《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》瑞樹と晴華と柚子の果
「それでは、お願いします」
「うん。いつでもどうぞ——」
ジークが言い切った瞬間に宮野の姿がその場からかき消えた。
かと思ったら次の瞬間には金屬をぶつけたような音とともにジークの前に現れていた。
どうやら近寄って剣を振ったらしいが、ジークがそれを防いだようだ。
初撃をけ止められた宮野だが、それを気にすることなく剣を振るい、連撃を浴びせていった。
もはや神速といってもいいほどの宮野の剣だが、ジークもさるものでその全てをけ、捌き切っている。
そうして數合えてから宮野は魔法を発してジークの後ろに回り込み、それと同時に剣を薙いだ。
だが、戦っている相手からしたら瞬間移と変わらないようなその攻撃も、まるで予想していたかのように避けられてしまう。
事実、ジークは宮野の行をある程度は予想していたのだろう。でなければ、いかに特級といえど今のを避けるのは難しいはずだ。多分試合の様子を見ていたんだろうな。
それからも宮野が橫や後ろに回ったりしながら何度も切り結ぶが、宮野は一撃たりとも通すことができず、ついには攻撃していたはずの宮野が逆にジークの攻撃をけてしまった。
「そのやり方は試合でもやられたでしょ。コースを見抜かれたら終わり。一定以上では通用しないよ」
やっぱりジークはあの時のお嬢様との試合の様子を見ていたようだ。
宮野の移は確かに速いが、きは直線で、あらかじめ設定した道を通るだけだ。
それならばある程度戦いになれたものならばけ切ることは可能だ。何せ移するであろう場所にあらかじめ攻撃を〝置いて〟おけば、勝手に當たりに來てくれるのだから。
だが、そういったジークの聲にはいつものような気楽な様子はない。
多分、あいつとしても結構ギリギリなんじゃないだろうか?
「わかってます。だから……」
宮野はし悔しげな表でそう言うと、先ほどと同じようにもう一度突進し、やはり同じように剣を振るう。
が、その後が違った。
宮野の視線の先がバチッとったかと思うと、ジークが一瞬だけきを止めた。
魔法だ。いつもならし距離が離れた場所か、剣を止めてからでないと使えていなかった雷撃の魔法がジークを襲ったのだ。
流石のジークも剣で切り結んでいる途中で至近距離から放たれた雷は避けることができなかったようだ。
そうしてできた隙を見逃すことなく宮野が剣で斬りかかるが、ギリギリで防がれる。
が、宮野はすぐにジークの橫に移して斬りかかり、一撃、ないし數撃ごとに移して斬りかかっている。
「それ、さっきの戦いもだったね。どうやったのか知らないけど、攻撃の繋ぎも魔法の発も、速く上手くなってるよ」
それは宮野に教えた魔法の新しい使い方のせいだろう。
前は魔法を使う直前にわずかな直や、攻撃の緩みがあったが、今ではそんなことはない。
視線を向けて設定した魔法に魔力を流すだけで、本來なら時間がかかるはずの魔法を勝手に魔法が発してくれる。
とはいえ、視線の先に発するという質上、それに気づかれれば対処されてしまうことになる。
が、それならそれで視線のきを逆手にとればいい。
まあ、その辺はまだあいつにはできないだろうから、おいおい慣れていくしかないけどな。
「ん、これは……ちょっとまずいかな」
そうして改めて二人の斬り合いが再開したのだが、しばらくの間宮野の攻撃をけていると、ジークはわずかに表を曇らせてつぶやいた。
なんだろうか、と思っていると、ジークは急に戦い方を変えた。
さっきまでは守りに徹して宮野の攻撃を凌いでいたのに、今は多の無茶をしてでもカウンターを行なっている。
しかしジークの攻撃は會心の一撃とはいかず、たまにったりしているだけだ。
だが、力自慢のジークの攻撃はただっただけも勝敗を決める一撃になりかねない。
事実、宮野のきは戦い始めた時よりも僅かに鈍くなっている。
「これでっ!」
このまま続けても負けると判斷したのか、宮野はジークから距離を取るとお嬢様と戦った時のように剣に雷を纏わせた。
そして以前ならそのまま突っ込んでいったが、今回は違う。
