《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》脅し

「んん。あー、それで? どうすればいいんでしょうか?」

「そのキメラを作るための施設がこの街にあるようなのです」

「それを壊すために手伝えと?」

「はい」

それは流石に……本當になんで俺みたいなのを呼んだんだってくらい大事じゃねえかよ。

「どうにもその『作業』は複數の場所で同時に行われるようでして……全ての場所を同時に襲撃しなければならず、そのために対処する人員は揃えましたが、それでもできる限りの人手を集めたいのです。それも、優秀な方を」

「……勘違いしているようだが、俺は優秀じゃない」

キメラを作るために子供達が犠牲になるってのは心苦しいが、だからって俺を呼ばれても困る。

確かに俺はこいつら騎士団をやり込めたことはあるが、実力で言ったら所詮は三級だ。

それに、俺みたいな確執のある余所者をれるよりも、自分たちの軍隊を持ってるんだったらそいつらだけでどうにかした方がいい気に決まってる。

「ええ。確かに、才覚だけでいうのでしたら、そうでしょう。二級や一級程度でいいのなら他にもたくさんおります」

しかし、そんな俺の言葉をシャロンはゆっくりと首を振って否定した。

「ですが、その程度であれば我々としても用意しています。ですが、だからといって戦力を確保しないのは違うのではないでしょうか? 今はしでも力を揃えておきたいのです」

そりゃあまあ、確かにその通りなんだが、それでもな……という思いは消えない。

「今回は図ったわけではありませんが、ちょうどこのタイミングであなたが來ることとなったのは神の思し召しでしょう」

神の思し召しって……そりゃあことあるごとに厄介ごとを運んでくるような神様のか?

そんな神様だったらきっと邪神の類だろうから、死んでくれて構わないし、その思し召しとやらも無視してくれ。

言ったら怒られるじゃ済まないかもしれないから絶対に言わないけど。

しかしどうすっかねぇ。

進むは地獄戻るも地獄ってじなんだよな、俺の経験からして。何か起こる時に近くにいると、大抵巻き込まれる気がするんだよ。

どのみち地獄に遭遇することになりそうだが、まあ、好き好んで地獄に行きたくはない。

どうにかして斷るべく口を開きかけたところで、先にシャロンが言葉を続けた。

「カーターの件を気にしてくださっているようですし、今回協力してくださったのなら、今後その件は持ち出さないようにさせます。ですので、どうかご協力いただけないでしょうか?」

いや、ぶっちゃけ気になんてしてない。むしろ処罰をけたことでざまあみろと思ったくらいだ。

まあこれ以上前のことを持ち出さないって確約ができるんだったらそれはそれで嬉しいが、だからといってその程度のことで危険に突っ込んでいくのかってーと、頷き難い。

でもこれ、お願いっぽいじで言ってるけど、その実は脅迫に近いだろうし……斷ったらまずいじの奴だよな?

「……これでもまだ頷いていただけないようでしたら、このものらの同類を呼ばなければなりません。それはあなたも避けたいのではないですか?」

「……こいつらの同類だと?」

どうしたものかと悩んでいるとシャロンからそう告げられ、その言葉に俺は眉を寄せながら訝しみつつ問い返した。

が、俺の言葉に対する答えに、絶句することとなった。

「ええ。——『ニーナ』」

「っ!」

「あなたの養として登録されている彼。今回の救世者軍の活容は、彼の生まれにもそれなりに関係しているものです。ですので呼ぶための理由が、ないわけではないのです」

——ああそうか。同類って、そういう意味かよ。

確かにこの寫真の子供達とニーナは『同類』だろうよ。

同じ救世者軍の『実験臺』としてな。

敵にニーナの同類がいるんだったら、もしかしたらニーナと同程度の戦力がいるかもしれない。

だったら、もしかしたらいるかもしれない強敵にニーナを當てて倒させるって考えは理解できる。

それにニーナだって、あいつらが関わっているとなったら參加する意思を示すかもしれない。

だが、俺はあいつにできることなら人間の殺しはさせたくない。

モンスターは仕方がない。俺だってやってるし、それはもうどうしようもないだろう。

しかしだ、モンスターは仕方ないにしても、人間社會で生きようと々と我慢を覚えているニーナを人間相手の戦場に立たせて殺しをさせるってのは、どうしたって許容することはできない。

だからこその俺か。

今までグダグダと言っていたが、詰まるところはそれだ。

『世界最強』なんて呼ばれるニーナと戦っても下すことのできる俺がいれば、敵にニーナと同等の敵がいてもどうにかできるかもしれない。最低でも囮や時間稼ぎには使える。そういう判斷だろう。

