《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》佳奈と浩介
──◆◇◆◇──
そして解散となったはずなのだが、宮野は先程の戦いの覚を忘れないためか、まだやりたいと自主訓練に行き、安倍と北原は魔法の開発のために図書室へと向かっていった。
その場に殘ったのは俺と淺田だけとなった。
「あーあ、やっぱ無理だったかぁー。もうしいけると思ったんだけどなー」
まるで気にしていないと言わんばかりのその聲だが、次の瞬間、淺田の表がふっと暗いものへと変わった。
「……ねえ、あたしって、ほんとに強くなれてんのかな? ……強く、なれんのかな?」
「なれてるさ」
こいつのじている不安を消すために、躊躇うことなくはっきりと斷言してやった。
「ほんとに?」
だが、それでもなお不安は消えないようだ。
俺が淺田の顔を真っ直ぐに見つめると、淺田は視線を彷徨わせてから俯き、話し始めた。
「……だって、瑞樹はあいつの剣を折ったし、晴華と柚子だって、あいつの攻撃を完全に防いで追い詰めるほど強かった」
まあ、あの三人は確かに強くなった。
宮野は特級だからいい勝負になった、なんて言えるとしても、本來は安倍と北原と一級が二人いたところで勝つことなんてできない。それほどまでに特級ってのは規格外の存在なのだ。
しかし、宮野が自よりも経験富な特級に引き分けたのも、安倍と北原が特級相手に勝てたのも、どっちもこいつが武を壊したからだ。
ジークの武が萬全であったのなら、どちらもそう上手くはいかなかったはずだ。
「でも、あたしは?」
確かに、淺田の言うように結果だけを見ればこいつはジークに対して善戦はしたものの、大した結果を殘すことが出來なかったように見える。
だがそれはそう見えるだけだ。
武は実際には宮野ではなくこいつがほとんど折っていたようなもんだし、それがあったからこそ安倍たちは結界を壊されずに勝てた。
武の件以外にも、ジークとしてはこいつが一番脅威だったと思うけどな。
一瞬だけ見せたあの表。焦りと困が混じったような結構本気の表だ。
宮野達と戦った時には驚きは見せても、焦りは見せなかった。
「お前は強くなれるよ」
そう思ったからこそ、俺はもう一度淺田に言った。
俺の言葉を聞いた淺田は、完全に自信を取り戻したってわけではないが、それでもわずかに目の奧に見えるを強めて俺を見返した。
「……」
「強くなれなかったら、お前の言うことを一つ聞いてやってもいい。それくらい俺はお前が強くなれるって確信してるよ」
が、その後の反応は俺が思っていたものとし違った。
「えっ? ……じ、じゃあ、強くならない方がいいの……?」
「そっちに反応すんのかよ。ってか、そこは頑張れよ」
確かにこいつからしてみれば強くなれなかったら俺に頼み事ができるわけだが、だとしてもここは頑張る流れじゃないか?
「……うん」
しかしそう言ったのは冗談だったのか、頷いた淺田は力ないながらも悪戯っ子のような笑みを浮かべていた。
多なりともいつものような元気が出てきたようだ。
だが、それでもまだ完全には前を向くことができていないような気もする。
「それとも、なんだ? お前は俺に泣きつくのか? 『もう嫌だ。頑張りたくない。こんなことをしても意味がない。だから甘えさせてくれ』って?」
だが、こいつはそんなことを良しとしないだろう。
なくとも、俺の知っているこいつは立ち止まったり迷ったりすることはあっても、こんなことで挫けたりするようなやつじゃない。
そんなやつだったら、俺はこいつらに……こいつに対してこんなにれ込んでいない。
「お前がそうむなら、甘やかしてやろうか? 『よしよし。お前はよくやった。お前は俺が守ってやるから頑張らなくていいんだぞ』って」
「っ! ……それは……」
俺の言葉にビクリと小さくを跳ねさせた淺田だが、ギリッと歯を噛み締めるとゆっくりと首を振って口を開いた。
「それは、いや。守られてるだけなんて……そんなけないの、絶対に嫌」
淺田ははっきりと俺の目を見據えながら言った。
その言葉を聞いて俺はそれ以上何も喋らず、淺田は目を瞑ってから顔を俯かせ、そのまま何も言わないまま時間が過ぎていく。
數分ほどすると淺田は下を向いていた顔をあげて、俺のことを見つめた。
かと思ったら、恥ずかしかったのかサッと顔をそらされた。
「……ん、ごめん。らしくなかったでしょ」
だいぶ思い詰めてたみたいだな。
いやまあ、わかっちゃいたんだけど……はあ。
俺はため息を吐くと淺田の頭の上に手を置いて、ぐりぐりと暴にでた。
これでしでも忘れさせることができればいいんだがな。
「ちょっ、なに? 何すんのっ!?」
「らしくないっちゃらしくないが、気にすんな。悩むのは子供の特権だ。大人になってからじゃそうそう悩むことなんて狀況が許してくんねえことも多々あるが、子供のうちは悩んどけばいいんだ——がんばれよ」
「……ありがと」
「どういたしまして」
──◆◇◆◇──
ジークとの模擬戦を経てからさらに二週間が経ち、今日が修學旅行の二日前になった。
「なかなか様になってきたな。前みたいな中途半端じゃない狀態で使えるようになれば、ジークとやることになってもそれなりに戦えるかもしれないな」
俺はあの日からも変わらず宮野達三人と淺田に修行をつけているが、宮野達の仕上がりは言うまでもなく順調だ。