剣に雷を纏わせながらも魔法を発させ、次の瞬間には宮野はジークの前に現れて剣を振り下ろしていた。
ジークはそんな宮野の振り下ろしに対処するべく剣を切り上げる。
それはさっきの淺田とジークの戦いの最後と同じ構図だった。
だが、構図は同じでも、その結果は違った。
「あー、やっぱり壊れちゃったかぁ。まあそんな気はしたけどさ」
ジークの持っている剣の鞘は砕け、剣はその長さを半分以下へとめてしまっていた。
「悪いけど、今日はこれでおしまいでいいかな」
剣が折れた以上は戦えない、とジークが肩を竦めて言うと、宮野はそれに頷いて構えを解いた。
「はい。ありがとうございました」
「うんうん。すごく強くなってるね。こんな訓練なんかじゃなければ、本當に死んでたかも?」
今の戦いは凄かったし、二人とも本気で戦っていただろう。
だが、それでもこの勝負はあくまでも訓練なんだと二人とも手を抜いていた。
でなければ宮野はもっと魔法をぶっ放してただろうし、ジークだって訓練場が荒れ果てるまで暴れているはずだ。
だが、淺田はそうして戻ってきた二人を見て顔をしかめていた。
二人、と言うよりも、ジークの持っている折れた剣と、それを折った宮野のことを、だな。
「悔しがることはないよ。これは先に君と戦ったから壊れたんだから」
「……そう? ならあたしも結構頑張ったかな!」
ジークは淺田の視線を察して自分の持っている剣を見た後に聲をかけたのだが、淺田は表面上は明るげな様子を見せているものの、答えるまでに一瞬あった間やそれまでの様子から考えるにめられているとじたようだった。
多分だが、自分では傷つけることもできなかったのに鞘ごと剣を折ったことで、自分の力不足をじたのだろう。
だが、それはどうだろうか?
確かに淺田にはまだまだ甘いところはある。
しかしそれでも、ジークの言葉は決して噓ではないと思う。
ジークは淺田との戦闘後に武を確認した時にまずそうな顔をしていたし、すでにその時には異常が出ていたんだろう。
淺田と先に戦っていなければ、ジークの剣が折れることはなかったはずだ。
あいつの剣が折れたのは、単なる順番の違いでしかない。
しかし、今の淺田にはそんなことをいってもめにしか聞こえないだろう。
「せっかくだからそっちの二人も戦うかい?」
「武は?」
「模擬剣でいいでしょ。君たちの場合は直接打ち合うってわけじゃないんだし」
そんなわけで今度は安倍と北原のタッグで戦うことになった。
まあ近接相手に魔法使いでは相が悪いからな。
それをどうにかできるようにするのが訓練ではあるのだが、相手は特級だ。二人一緒であってもハンデとしては足りないかもしれない。
そうしてジークが訓練用に備えてあった備品の模擬剣を持ってくると戦いは始まった。
今回ジークは二人が魔法使いということもあってか先ほどまでとは戦法を変えて突っ込んでいったが、速い。
常人では……いや、生半な一級では何かをする前にやられておしまいになるだろう。
だが、そうはならなかった。
ジークが接近し切る直前に北原が結界を張り、ジークはその結界を壊すために剣を振り下ろしたが、失敗。結界は見事に二人を守り切った。
が、その守り方というのが、普通のものとは違っておかしい。
普通の結界というのは何かがぶつかれば弾くか、それが魔法ならかき消すものだ。
だが、今北原が使ったのは、なんというか、絡めとるようなものだ。
結界にれたジークの剣が結界に突き立ったまま抜けない。
その結界は防ぐ、というよりも、行の邪魔をして時間を稼ぐためのものだ。
そうしてジークがきを止めた瞬間に安倍がジークの足元から炎を吹き上がらせ、さらにそれを突き破るかのように炎の球をいくつも出した。
「炎系の相手は得意なんだよね。何せドラゴンの常套手段だしっ、と!」
結界に剣を絡め取られていたジークだが、それほど拘束力があるわけではないのか、それともジークがそれなりに力をれたのか、剣はすぐに抜けてジークはそのまま後退した。
大した魔法がかかっているわけでもないというのに、ジークは迫る炎の球を、持っていた模擬剣で弾いた。
