《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》始まり
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「今日も無事に生き殘れました、っと」
し後ろを歩いていた30過ぎの男がそう言いながら息を吐き出し、さっきまで俺たちのいた部屋から出てきた。
ここは冒険者組合の建の中。俺たちはその中の一室を借りていた。
この場にはそいつ以外に俺を含めて三人いるが、俺たちはそいつが出てきたのを確認すると組合の建の外へと向かって歩き出した。
「あー、だりぃ。なんでダンジョン攻略した日に報告なんだよ。明日でもいいじゃねえか……」
俺は伊上浩介(いがみこうすけ)。今年で三十五になるおっさんだ。
俺たちが何をしてたのかってーと、『ダンジョン』の報告だ。
ダンジョン──一昔前までは空想の中の出來事だと思っていたそれだが、今では空想なんかではない。
今からおよそ二十年前、とある國がなんかの実験をやって失敗した。確か……人工的なブラックホールだかホワイトホールだかを生してそこからエネルギーを作る、とかなんとか、そんなじの実験だった気がする。
まあその実験は失敗したわけだが、その時に予想外の結果が生まれた。
次元がズレたのだ。
そんなことを言われても何を言っているのかわけがわからないだろう。でも大丈夫だ、俺もわけがわからないから。
だがまあ、何が起こったのかはわからなくても、その結果どうなったのか、ってのはわかってる。
簡単に言えば、異世界と繋がった。それも、友好的な種族のいる場所じゃなくてモンスターと呼ばれる化けどもの巣にだ。
當初はわけがわからずにかなりの人が犠牲になった。
自衛隊なんかも出したが、敵は銃弾を弾き風の中でもき回るような正真正銘の化けども。
加えて、敵は魔法なんて超常の技を使ってくるんだ。あの時は本當に世界の終わりが來ると思っていたし、世界中の奴らもそう思っていた。
だが、そんな中でモンスターたちと同じように超常の技──魔法を使う奴らが現れた。
そして魔法を使う者だけではなく、モンスターと対等に毆り合うことさえもできる者も現れた。
俗に言う、『覚醒者』と言う奴らだ。
専門家はモンスターたちの世界の空気にれたことで、本來なら目覚めるはずのなかった力が覚醒したとか言ってるが、本當のところはどうなのかわからない。まあ結果だけを見ればそうなのかもしれないが、実際のところはわからないし、どうでもいい。
で、だ。覚醒者たちは自分たちを襲ってきたモンスターたちを殺し、そいつらの出てきた場所……黒く渦巻く空間へと逆侵攻した。
多分、恨みだったんだろうな。親兄弟、友人人知人恩人。そんな人たちを殺されて、その復讐として渦巻く空間──『ゲート』の中へと進んでいった。
それから何日かして、ゲートの中にっていった奴は死んだんだろうと思われた頃、一人の男がゲートから姿を見せた。
そして帰ってきたその男によって、ゲートの先にはモンスターたちの住処──『ダンジョン』があり、その最奧の核となっているものを壊すとゲートも壊れるというのがわかった。
その報をけた國は覚醒者をまとめて、ダンジョンを攻略させた。それが今でいう『冒険者』の始まりだ。
それから二十年近くが経って、冒険者という存在もそれなりに馴染んできた頃。なんの罰なのか、俺も冒険者として覚醒した。
これで俺も超常の力を使うことができる! ……なんて、喜ぶわけがない。
確かに憧れたことはあるさ。手から炎を出したり、剣で巖を切ったりな。
だが、実際に自分が化けどもと戦えって言われたら、免被る。
しかしながら、冒険者として目覚めた俺に戦わないという選択肢はなかった。
冒険者となったものは、最低でも五年間は國の出したノルマをこなさないといけない。
これは発生するゲートの數に対して今の冒険者の數には不安があるから仕方がないと言えば仕方がないのだが……はぁ。
もちろん『化けと戦う』なんて危険を押し付けられるんだからそれなりの特権というか、ご褒はある。
金払いは良いし、病院なんかは待ち時間なしにけられる。あとは住宅を買う際に割引されたり、銀行から無擔保で借りられたりと、々とある。
が、それは本當に命をかけるだけの価値があるものか?
確かに金払いは良いさ。覚醒者にはその力の度合いによって階級分けされるが、最低位の覚醒者であっても普通に働いているサラリーマンよりは稼げるし、頑張れば年収一千萬も狙える。
だが、もう一度言うがそれは、本當に命をかけるだけの価値があるのか?
なくとも俺は覚醒なんてしたくなかったし、普通の會社員として生きたかった。冒険者? んなもんはクソくらえだ。
「もうそろそろキツくなってきてよな。いや、結構前からキツかったけどよ」
「つってもあと三ヶ月でこの苦行も終わりだ。それならすぐだろ」
「その『すぐ』が結構きついんだよ。ほら、ゴールが見えると途端に疲労が襲ってくるじ」
ここにいる俺たち四人は全員が三十過ぎといったが、中にはもう四十を超えている奴もいる。
覚醒者は、どれほど弱いやつであったとしても並のアスリートよりも速く走れるし、力も強い。
だがそれでも年齢には勝てないのだ。
同じ期間冒険者として活している二十歳と四十歳の者がいたらどちらを選ぶかといったら、大抵の場合は二十歳の方を選ぶ。
加えて、今までろくに鍛えていなかった俺たちが、突然力に目覚めたからって満足にくことができると思うか?
しかもだ、それらに加えてまだ問題がある。
覚醒者は『先天覚醒者』と『後天覚醒者』……まあ、生まれつきかそうでないかに別れるんだが、後天覚醒者は先天に比べて弱いのが基本だ。
そして後天覚醒者であっても子供の頃に目覚めた場合は、先天と遜なく強くなれる。それはければいほど力が強くなりやすい。
これは仕方がないと言うのはわかる。どんな事柄であっても、子供の方が適応するのが早いんだからな。
だからおよそ三十から覚醒した後天覚醒者である俺たちは他の冒険者たちから見向きもされない。
「つーかあとは浩介だけだったか?」
「ん? ああ、あとは俺だな。俺の殘りの三ヶ月が終われば晴れて『お勤め』も終わりだな」
俺たちはダンジョンに潛る際の最低人數である四人でチームを組んでいる。
その全員が後天覚醒者であり國から五年間のダンジョン攻略──通稱『お勤め』と言うが、これはまぬ後天覚醒者にとっては刑務所の強制労働と同じようなものだからだ。──を定められているのだが、俺以外の三人はもう『お勤め』を終えている。
お勤めの終了時期が違うのは、當然と言うべきか、俺たちの覚醒した時期が違うからだ。一番早く覚醒した奴だと、俺より三年も早く覚醒していた。その分早く『お勤め』を終えているのだが、それでも同じチームの俺たちの事を思って冒険者として殘ってくれた。
そうして冒険者として活しているうちに他の二人も『お勤め』を終えた。
んで、そんなわけで殘りは俺一人だけなんだが、そのお勤めも後三ヶ月ちょっとで終わる。
「……それくらいなら一人でも行けんじゃね? もう解散でいいだろ」
「ふざけんなっ。一ヶ月だったとしても一人で潛るとか自殺行為だろうが!」
「いやでも、お前なら一年だとしてもマジで一人で行けそうな気が……」
そんな風に軽口を叩きながら先ほどまで使っていた部屋の鍵を返すために付に行った。
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