元々宮野に関しては魔法の理論さえ教えてしまえば、あとは自分で習するしかないので、俺としてはどの魔法をどう設定するか相談に乗るくらいしかやることがなかった。
安倍と北原も宮野と同じで、教えた魔法の使い方とあいつらの考えた魔法に関して相談に乗ったこと、それからちょっと近接戦の手解きをしたくらいだ。
もっとも問題があったのは未だ理論だけだった技を覚えようとしていた淺田だが、その淺田の方も以前ジークと戦った時に魔石を使ったことで覚が摑めたのか、途端に魔力の作ができるようになっていた。
あの時は出來もしないと思っていた魔石を使っての魔法の強化に挑んだことに驚いたが、あのおかげでできるようになったのだから何よりである。
今ではまだ魔力を完全に作しきれていないので強化時間が短かったり、魔石を使っての強化はできたりできなかったりと不安定だが、それでも五割くらいの確率で強化できるようになっていた。
「それなりって、勝てないの?」
「あっちは何年も戦い続けたプロだぞ? 経験の量が違う」
「経験の量かー。それはどうしようもないかなぁ」
ジークは冒険者として活するようになってからもう何年も経っており、『勇者』として強敵を相手にしてきたことも何度もあるはずだ。
そんなやつを相手にたかだか一ヶ月程度修行をしたところで勝てるようになるわけがない。
だがまあ、確実に勝てる、とはいかなくても、もしかしたら勝てる、くらいに持ってくることはできた。
そこには當然ながら淺田本人の努力があったからだが、だとしても尋常ではない長だ。
教えた俺としては、そのうちできるようになるだろうとは思っていたが、魔石を使っての功率を五割まで持っていくのに早くても三ヶ月はかかると思っていた。しかもそれだって希的な予想だ。
だってのに、こいつはジーク戦での無茶で強引な一歩はあったとはいえ、たった一回の踏み込みで功させた。
才能もあるんだろうが、もはや執念と言ってもいいかもしれない。あるいは、プライドか。
劣っていようが負けていようが、自の不出來さをわかっていてもそれでも全てをぶち破って前に進んでいく、こいつをこいつ足らしめる心。
それがあるからこそ、こいつはこうも早く新しい力をここまでものにすることができたのだろう。
俺も今までそこそこ頑張ってきたって思っちゃあいるが、それは逃避や誰に対するものかもわからない復讐心からくるものだった。
それに対してこいつは、ただ愚直に目標に向かって進み、願いを摑むために努力をしている。
……ほんと、かっこいいやつだよな。
「……でもさ、瑞樹は違うよね?」
一旦話が途切れたのでそんなことを考えていると、不意に淺田がそう呟いた。
セリフだけ聞けば、以前のように諦めからくる悲しげなもののように思えるかもしれないが、それは違う。
その目には以前とは違い、諦めや悲しみなどの負のはない。
代わりに、挑戦者の眼とでも言おうか。淺田の瞳には、挑み、食らいつこうとする獰猛なが宿っていた。
「これで瑞樹の隣に立ってられるかな?」
「さあな」
「……ここまで訓練に付き合ってきてそれ? もうちょっといい言葉とかないの?」
肩を竦めながら言った俺の言葉を聞いて淺田はつまらなそうにを尖らせて文句を言っているが、こればっかりは仕方がない。
俺はこいつにも宮野にも々と神的なケアをしたり手をれたりしてるが、結局のところ最後には當人同士が話し合って、ぶつかりあっていくしかないんだ。
「そりゃああいつがどう思うか次第で、お前があいつに隣に立っていられる存在だって思わせられるかどうかだからな。俺が何か言ったところで意味はないし、諦めろっつっても、お前は諦めないだろ?」
「もち! そんなの決まってんでしょ!」
「なら言う意味ねえじゃねえか」
「それでも何か言ってもらいたいのがの子なのよ」
普通のの子はこんな、鍛えて自分の強さを相手に教えてやる! なんて狀況にならないと思うが、まあ友達と喧嘩して仲直りを目指している時と同じような狀況だと思えば、普通っちゃあ普通か?
だがしかし、何か、ねぇ……。
「當たって砕けるのがお前だろ。いや、お前の場合は砕けるんじゃなくて砕く側か」
當たった障害を全て砕いてまっすぐに進んでいくのがこいつだった、と思い出してフッと笑いをこぼしてしまった。
「悩んで、準備して、ならあとはぶつかってけよ」
ま、言えることとしたらこれくらいしかないよな。
「もっと気の利いたこと言ってよねー。……でもま、いっか。あたしは、もう止まったりしないから」
勝ち気に笑いながらそう言った淺田は俺に背を向けたのだが、「あ、そうだ」と言いながら再びこっちに振り返ってきた。
「明日からの修學旅行、楽しみにしてるからあんたも覚悟しときなさいよ!」
楽しみにするような事を覚悟しろとはこれいかに。
「ぶつかってけって言ったのはあんたじゃん」
「……そっちじゃねえよ」
「あたしにとってはどっちも同じよ!」
そん言葉になんとも言えず、俺は微妙な表をしてしまった。
「まあなんだ、がんばれ」
もうちょい後にしようと思ってたが、まあいいタイミングっちゃあ、いいタイミングか。
こいつがこうも頑張ってんだ。
こいつの頑張りを無駄にしないためにも、そろそろ話をしておくとするかね。
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