《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》ジーク対佳奈
「準備はいいかな?」
「ええ」
「それじゃあ、いつでもどうぞ」
ジークは鞘をつけたまま武を構えている。と言うことは、やっぱり淺田に対しても本気で戦うつもりのようだ。
まあ、じゃないとまともに対抗できなくなるかもしれないしな。
何せ自由に強化できるようになったとしたら、淺田は特級並の攻撃を繰り出せる。
接近戦だけとはいえ特級の力を使えるんだったら、それは魔法を使うことのできないジークにとっては全くの同格。
お互いに魔法が使えず、同程度の力をしていて、力押しの戦いをするんだから、ある意味でミラーマッチみたいなもんだ。
そりゃあ本気にならないわけがない。
まあ、補充薬を使わない狀態であれば淺田の魔力量はジークよりもないわけだし、戦える時間の違いってのはあるけど。
「あたしの力、見せてやるんだから」
そう言って淺田が見たのは、ジークではなくこっちだった。
その視線は俺たちを見ているようにも思えたが、多分違う。俺たち、ではなく、宮野だけを見ていたんだろう。
視線を対戦相手であるジークに戻した淺田は走り出し、ジークに向かって大槌を振り下ろした。
だがそんな大ぶりな攻撃は格上であるジークには簡単に避けることのできるものでしかなく、事実淺田の攻撃は余裕を持って避けられた。
「そんなミエミエの攻撃、當たらな——おっと」
淺田の攻撃を避けたジークは持っていた剣を振って淺田を攻撃しようとしたんだろう。
だが、淺田は振り下ろしによって軽く地面にめり込んだ狀態の大槌を放置し、一歩踏み出して左手をジークへとばした。
「重量級の武は攻撃後の反撃に気をつけないとね」
しかしそのばした手は避けられ、お返しとばかりにジークが持っていた剣を上段から振り下ろした。
半を前に出したその勢からでは武を使って防ぐことはできないだろう。
そう思ったのだが、淺田は大槌を右足で蹴りあげて、自へ振り下ろされる剣へとぶつけて迎撃した。
「うわっ、そうくるか」
振り下ろされたジークの剣を大槌で弾いたことで、蹴り上げられた大槌からは勢いが消えた。
それを利用し、淺田は大槌を両手で持ち直すと、そのまま思い切り振り下ろした。
大槌が振り下ろされた瞬間、し離れた場所にいる俺たちのところまで空気を震わせるほどの轟音が屆いた。
おそらく今のは強化されていたんだろうが、あんな一撃をまともに食らったら、たとえ特級のジークであったとしても無傷でいることはできないだろう。
しかし、攻撃が大振りだったせいか、淺田の攻撃は避けられていた。
だが、そんなことは予想済みだったのか、淺田は振り下ろしの勢いを利用して大槌の柄の上に逆立ちすると、そのまま踵おとし。
前方に手をついて一回転するという流れだけ見るなら、超変則的なハンドスプリングってところだろうか? それにしては前方の地面についているのは手ではなく武だし、著地は踵落としだしで、些か……を通り越してだいぶ兇悪な代だが。
しかしそんな曲蕓みたいな攻撃も避けられる。
だが淺田はそれでも止まらない。
一回転と踵落としの勢いを利用して、地面にめり込んでいた大槌を引き抜き、今度は橫に振り回す。
が、これも避けられ、淺田は大槌を構えてもう一周するがさらに避けられる。
さあ、このあとはどうするんだろうか? 大槌に限らず重量武ってのは、振り回しに威力は乗るけど、その勢いを殺すことが難しく、隙ができやすい。
今の淺田のぶん回しだって、このまま強引にきを止めようとすればどうしたってのきが止まってしまう。
今は淺田の攻撃を萬が一にでも食らわないようにしているのか攻撃せずに避けているが、そんな隙ができればジークが見逃すはずがない。
そんなことを考えて見ていたのだが、淺田は今度はもう一周せずに、大槌の軌道を橫へ振り回すものから下方へと叩きつけるものへと変えて地面にぶつけ、強引に大槌の勢いを殺す。
それでは武のきが止まってしまうし、勢いだって殺しきれずにわずかにが流れている。
だが淺田はそんな流れたを利用して前に踏み出し、ジークの肩の辺りへとハイキックを繰り出した。
