡された。
とはいえ、やることもないので、屋敷の中を散策することにする。
広い屋敷だ。
クラビル家の屋敷とどっちが広いだろうか。
大きな違いはないように思える。
ふと、視線の先で、五人ほどの使用人たちが集まって作業をしていた。
なにをしているんだろう? と様子を見てみると、大きなタンスを手で持って運んでいることに気がつく。
「手伝いましょうか?」
考えるより先に、そう口にしていた。
タンスが重いせいか、運ぶのに苦労している様子だったので。
「誰かと思ったら、不埒者ですか」
見ると、作業している中に、メイドのナルハさんがいた。
彼が指揮をとってタンスを運んでいる様子だ。
あと、不埒者とは、僕のことを指しているに違いない。隨分な言われようだが、今は気にしても仕方がないか。
「あなたのような貧弱な見た目をした小僧の力を借りるほど、わたくしたちは困ってなんかいませんので!」
ナルハさんが大見得を切ってそう主張するも、表は辛そうだ。
他のメイドの表を見てもそれは明らか。
例え歓迎されてなくても、強引に手伝わせてもらおう。
「〈軽減〉」
そう口にしつつ、魔法陣を展開して、魔を発させる。
一見、なにも起こっていないように見えるが、使用人たちの表が驚きに変わったことから、効果が思い通り発したことは明らかだ。
「すごい、タンスが軽くなった」
「これなら、楽に運べる!」
「一なにをしたんですか!? 不埒者!」
ナルハさんが驚愕の表でんでいた。
なので、僕は正直に答えることにした。
「タンスの質量を軽くしました」
「質量を軽くだと……? それは魔か?」
「えぇ、魔ですが」
おかしな質問だな、と思いつつそう答える。これが、魔以外なにに見えると言うんだろうか。
「こんな魔聞いたことがないが……。ともかく、軽くなったのですから運びますわよ!」
「「はい!!」」
すると、彼たちは軽くなったタンスを走りながら、どこへ運んでいった。
どうやら無事、解決したようだ。
「不埒者、ちょっといいか?」
それから數十分後、ナルハさんが僕のもとにやってきた。
「はい、なんでしょうか?」
「他にも軽くしてもらいたいものがあるんだが……」
どこか気まずそうに、僕にそうお願いをしてきた。きっと、僕に対して大見得を切った手前、要求を口にしづらいんだろう。
「ええ、もちろん、いいですよ」
もちろん僕としては、快く手伝わせていただくつもりだ。
それから、僕は様々な家を軽くするために屋敷をき回った。
これだけ家をかすのは、なにか理由があるんだろうか? と思い、聞いてみたところ、家を全面的に新調するために外に運ぶ必要があったんだとか。
けれど、この屋敷には男の使用人がほとんどいないため、家の持ち運びが思うように進んでいなかったらしい。
それで、僕の力を借りたというわけだ。
「アメツ様のおかげで、すぐに終わってしまいましたわねー」
「こんな便利な魔が使えるなんてすごいですわ」
「重さをる魔なんて聞いたことないですもんね」
「魔の申し子と呼ばれているティルミお嬢様でも、こんな魔は使えないんじゃないかしら」
「そもそも、どの系統の魔なのかしら?」
と、皆が口々に僕のことを褒めてくれる。
そんなすごいことをした覚えはないんだが、ここは素直にけ取っておこう。
「不埒! しだけ、あなたのことを認めてあげないこともないです!」
と、ナルハさんも言ってくれた。
認めてくれたなら不埒って呼び方をまず変えてよ、とも思ったが、口にするのは野暮な気もしたので、素直にお禮を述べておくことにした。
「ねー、なにを盛り上がっているのー?」
ふと、見るとティルミお嬢様が近くに立っていた。
どうやら僕たちがなにかをしていることをどこからか聞きつけてきたらしい。
「あっ、お嬢様! 実はアメツ様が家の移を手伝ってくれまして」
メイドの一人がそう説明する。
「もう、アメツに手伝わせたの? 彼は客人って言ったでしょ。仕事をさせたら駄目じゃない」
「それは、大変しつれいいたしました。ですが、アメツ様が家を軽くする魔を使えるとのことでしたので、実際にしていただいたところ仕事が何十倍も早く終わりましたの」
「ん……? 今、なんて言った?」
なにかにひっかかり覚えたらしいティルミお嬢様がそう口にした。
「ええ、ですから仕事が何十倍も早く終わりましたの」
「その前に言ったことよ」
「大変しつれいいたしました」
「聞きたいのは、その次に言った言葉よ」
「家を軽くする魔を使えるとのことでしたので……」
「えっと、家を軽くするって、どういう意味?」
「家の重さを軽くさせたんですが……」
「えっと、強い風でもを起こして家を持ち上げたってこと?」
「いえ、家そのものの重さを軽くさせたんですけど」
「いや、流石に信じられない。そんな魔聞いたことがないし」
ティルミお嬢様が頭に手を抱えて、苦悶の表を浮かべる。
「でしたら、アメツ様! もう一度、さっきの魔をティルミお嬢様の前で実踐なさってみてはどうでしょうか?」
と、メイドの一人が僕にそう呼びかける。
「もちろん、いいですけど」
ということなので、もう一度、を軽くする魔を使う。
「〈軽減〉」
近くにあったタンスの重さを軽くした。
「ティルミお嬢様、ほら、持ち上げてみてください!」
「わ、わかったわ……」
戸いつつもティルミお嬢様はタンスを両手で持ち上げるようとする。本來なら、ティルミお嬢様の細い腕では、タンスを持ち上げるのは難しいだろう。
「えっ、うそでしょ……!? 私でも簡単に持てるわ」
信じられないって表を浮かべていた。
「アメツ、これはどういうこと!?」
「どうって、重さを軽くする魔です」
「いや、そんな魔存在するはずが……っ! でも、現に軽くなっているし……。もし、重さを自在にる魔を使えるんだとしたら、あなたは歴史に名を殘す魔師ってことになるわよ!」
ティルミお嬢様の表現が極端すぎて、心の中で思わず笑っちゃいそうになる。
いくらティルミお嬢様が褒め上手とはいえ、流石に褒めすぎだ。
「お嬢様、流石に大げさすぎます。こんなの、ちょっとしたコツを摑めば、誰でもできると思いますよ」
「大げさなんかじゃない!」
なぜか怒鳴られた。
「この魔のすごさがなんで使える本人がわからないのよっ!?」
その上、地団駄踏んでんでいた。
いや、だって、魔力容量がない僕がご主人様の命令を守るために、獨學で覚えた魔の一つだ。
僕なんかが獨學で覚えることができた魔なんだから、他の人だってできて當然だと思っただけなんだが。
「……そんなにすごいことなんですかね?」
だから、彼の言葉がどうも信じられない。
「わかったわ。今から、あなたの魔のすごさをみっちり教えてあげる」
ティルミお嬢様は決意した表現でそう主張した。
「來て」
それから彼は僕の手をとって、僕をどこかに連れて行こうとした。
「全部聞かせてちょうだい。あなたの魔の神髄を」
連れて行かれたのは、彼の部屋だった。
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