《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》カーターとの話し
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翌日。今日は午後から宮野達と街をぶらつくことになっている。
なので、やることはさっさと終わらせようと、朝早くから來たくもない騎士団たちの拠點に來ていた。
「ここにあるものは使ってもいいんだよな?」
「ああ」
案役であり、多分監視役も兼ねているんだろうカーターを伴って改めて拠點の中を見て周り、現在は錬金の作業場へと向かっている。
「明日の夜って話だが、その前に俺はメンバーなんかと會っておかなくてもいいのか? 単獨ってわけじゃないだろ」
馴れ合うつもりはないし、向こうだって以前俺にやり込められた時の恨があるだろうからそんなつもりはないだろうが、それでも同じ作戦に參加するんだ。
だったら一度くらいはまともに話をしておいたほうが……と思ったが、話をする以前に言葉が通じなかったな。
だがそれでも、顔を合わせるくらいはした方がいいんじゃないだろうか? 一緒に戦うやつの顔を覚えてなきゃ何もできないし。
「お前は私に同行してもらうことになっている」
「へー。映えある騎士団長様が、足手まといのおもりをするなんてな」
「足手まといということはなかろう。役に立つ。そう判斷したからこそ、局長はお前の不興を買ったとしてもお前を引きれようとしたんだ」
「ようとした、ってか実際に引きれたけどな」
で、引きれると同時に不興を買ったわけだな。
まあ、これきりだ。今回は協力するが、次はない。それはこいつらだってわかっているだろう。
「……お前のおかげで助かる命だってあるかも知れないんだ」
しばらく歩いていると俺たちは作業場へと辿り著き、すぐに作業に移ろうと材料の確認をし始めたのだが、り口で突っ立ってたままのカーターが突然そんな獨り言とも取れるようなことを口にした。
「だが、ないかも知れない。そしてその『かも知れない』を確かめるために、俺は命をかけなきゃいけない」
「……」
獨り言であればわざわざ日本語では言わないだろう。だからさっきのは俺に対しての言葉だと判斷して答えたのだが、その言葉にカーターは何も答えなかった。
遠くから誰かが何か言っている聲が聞こえるが、俺たちのそばには誰もいない靜かな空間
「お前は『生還者』などと呼ばれるほど他人を助けている。なぜそこまで今回の作戦を嫌う?」
「……なぜ、ね。俺だってできる限りのやつは助けたいとは思ってるさ。だが、それは自分の命あってこそだ。どっちが大事かなんて比重は、自分の命の方が重い。當然だろ?」
俺は生き殘るために戦ってきた。
についた技も、してきた功績も、全ては生き殘るための副産だ。
まあ、多は橫道に外れたりしたってのは認めるが、それでも基本は自分のため、生き殘るために行してきた。
あくまでも俺は、俺の手の屆く範囲でしか、しかも自分や仲間の命の安全を確保した上でしか誰かを助けたりはしない。
「それに俺が人を助けたいってのは、ダンジョンの中で死ぬやつのことだ。俺はダンジョンが嫌いだ。だからこそ、あのクソみたいな場所で死ぬやつを減らしたいと思うし、死にそうなら助ける」
街を歩いていて助けられそうなら助けるが、所詮はその程度。テレビの向こうで事件が起こったから自分から進んで助けに行こうだなんて思わない。それがダンジョンでの出來事でないとなれば尚更だ。
「だが、今回のはダンジョンの中じゃなくて外だろ?」
「だとしても、ダンジョンの素材や技が使われている」
「それがどうした。んなもん警察やら軍隊やらの仕事だ。俺は冒険者で、冒険者はダンジョンに潛るのが仕事だ。外で起こるあれこれは俺たちの領分じゃない」
あれもこれもと助けるわけじゃない。俺はそんな誰も彼もを助けられる英雄じゃない。
だから、線引きはしっかりとしないといけないんだ。
ダンジョンのことであればできる限り助ける。危険だが、やるべきこと、助けるべき相手がはっきりしてるから、できないわけじゃない。
だが、外に出てしまえば、どこまで何をすればいいかなんて範囲はなく、助けようとしたのなら全てを救わなければならない。でなければ不公平だから。
だから俺は、俺自との安全だけを確保する。
善意も慈悲も、有限なんだよ。助け合いなんてのは、まず自分の安全や生活を確保した上で、余っている分を提供しているに過ぎないんだから。
「仕事しろよ。そのための警察で、お前らだろうが。外部に協力を求めんのは勝手だが、脅迫してまで手伝わせようとすんじゃねえ」
「……」
それ以降カーターは黙り込んでしまったが、間違ったことを言っているつもりはない。
「あ、ここかな? ——やっほー!」
しばらく無言のままこっちを見てくるカーターを無視して作業をしていると、好ましいが好ましくない、というおかしな気持ちを抱く聲が聞こえてきた。
振り返ると相変わらず仏頂面でドアの近くに座っていたカーターと、開いたドアから顔を出したジークがいた。
なんでジークがここにいるんだ?
