《[書籍化]最低ランクの冒険者、勇者を育てる 〜俺って數合わせのおっさんじゃなかったか?〜【舊題】おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!》瑞樹;異常事態

──◆◇◆◇──

「——わかりました」

シャーロックホームズ博館にて観をしていた瑞樹達はその後ベイカーストリートを歩いていたのだが、その途中で彼らの師である浩介から電話が瑞樹へとかかってきた。

「浩介なんだって?」

浩介がなんのために空港で會った男——カーターに呼ばれたのか、瑞樹たちは知らないし、そもそもカーターの名前すら知らない。

だが、何かやっているんだとしたらそれは浩介にしかできないことだろうとわかっていた。

だからそれは仕方がない。

だが仕方ないとは思いながらも、本當なら今日も一緒に行できると思っていただけに、佳奈は、いや佳奈だけではなく瑞樹たちはがっかりしていた。

しかし、予想外にかかってきた浩介からの電話で、もしかしてこれから合流して一緒に行できるようになったのではないかと考え、その影響で瑞樹に尋ねた佳奈の聲はわずかばかり弾んでいた。

「それが、大聖堂に來てほしいって」

「大聖堂? なんだってそんな場所に? そもそもそれってどこ?」

「さあ? なんとも言ってなかったけど……」

瑞樹は言葉を止めると、先程の浩介との會話を思い出していき、形のいい眉を歪めて困ったような表になった。

「ただ、申し訳なさそうなじはしたわね」

「申し訳なさそうなじ、ねぇ……。また、なんか問題でもあったんじゃないの?」

瑞樹達が今回の修學旅行を楽しめるために、と浩介が力を盡くしてくれていたのを彼達は知っている。

だからこそ嫌がっていたカーター達にもろくに抵抗することなくついていったんだろうし、今だって斷ることなく彼らの願いを聞いているのだとも。

それなのに申し訳ないと思いながらもわざわざ呼び寄せるってことは、何かあったんじゃないだろうかと佳奈は予想した。

そんな狀況からの當てずっぽうではあるが、頭のどこかで多分そうなんだろうなと思っていた佳奈の考えに瑞樹も同調し、その話を聞いていた晴華と柚子も頷いている。

本人が知ればしは何も起こらない可能を信じろとでも言うかもしれないが、これまでの結果があるのだから仕方がない。

事実、本人からすればとても殘念なことに、四人のその考えは當たっていた。

「ん、あった」

二人がそんなことを話していると、晴華がケータイを取り出して畫面を作して大聖堂の場所について調べ、その結果現れた畫面を他の三人にも見えるように前に出した。

し離れてるね」

柚子は現在地と目的地を見比べてそう呟いたが、四人の今いる場所から浩介の言った大聖堂まではそれなりに距離がある。

歩いていけないこともないが、確実に時間がかかることになるだろう。

「歩いていくの?」

「でも、わざわざ呼んだってことは、急いだほうがいいんじゃないかしら?」

走っていけばすぐに著くことはできるだろうが、それをすれば確実に目立ってしまうことになる。

浩介がなんの目的で自分たちのことを呼んだのかを瑞樹達は知らないが、それでも何かしらの危険があるであろう可能は四人とも考えている。

であればこれから自分たちは危険に突っ込んでいくわけだが、そんな中でわざわざ目立っていく必要もないし、大聖堂に來るようにと伝えた浩介もそこまで急げとも言っていなかった。

まあ、実際に瑞樹達が來ることを願ったカーターとしては目立ったとしても急いでもらいたかったが、浩介としてはできることならば何か起きた時に間に合ってほしくなかった。

だからこそ、しでも巻き込まない可能を上げるために、無駄だとは思いながらもあえて急ぐようにと伝えなかったのだが、瑞樹達はそんな事は知らない。

なので、ここは乗りを使って向かうのがいいだろう。

晴華はそう判斷して口を開いたのだが……

「バスかタクシーを——」

その言葉は途中で止まることとなった。

そして、気怠げな顔から、眉を寄せて警戒したような顔へと変わると、ゆっくりと周囲を見回し始めた。

「晴華ちゃん? どうしたの?」

突然話すのをやめて周囲の確認をし始めた晴華の様子に何かあったんだと理解した他の三人は、すぐに警戒した様子で周囲を確認する。

が、何もないように見える。あるのはただの街並み。自分たちの故郷とは違う國だからおかしなことに気づけないのかもしれないが、それでもパッと見ておかしなことがあるようには思えない風景だ。

「おかしい」

「おかしいって、なにが?」

周囲を警戒しても何もない中で、晴華はそれでも警戒したような聲音で呟き、その詳細について柚子が尋ねた。

そんな言葉に何かを迷う様子を見せた晴華だが、話さないままいても意味がないと判斷し、普段ははっきりとものを言う彼にしては珍しいことに躊躇いがちに口を開いた。

「……魔力が、ない?」

これは晴華だからこそ気づけた事。普通の魔法使いは、自分の保有する魔力よりも離れた量の魔力を認識することはできない。できたとしても、魔力があるかないか、その程度のものだ。