安全を確保し、作戦の功率を上げるために、どうしても『敵の最高戦力』に対抗できる人材が必要だった。

「……」

「私としても、彼の境遇には同していますし、そんな彼を大切にしているあなたに対して、彼を人質のように扱うことに抵抗がないわけでもありません。——ですが」

シャロンはそれまでの優しげな雰囲気を消して、真っ直ぐに俺を見據えてきた。

そしてそれに応えるかのように、俺も目の前に座っている〝超常対策局の局長〟へと視線を返した。

「それでも私はこの街を、國を守らなければならないのです。そのためであれば、使えるものはなんであっても使ってみせます」

シャロンの瞳は真剣なもので、なるほど。今回みたいな作戦を任されるだけはあると思える姿だ。

だが、俺にはどうしてもその姿がかっこいいとも立派だとも思えなかった。

こいつが俺に言ったことを考えれば當たり前だがな。

「協力、していただけませんか? できることならば、自主的に協力してくださるとお互いの今後のためになるかと思います」

こいつにじていた親しみなんて、もうとっくに消し飛んでいた。

「……わかった」

だがそれでも俺は頷いた。

あいつを……ニーナを參加させるわけにはいかないから。

だって俺は、本ではないが、それでもあいつの親を名乗ってんだ。

なら、人殺しが起こり、人殺しをさせることになるかもしれない襲撃になんて、參加させるわけにはいかないだろ。

「ありがとうございます。協力してくださるお禮として、先ほど話した通り、我々の施設にあるものは自由に使っていただいて構いませんし、裝備の貸し出しも許可します」

「……そうかよ。どうもありがとう」

「ええ。功した暁には、貸すのではなく、そのままお譲りいたしますよ」

譲るって言われてもな……。正直言ってそんな話はもうどうでもいい。

こいつらみたいな國の機関が使うような最新鋭の裝備を無償で手にれることができるとなれば、それなり以上に価値があることだ。

だが、今の話の後でそんなことを言われても、俺の心はもう素直に喜ぶことはできない。

話がまとまったからか、シャロンは最初のように優しげに笑いかけてきたが、もう俺はこいつのことを冷めた目でしか見ることができなかった。

「……あなたとしては不本意なことだと思います。ですが——」

「ああわかってるさ。個人よりも全を重視するってのはな。一人のを踏み躙ってでも何千何萬の命を守れるんだったら、誰だってそっちを選ぶ。特にあんたらは為政者だ。俺を慮って躊躇し、そんで失敗したんじゃ話にならない……俺にそれほどの価値があるとも思えないけどな」

戸籍上でしかないとはいえ、娘を使って脅すだけの価値が俺にあるとは思えない。

むしろ逆、俺を使ってニーナを脅した方が戦力としては意味があるだろう。

だが、俺がそう言ってもシャロンは首を振った。まあ分かっていたことではあるけどな。だってわざわざ俺に聲をかけてきたわけだし。

「いいえ。あなたは、あなたが思っている以上に価値があります。その能力も、経験も、そして功績も」

能力と経験ってのはわかるにしても、功績に意味があるってことは……求められている役割は囮か?

ニーナの代わりを期待されてることから考えても、強敵が現れた時の目を逸らすための囮役、ってのが求められている役どころとしては妥當なところだろう。

ま、実際には聞いてみないとわからないか。

「……協力ってのは、的に何を?」

「明後日の深夜、襲撃を仕掛けます。その際に同行をしていただきたいのです」

「明後日の夜ね。隨分と急だが、言っても意味ないか」

多分これは俺たちが修學旅行に來ることを知っていてそれを予定に組み込んでいたじだろうな。

なら、最初から逃げ道なんてなかったってわけだ。

「カーター」

「はっ」

「私が話しても気を悪くさせるだけでしょうし、後のことはあなたに任せます。作戦の説明や騎士団の施設や設備の案と説明、よろしくお願いしますね」

俺を気遣ったような會話だが、そんな會話を、俺は白けた目で見ることしかできなかった。

気を悪くさせる、なんてわざわざ言ったのは、こっちにそのことを意識させるためだと思う。

意識し、向こうも大変なんだと思ってしまえば、多なりとも悪を抱きづらくなるからな。

だが、それは相手によっては悪手になる。例えば、俺みたいにが傷つくことを極端に嫌うやつだとかな。

いくら相手が悪いと思ったとしても、事があったとしても、ニーナのことを盾に取られたって事実は変わらないんだから、俺がシャロンに抱くは良くなることはない。

「あの方にも悪気があるわけではないのだ」

カーターはシャロンが去った後にわずかに顔をしかめながらそう話しかけてきたが……だからどうした。

「だからわかってるさ。立場と他人を秤にかけただけだろ?」

何を言ったところで、何を思ったところで、俺にとっては娘を盾に脅してきた悪人と変わりないんだよ。

悪を行ない正義をす、いわゆる必要悪ってのを、俺は否定する気はない。

だが、正義のためだとはいえ、やっていることは悪に変わりないんだ。

やっていることが悪ならそれで傷つく人がいるのは當たり前だ。

だが、その『悪』によって傷ついた人がどう思うかなんてのは、そいつ次第だ。

傷つけられた奴にとって、相手の思想や理念、正義には関係ない。ただ傷つけられたって事実があるだけだ。

こいつらと、俺みたいにな。

「ほら、んな無駄話してねえで、さっさと施設とやらに案しろよ。せっかく使わせてくれるってんだから、使わないと損だろ」

ニーナを盾にされたことはムカつくが、けた以上はしっかりとやらないといけない。自分が生き殘るためにも、ニーナを呼び出されないようにするためにも、な。

だから、しっかり準備を整えよう。明後日の夜に襲撃をするってんなら、準備は急がないと間に合わないかも知れないからな。

そう。だから、さっさとこう。じゃないと、ただ苛立つだけになっちまう。

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