「あ? なんで……いや、ここが本拠地だったか」
「そうそう! ……って、なんかしんみりしてない?」
「してるな。そいつがつっかかってきてな、俺に手出しできないからって黙り込んだんだ」
正直に俺たちの間に起こった出來事や會話を話す必要はないので適當に誤魔化すことにした。
「……あー、なるほどね! まあまあ、カーターもそんなトゲトゲしないでもっと笑おうよ」
こいつ、気づいてるな。それでもあえて気づかないふりをしているあたり、やっぱいいやつだよな。
普段はあれなじだが、こういう気遣いはできるんだよなぁ。
「で、やっぱり君も明日の作戦に參加するんでしょ?」
「でなけりゃあこんなところにいねえな」
世間での評価と俺に対する普段のこいつの姿の落差に苦笑いしたくなるが、さっきまでこの部屋に満ちていた張り詰めたような雰囲気が消え去り、俺は軽く息を吐き出してから答えた。
「それもそっか。調子はどう?」
「それなりだな。金に制限はないってことだから好き勝手準備できたしな」
「そっかそっか。じゃあさ、これからデートしない」
……まともな話かと思ったらこれだよ。
取り合う必要はないなと判斷すると、俺は特に反応することなくジークから視線を外して元の作業へと戻っていった。
「無視しないでよー! それが一番悲しくなってくるんだって!」
ジークはそう言いながら部屋の中にって俺の方へと近寄ってくるが、デートなんてするつもりはない。
ただでさえ時間が押してるってのに、何が悲しくて男とデートなんてしなくちゃならんのだ。
どうせだったら宮野や淺田達なんかとした……ああいや、なんでもない。
まあともかく、だ。
「おかしなことを言うとドラゴンにやったことと同じことをお前にやるぞ」
「ドラゴンにって、最初に會った時のあれ? ……冗談でしょ?」
ドラゴンにやったことってのは、例の騎士団とめた時のアレで、刺激を目やら口やらに放り込んで傷口にり付けたやつだ。
ドラゴンでさえ苦しんでたんだ。人間が食らったらひどいことになるだろう。
最悪失明するが、まあ治癒師がいれば治るし問題はない。
「冗談だと思うか?」
「いやー、その、ね? おかしなことっていうかね? 確かに言葉選びは間違えたかも知れないけど、容としては間違ってないんだよ」
しどろもどろになりながら、なんとか切り抜けようと言葉を続けるジーク。
やるとなったら俺は本當にやるとわかっているのだろう。
だが、誤魔化すのではなく言葉を直しながらも話を続けようとするその様子は本當に何かしらの理由がありそうで、俺はそのまま黙って先を促すことにした。
自分があの時のドラゴンと同じ目に合わないとわかったジークは、ホッとしたように小さく息を吐くと続きを話し始めた。
「君のことだからさ、どうせここに篭りっきりでろくに拠點の中を歩いていないでしょ?」
「最初に設備の案をけたな」
ついでに言うならこの作業場にくる前にもし拠點を歩いていた。
「それだけでしょ? もっと出歩かないと、みんなに覚えてもらえないよ」
「なんなら忘れてもらっていいんだが?」
どうせ覚えてもらってたとしても以前の諍いの時にあった奴らが大半だろうし、覚えられていたらまた今回みたいに何かしらの騒ぎに巻き込まれるかもしれない。
だから覚えてもらわなくてもいい。むしろ忘れてくれ。
特に局長。無理だとは思うが、俺のことを忘れて関わろうとしないでほしい。
「まあ、そう言うかもとは思ったけど、でも作戦を一緒にやるんだから、最低限の顔くらい覚えてもらわないと不都合が出るかも知れないだろ?」
「それは、まあ」
否定はできない。今回の作戦はやりたくないが、やる以上は最高の結果を出したい。
それに、作戦に參加する奴らの顔を覚えておいた方がいいんじゃないかってのは、俺自一度は思ったことだ。
俺はカーターと一緒に行するから他に覚える必要のあるやつはいないって聞いて、俺としてもここの奴らに好意はないので「じゃあいいや」と意識から外していたが、同じチームで行しないからといって顔を覚えていた方が作戦の役に立つってのは確かだ。
それに、カーターが一緒にいるから大丈夫だとはいえ、俺の顔を知らない奴もいることだと思う。例のドラゴンの時の諍いに全員がいたわけではないだろうし。
もしかしたら寫真なんかで見ているかもしれないが、実際に會うのとは違うだろう。だから顔を見せるために一度會っておくってのは正しい考えだ。
「だから、最後に顔見せだけでもってことで拠點を一緒に歩こうよって話。準備は終わったわけだし、ちょうどいいでしょ?」
「まあ、いいか」
「やったね!」
一応、元々最低限の準備はこの拠點にあった裝備で事足りていた。
今やっていたのは保険というか、使う時がくるかわからないが、萬が一のためにとりあえず作っておいたものだ。
だがそれももう終わっていたので、ここを離れることはなんの問題もなかった。
なので、俺はジークの言葉に頷きその場を片付けると、笑顔のジークと仏頂面のカーターを引き連れて騎士団の拠點を散歩することになった。
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