さっきから止まることなく繰り広げられる怒濤の連撃。一撃でもまともにければ……いや、まともに喰らわず、掠っただけでも大ダメージは避けられない攻撃の嵐。
だが、そうして繰り出した蹴りすらもジークの剣にけ止められ、弾かれる。
そして、足を弾かれた以上、どうしたって勢は崩れる。
攻撃を弾かれたことで勢を崩しながら片足で立っている淺田に向かって、ジークは鞘にったままの剣を思い切り叩きつけた。
「あぐっ——!」
腕を防に回そうとしたが、間に合わず、淺田はその剣の勢いで吹き飛んでいった。
「やっぱり、なかなかやるよね。けど、もう終わりかな」
「まっ、だまだああああ!」
しかし、吹き飛ばされた先で立ち上がった淺田は、ポケットから何かを取り出すとそれを握りしめて、パキッという音を響かせた。
……っておい! まさかあれは——
淺田が何をしようとしているのか一瞬で理解すると、俺は驚きからを固まらせてしまった。
できない。できるはずがない。だってその前段階でさえ完全に扱うことができていないんだ。それよりもさらに難しい事を、できるはずがない。
「ん——くうっ!」
そう思ったのだが、直後、淺田からうめくような聲が聞こえてきた。
「え?」
「これでえええええ!」
呆然としたジークのらした聲をかき消すように、淺田はんだ。
「あ——」
淺田のびで対処しなければならないことに気が付いたのか、ジークはし間の抜けた聲を出してからすぐに迎撃態勢をとった。
そして、ジークに向かって走っていった淺田の振り下ろしと、それを迎え撃つジークの切り上げが両者の間で激突し、それによって辺りに音だけではなく衝撃を撒き散らした。
「悪いけど、これでおしまいだよ」
だが、特級と一級がせめぎ合うという本來ありえないその勝負は、一級の負け——淺田の負けで終わった。
ジークの剣と真正面からぶつかりあった淺田の大槌は、淺田の手から弾かれ、本人からも俺たちからも離れた場所へと飛んでいった。
「すごい……」
そう呟いたのは俺の隣で2人の戦いを見ていた宮野だった。
こいつ、仲間のことを守る対象と見ていながらも、それでも完全にはそうと見ていないんだよな。
だから仲間のことを『敵』としては見ていないのに、無意識のうちに『ライバル』だと見てしまう。
「いやー、疲れた疲れた。ちょっと焦ったよ」
言葉とは裏腹に、疲れなんてじさせない様子でジークがこっちに戻ってきた。
だが、実際には言葉通り疲れただろうし、本當に焦ったと思う。
淺田は、まだ武が弾き飛ばされた衝撃が殘っているのか、その場に座り込みながら自分の手を見つめている。
だがそれは、衝撃が殘っているからってだけじゃないんだろうな。
「……うわぁ」
疲れを回復するためだろう。その場に座り込んだジークは武の手れをし始めたのだが、ししてから嫌そうな聲をらした。なんだ?
「さて……で? 次は君か」
ジークは肩を回したりをかしたりして調子を確認していたのだが、數分ほどの休みを経てから宮野へと顔を向けて問いかけた。
「はい」
宮野がジークの言葉に頷いたことで二人は俺たちから離れていったのだが、未だに淺田は座り込んだままなのでどうにかしなければいけない。
なので、俺は2人にくっついて歩いて行き、淺田を立たせると回収して元の場所まで戻ったのだが……。
「ほら、立て」
「——ぁ」
惚けたような悲しげな顔で俺を見ると、だがすぐに何かに気がついたようにハッと目を見開いた。
「あ、ああうん。ごめんごめん。殘ってたら邪魔だよね。やっぱしちょっと疲れたみたい」
淺田はそう言ってから笑ったが、その顔と數瞬前の顔があまりにもかけ離れすぎていた。
……こいつ、だいぶ不安定になってないか?
俺がそんなことを考えているとは知らない宮野は淺田を見ていたが、その表は仲間の様子に何も疑問を抱いていないようだ。
そしてその視線は先ほどジークとの戦いを見ていた時のようなライバルを見るものではなく、守る対象を見るものへと戻っていた。
……淺田もだが、宮野もこいつはこいつで難儀な格してるよな。
淺田もこいつも、放置しておいたらめんどくさいことになりそうだな。どうしたものか……。
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