《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》異常事態発生?
──◆◇◆◇──
そして翌日。
「乗れ」
本當はギリギリに行きたいんだが、流石にそれはまずいってのはわかる。
なので、今日の午前中は一応空き時間となっていたが、裝備や作戦の最終確認をする意味も込めて午前中から向かうことにしていた。
そしてこれから騎士団と合流しようと拠點に向かうために街を歩いていると、何やら俺の隣に車が止まり、そこからみたくない顔をしている男——カーターが姿を見せてきた。
「なんだってこんなところに? これから向かおうとしてたんだが?」
「いいから乗れ。急げ」
俺の疑問に答えることなく焦った様子のカーターに嫌な予をじたが、俺は顔を顰めつつも問答することなく素直に車に乗った。
「はあ……この車どこに向かってんだ?」
「大聖堂だ」
「大聖堂ってーと……じゃあ迎えにくる必要なかったじゃねえか。さっきも言ったが、俺は今から行くつもりだったんだぞ?」
こいつらの拠點は、あろうことか観場所として有名なセントポール大聖堂の地下に存在していた。
まあ、騎士団なんってんだからそれっぽい場所ではあると思うけどな。
後は宮殿とかもそれっぽいけど、まあ多分そっちはそっちでこいつらとは違う騎士団なのか、それとも全く違う奴らなのかは知らないが、何かしらが詰めていることだろうな。
「まあいいや。で、なんのようだよ。計畫は今日の夜だろ? その焦ったような様子はなんだ?」
俺が問いかけると、カーターは顔をこっちに向けて真っ直ぐに俺のことを見據えて口を開いた。
「事が変わった。お前の力を貸せ」
事が変わった? 俺はこれから集まろうとしてたってのに、それでもいきなり呼び寄せないといけないくらいに事が変わるってのは、そりゃあ……
「何か起こったのか?」
それしか考えられない。
俺たちが何かしようとしているのを察知したのかはたまた偶然か、襲撃でもけたんだろう。
だが、襲撃がもう起こっていたんだとして、それにしては些か落ち著き過ぎている気がする。
それに、街には何か騒ぎが起きた様子はないし、騎士団のまとめ役がわざわざこっちにくるのもわからない。
となると、起こったのではなく、その一歩手前か?
「起こったと言うよりは、これから起こる、の方が正しいな」
俺の予想はあっていたようで、カーターはそう口にしたあと、話を続けた。
「もっとも、必ず起こると言うわけでもないし、何かあったとしても元々こちらとてくつもりだったのだ。それがし時間が早まるだけで、対処できるだけの戦力は用意しているのだから」
まあ、そうだな。俺たちだって今日の夜には敵の拠點に襲撃を仕掛けるつもりだったんだ。
仮に相手から襲撃をけたとしても、戦力だけで言ったら十分に対処できるくらいに揃っているはずだ。
一応俺も戦力として數えられているのだし、ニーナ級の相手が出た時に戦ってもらわないと困るのだろうが、それでもわざわざこいつがくるほどではないようにじる。
何せこいつは騎士団長。騎士たち戦うもののまとめ役だ。
現場の指揮が一時的にとはいえ離れ、その間に襲撃をけたら大変なことになる。
それはわかっているだろうに、なんでこいつはわざわざ俺のところに來たんだ?
「だが、準備は整えているが、それで終わるとは思えないのだ。世界がこんな狀態になってからすぐにき出した馬鹿どもは、今まで様々なことを行なってきた。にも関わらず、今まで壊滅させることができていない。それほど用意周到というわけだが、そんな奴らがやろうとしていることを、完全に対処できるとは思えない。どうしても想定以上の準備は必要だ。業腹なことだがな」
こっちの襲撃作戦を知ったからといって、強引にくわけがない。くんだとしたら、前々から準備していた可能が高い。
だからその対処のために、揃えることのできる人材、戦力は揃えておく、ってことか。
「それで俺にもさっさとけと」
「それから、お前の生徒も協力を頼みたい」
「は? 生徒って、宮野達か?」
「『勇者』などと呼ばれる力の持ち主がすぐ近くにいるのだ。協力を仰ぐのは當然だろう?」
その聲には昨日までとは違って焦りのが見て取れる。
そうか、こいつこのために來たのか。宮野たちを呼ぶように俺を説得するために。
確かに言っていることは最もだ。勇者級のものが味方になったらそれがたとえ一人であったとしても心強いだろう。だから協力を求めるのは間違っていない。
が、俺はその言葉に素直に頷くことはできなかった。
「……あいつらは今、修學旅行中だぞ?」
「それがどうした。こちらは本當に急ぎなんだ。當初は協力など頼むつもりはなかったし、お前の考えもわからないでもないが、その程度、これから起こるかも知れない被害に比べれば——」
俺がすぐに頷かなかったことでか、カーターは焦りに苛立ちを混ぜで俺を睨んできたが、それがどうした。
「お前らにとっちゃあその程度でも、あいつらにとっては一生に一度の大事なもんだ。それを臺無しにしようって? 正気かよ?」
カーターの苛立ちに返すように、俺も怒りと苛立ちを込めて睨み返した。
「……その程度、と言ったことは謝ろう。確かにお前の言う通り、事の大小など他人が測ることではない」
謝ったところでそれが本心からのものかはわからない、というかまず間違いなく言葉だけだろう。
いや、多は申し訳なさもあるのだろう。だが、それは多であって、自の言葉を翻すほどのものではないのだとわかる。
「だが、それでも個人の思い出と、大勢の安全であれば、私は後者を取る」
だろうな。それはあの局長を名乗ってるシャロンもそうだった。
人を守るために、街を、國を守るために、そのために個人のあれこれは全て無視する。
それがお前達で、自分やだけが笑っていられるならそれでいいと考える俺とは正反対の奴らだ。
「後日、無償でもう一度この街に來ることができるように手配しよう。必要であれば歓待もしよう。だから頼む。呼んでもらえはしないだろうか?」
後から呼んでもらったところで、それは『修學旅行』ではない。人生で一度きりの高校生活ではないのだ。
だから、わかった、なんて素直に頷くことはできない。
「必ず何かが起こるってわけでもねえし、準備はもう終わってるんだろ?」
「ああ。九十五パーセントは安全だと言える」
九十五か……。結構信用できねえ數字だな。
俺のことだ。何か起こると仮定しておくべきだろう。
たった五パーの確率なら平気だと無視して宮野達が危険になる可能か、萬が一に備えて宮野達の修學旅行をぶっ壊すか……。
どっちにしてもくそったれな選択じゃねえか。
「どうするんだ。呼ぶのか、呼ばないのか」
考えているうちに目的地についたようで車は止まり、カーターは俺のことをじっと見つめてきた。
………………はあ。仕方が、ないよな。
どうせ、この言い方だと強引にでも呼び寄せるつもりだろう。それは流石に認められない。
……俺は今まであいつらに生き延びてほしいから、危険な目にあってほしくないからと、普通の子高生がするような休日なんかを削って々と鍛えたりしてきた。
「宮野。ああ俺だ。どこにいる? メアリルボーン? ……ああ、ベイカーストリートか。シャーロックホームズのあれだろ?」
だから——
「あー、ちょっと悪いんだが、こっちに合流してくんねえか?」
今回もあいつらを呼ぶことにした。それがあいつらの安全のためだと思うから。
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