「アメツがいなくなってから、俺はずっと寂しかったんだよ」

「そうですか」

クラビルに捕まった僕は、屋敷に連れて行かれた上で、契約魔を施された。

「さぁ、食べるがよい。今宵はパーティーだ」

食卓には豪華な食べが並んでいた。

「えっと、これは……」

「なにって君のために用意したのさ。遠慮なく食べたまえ」

以前、奴隷だった頃はまともな食事なんて與えられなかった。

だが、今日に限ってはそれなりにおいしいものをいただけるそうだ。

とはいえ、テーブルにあるのは自分の分のみ。

ご主人様と奧様や子供たちは、別の部屋で食べるつもりのようだった。

だから、一人で黙々と食事をつづけた。

『アメツー、今日の料理は私が直々に討伐した魔を使ったステーキよ。どう？　おいしいかしら？』

幻聴だった。

いつも食卓では、ティルミお嬢様が僕に必ず話しかけてくれた。

「どうだ、アメツ？　うまかっただろう」

「はい、大変味でした」

「そうか、じゃあ、明日からは働いて貰うからな」

クラビル伯爵はそう言うと、僕に「こっちに來い」と口にする。

連れてこられたのは、以前も寢泊まりしていた地下牢だった。

「それ、死んでしまったやつだから、暇なとき片付けておいてくれ」

指さした先には、男のが。

恐らく、僕と同じ奴隷だ。

そうか、僕がいなくなってから、クラビル伯爵は他の奴隷を買って、僕の代わりをさせようとしていたのか。

とはいえ、死んでいるってことは契約魔による激痛に耐えることができなかったということだろうか。

「かしこまりました」

死んでから時間が経っているせいか腐敗臭がする。

早急に片付ける必要がありそうだ。

◆

それから、クラビル伯爵の元での奴隷生活が始まった。

僕の価値を多認めてくれたのか、以前よりは待遇が多改善された。

今まではパンと水ぐらいしか食事に與えられなかったが、果や野菜などがメニューに追加されたり、以前ならい床にそのまま寢ていたがその下に藁を敷いても許されるようになった。

その上で、クラビル伯爵の指示に従って、魔の討伐に行かされる。

魔の討伐に関しても、以前なら実行できない命令をあえてくだして、できなかったら罰として激痛を與えられたが、その激痛を與えられる頻度は減った。

というか、クラビル伯爵が屋敷にいない日々がめっぽう増えたのだ。

クラビル伯爵がいなければ、激痛を與えられることもない。

いるときは難癖をつけられて激痛を與えられるが。

そんな生活が二ヶ月ほど続いた。

「辛い……」

ぼそっ、と言葉をもらす。

一この生活はいつまで続くのだろうか。

ティルミお嬢様がしい。

ティルミお嬢様に早く會いたい。

できるなら、この屋敷を抜け出し、ティルミお嬢様に元に戻りたいが、契約魔により、クラビル領より外に出ることができない。

それに、お嬢様から関わらないようにと言われている。

だから、大人しく待つしかない。

「南西に出現した魔の討伐をお願いします」

今日は、クラビル伯爵ではなく、その奧様から依頼された。

以前からそうだったが、奧様は僕とあまり関わりたくないようで、滅多に顔を出すことはない。

だが、ここ一ヶ月ほど、クラビル伯爵は屋敷を留守にしていた。

どうやら王都でのゴタゴタで忙しいらしい。

「かしこまりました」

僕はお辭儀をして、屋敷を出る。

契約魔により、許可がないと屋敷を出ることはできない。

屋敷を出た後は〈加速〉を用いて、魔のいる地域まで高速で移する。

「元気そうでなによりですわね」

ふと、話しかけられる。

そこに立っていたのはナルハさんだった。

ティルミお嬢様の元を離れてから四ヶ月後のことだった。