「それじゃ、今から魔の授業を始めます」

「はい、先生」

翌日から、僕は正式にティルミお嬢様の魔の教育係を務めることになった。

「お嬢様、僕を先生と呼ぶのは、流石に……」

「なんでー？　だって、先生じゃない」

まぁ、確かにこれからお嬢様に魔を教えるわけだから、先生ってことではあるんだろうけど。

とはいえ、呼び慣れてないせいかなんだかむずい。

まぁ、我慢するしかないのだろう。

「といっても、僕自誰かに魔を教えたことがないので、どうやって教えればいいのか……」

「別に、慌てなくていいのよ。じっくり考えたらいいわ」

と、お嬢様は優しい言葉をかけてくれるが。

魔はわかってないことのほうが多い。だから、その分教えるのも難しい。

「ひとまず、お嬢様が學校でどう魔を教わっているのか、僕に教えてください」

それからお嬢様の話を聞いた。

やはり、學校では３種類８系統の魔を主に扱い、魔力容量が多ければ多いほど、強力な魔を使えると教わるらしい。

だから、いかに魔力容量を増やすか？　に時間が割かれている。

魔力を消費すればするほど、その人の魔力容量は増えるとされている。ただし、努力よりも才能のほうが大事だと言われている。

生まれつき魔力容量がない人はどんなに努力したって、魔力容量が多い人には勝てない。

そのことを知っていたからこそ、魔力容量がない僕は他の道を模索する必要があった。

「そうですね、お嬢様が一番得意な魔はなんですか？」

「えっと、火の系統かしら」

「まず、火の第一位階、〈火球(ファイヤー・ボール)〉を一から構築できるようになりましょうか」

「えっと、どういうことかしら？」

確かに、今の説明だと伝わらないのも當然か。

「以前にもお伝えしましたが、既存の魔はアカシックレコードの影響下にあるんです。アカシックレコードでは、過去、現在の魔が全て記録されています。〈火球(ファイヤー・ボール)〉を例に出しますと、今までこの世で発した〈火球(ファイヤー・ボール)〉がアカシックレコードに記録されているおかげで、現在では、一から構築せずとも漠然と構築するだけでも〈火球(ファイヤー・ボール)〉を発できてしまうんです。だから、アカシックレコードの力を借りずに、〈火球(ファイヤー・ボール)〉を発させることから始めましょうか」

「えっと、アメツの言っていることはなんとなくわかったわ。けど、今までアカシックレコードなんて気にせず魔を発させてたから、どうしたって影響をけてしまうと思うんだけど、一どうしたら、アカシックレコードの影響から逃れることができるのかしら」

確かに、それもそうだ。

僕の場合、無意識のうちにアカシックレコード関係なく魔を発させることができてしまう。

けど、最初からそうだったわけではないはずだ。

一、僕はどうやって自分の魔を確立させたんだろう？

遠い過去の記憶を掘り起こすように、回想する。

必死な思いで生きていたせいか、はたまた辛い記憶が多いせいなのか、僕は過去のことを思い出すのに、他の人より時間がかかるような気がする。

だから、思い出すのに時間がかかった。

あぁ、そうだ。

「自分の魂を再構築させたんだ」

◆

魂というのは神的かつ魔的だ。

魂が存在するから、魔が存在するのだ。

ゆえに、魂と魔は常に相関関係にある。

どんな人間にも魂には式が刻まれている。その式は人間にを生み、意識をもたらし、記憶を刻み、思考を深める。

人間に心があるのは、魂に式が存在しているから。

だったら、その式を完全に把握してしまえばいい。

それが僕の魔の始まりだった。

「お嬢様、今から魂のに存在する式記録領域を呼び起こします」

式記録領域。

その人の魂に式刻まれている領域のことだ。

「わ、わかったわ」

「しだけ覚悟しておいてくださいね」

お嬢様の返事を聞いた僕は、そう言って僕はお嬢様のおでこをつついた。

を共鳴させることで、強制的に式記録領域を呼び起こすことができる。

「あ、あが……っ」

お嬢様はき聲をもらす。

今、お嬢様の頭の中には、膨大な報が雪崩のこどく流れている。

一般的な魔師が使う魔法陣はせいぜい平面魔法陣。それに奧行きの概念を加えた立魔法陣。さらに、スピンの概念を加えた高次元魔法陣。

魂に刻まれているのは、この高次元魔法陣。

一般人が、高次元魔法陣に刻まれている膨大な報を処理しようとすれば、頭の中が焼き切れるに違いない。

今のお嬢様がまさにその狀況だ。

だから、すぐさま呼び起こした式記録領域を外部から強制的に閉じる。

「あっ」

一瞬で疲労が蓄積したようで、彼はよろけては僕にしがみついてきた。

「今のはなに……？」

「魂に在する式記録領域です」

それから僕は説明した。

式記録領域というのがなんなのかを。

「僕の魔が使えるようになるには、この式記録領域を把握することから始める必要があります」

「そのためには、さっきの時間を過ごす必要があるってこと？」

「えぇ、そうなりますね」

そう、把握するには式記録領域を強制的に呼び起こす必要がある。

だが、強制的に呼び起こそうとしたら、膨大な報に飲まれて頭の中が焼き切れるような痛みが伴う。

普通なら、ここで諦める。

だから、お嬢様も諦めるに違いない。

そうなったら、僕の教育係という立場もお役免ってことになるな。

「わかったわ。アメツ、もう一度さっきのをやってちょうだい」

「え……？」

だから、ティルミお嬢様がやると言い出したことに僕はなからず驚いた。

「私は、なんとしてでもあなたの魔を覚えるわ」

引き締めた表で彼はそう言う。

だから、思わず聞いてしまった。

「なぜ、そうまでして覚えようとするんですか？　魔力容量が多いお嬢様なら、普通の魔でも十分活躍することができると思いますけど……」

僕は魔力容量がなかったがために、獨自の魔に費やす必要があった。

けど、お嬢様はそうではない。

「好きだから」

一瞬、その言葉を聞いて心臓がざわついた。

「あなたの魔を初めて見たとき、衝撃的でとてもしたし、興もした。そして、好きになった」

好きってのは、僕の魔に対して言っていたのか。一瞬、勘違いしそうになった自分が恥ずかしい。

「だから、私も覚えたいと思った。これじゃあ、理由として弱いかしら？」

って言って彼は苦笑する。

だけど、僕の心は満足でいっぱいになった。

自分が必死な思いで作り上げた魔を誰かに好きと言われるのがこんなに嬉しいことだって知らなかった。

「えぇ、やりましょう、お嬢様！」

この日から、僕とお嬢様による魔の特訓が始まったのだ。

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