魔法には魔法使いしか干渉することができないはずだというのにジークが安倍の炎を斬ることができたのは、あいつのつけている裝備のおかげだろう。
対ドラゴンの専門家だし、魔法が使えないんだからそういう裝備を持っていてもおかしくない。
北原の結界は、ジークの攻撃を防いでいる間に層が増えていき、最終的には五層もの厚みへとなっていた。
これは最初から強い結界を張るのではなく、まず時間を稼ぐことに重點を置いた結果だ。
そうして時間を稼いでいる間に、新たに理減衰、魔法減衰、理反、魔法反と結界を張っていき、最後に保険用として理と魔法両方を遮斷する結界を張って完。
最終的には六層に及ぶ結界を張ったことで、北原達を守る結界は完となった。
そしてこの結界、いつものごとく外からの位置方向だけに効果を出すもので、つまりはからは攻撃を自由にできるって代だ。
複合の結界は発までに時間がかかるので、一効果で一枚ずつ結界を張っていけばいいじゃないかと、こうなった。
北原が張った結界を壊すためにジークは剣を振るうが、第一の結界で絡め取られて勢いを落とし、理減衰によってさらに速度を落とし、理反で軽く弾かれて終わった。
またも強引に剣を引き抜いて安倍の魔法を避け、今度は切るのではなく突きを放つ。
今回の突きは本気で放ったのか理反の結界にヒビをれることができたが、それでも完全に壊すことはできず、仮に壊せたとしても最後の理魔法どちらも防ぐ結界に阻まれる。
これが北原の結界の強みでもある。
第一から第三までの結界は攻撃を減衰させるだけだから、魔法そのものを壊されない限り結界が壊れることはない。
一度結界を張ってしまえば、それ以降は気にする必要がないのだ。
そして魔法を使えないジークには魔法を壊すことなんてできない。
どうしようもなかった。
そして攻撃が屆かないだけではない。
安倍は相手の攻撃を避ける必要がないからか、普段よりも時間をかけて隙を曬すような魔法を使い、ジークを追い詰めていく。
今のところは避けたり切ったりしているが、攻撃に専念している安倍と、防と攻撃を両立しないといけないジークでは、一級と特級の差があるって言ってもきついものがあるだろう。
加えて、結界を張り終わった北原は、以前俺の元チームメンバーで治癒師をやっていたケイから教えてもらったスリングショットを使い、ジークを攻撃している。
とはいっても、それはさほど威力があるものではない。々が相手の気を逸らすくらいなもんだろう。
だが、迫した狀況ではそんなちょっとした邪魔ってもんが意外と効く。
けてもけなくても問題ないが邪魔なことは確かだし、飛んでくる球がただの礫以外にもあるとなれば、それは思考をす毒になる。
こうも型に嵌められると、もうどうしようもないだろう。
「あー、これは無理かなぁ」
そんな考えは正しかったようで、ジークは北原の結界にもう一度突きを放つと、今度は結界にヒビをれることも葉わずジークの使っていた模擬剣が砕けちった。
剣が砕けるのを見るや否やジークは二人から離れた位置できを止めると、両手を上げて降參した。
「ほんと、まさにお手上げだよ」
そしてジークは肩を竦めながらこっちに戻ってきた。
ジークの言葉をけて北原も結界を解除し安倍と一緒にこっちに向かってきている。
「せめてまともな武があったらもうちょっと頑張れたんだけど……ま、言っても仕方ないか」
まあそうだな。ただの模擬剣で結界にヒビをれることができたんだ。もしこいつの武が壊れなかったら、砕くこともできただろう。
その後は今の試合の反省會をしてから適當に話した後、それじゃあまたね、と言い殘してジークは帰っていった。
帰っていったジークを見送って、宮野たちも今日は疲れているだろうと言うことで解散となった。
宮野は手応えをじられたからか、自分の手に視線を落としてグッと拳を握っている。
安倍と北原も、以前は工藤という特級に勝てなかったのに今回は思った以上に戦えたからか、嬉しそうだ。
だが、淺田はそんな三人を力ない笑みを浮かべながら見ていた。
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