だが晴華は、自分の保有している量とは離れていたとしても、その魔力を視認することができる。

そんな特殊な才があるからこそ晴華は気づけた。

「魔力? それって晴華のが、って意味じゃないじ?」

「そう。空気中の魔力が、全部なくなってる」

は魔力をれるようになった佳奈だが、それはまだ自分と、自分の極近くにあるのみであって、他人のものまではわからなかった。

だから晴華に尋ねたのだが、その答えを聞いた瞬間、魔法を使うことのできる瑞樹と柚子は目を見開いて驚きをわにした。

「……普通は空気中には魔力が存在しているものだけど、それがないってなると明らかに異常ね」

「なくなってるって、どう言うじなの。晴華ちゃん」

空気中から魔力がなくなると言っても、その結果に至るまでの過程というのは複數ある。

消したのか、排除したのか、消費したのか……。

考えられる方法としてはいくつかあるが、その過程によって相手が何をしているのかかわり、それに対する対処方法も変わる。

「……消してるわけじゃない。けど……ん。集まってる?」

柚子の言葉をけてさらに周囲の狀況を観察していくとし離れた場所、魔力のなくなるという異常の出ている場所と出ていない場所の境目から魔力が流れ込んできていた。

それは水を掬っても周りから水が流れ込んでくるようなもので、おかしなことではない。

ゆっくりではあるが空気中に魔力が含まれた普通の狀態に戻ろうとしているので、放っておけばそのうち元に戻るだろう。

だが流れ込んできた魔力は普通ならその場に留まっているはずだと言うのに、全てがその場に留まることをせずに一定の方向へと進んでいた。

つまり、意図的に誰かが魔力の流れをいじっていると言うことに他ならない。

「集まってるって、魔力を集めてること? 周囲一帯の魔力を集めたとしたら、かなりの量になるわよ」

「で、でも、なんのために?」

柚子の疑問に答えられるものはこの四人の中には誰もいなかった。

「どうすんの? なんか起こりそうなじだけど?」

「……調べたい、とは思ってるわ。見て見ぬ振りしたら、被害がでちゃう。それに、多分伊上さんが私たちを呼んだのはこのためだと思うの。ただ、勝手に行していいものか……」

「じゃあ、電話してみるね」

迷うくらいなら聞いてしまえ、と佳奈は浩介に電話をかけた。

『あ? どうした』

「あ、浩介? 実は——」

數秒の呼びかけの後に電話に出た浩介に、佳奈は今の狀況と自分たちの考えを伝えた。

「どうすればいいの? あんたが呼んだのって、このためでしょ?」

『そりゃあ……チッ。ちょっと待て』

それを聞いた浩介は、できるだけ関わらせたくなかったからこそ自分たちのところへと來るのを急がせなかったのに、結局関わってしまうことになった狀況に舌打ちをした。

そして浩介はすぐそばにいたカーターに瑞樹達の話を伝え、どうさせるべきかを話し合った。

拠點で待機していたジークも今は浩介のそばにおり、聞いていたその話に混ざったたのだが、結論が出ることはなかった。

その前に異常事態が起こったからだ。

電話を繋げた狀態のまま、話し合っていた浩介達の対応を待っていた佳奈だが、突如電話の向こうからガラスが割れるような音と、誰かの怒聲が聞こえてきた。

「ちょっ、ちょっと! どうしたのよ!?」

突然電話の先から聞こえてきた音に、佳奈は慌てながら浩介へと問いかけるが返事は返ってこない。

『くそっ! カーター、ジーク! 何が——』

代わりに浩介がそばにいた仲間達へとかけた聲が聞こえたのだが、その聲も発音によってかき消されてしまった。

「きゃあっ!」

「なにっ!?」

耳元で突然発音を聞かされた佳奈は驚き、反的に悲鳴を上げてしまい、電話を耳から離した。

そして、その発音は電話先からだけではなく、実際に自分たちの耳に聞こえる形で複數の方角から聞こえてきた。

見ると、その方向からは黒い煙が立ち上がっている。

「ねえ! 何!? 何があったの!? 大丈夫なの!?」

発音を聞き、実際に黒煙が上がっている様子を見た佳奈は電話の先、浩介がいる場所でも実際に発が起きたんだと考えてすぐに電話を耳に當ててんだ。

だが、その時にはすでに通話は切れていた。

不吉すぎる電話の切れ方に、佳奈はもう一度電話をかけ直すが、異常事態への対処中だからか、それとも電話に出ることができないほどの狀態だからなのか、浩介が佳奈の電話に出ることはなかった。

「何があったの? なんか大きな音は聞こえたけど……」

「なんか発したような音と浩介の焦ったような聲が聞こえたの」

発音……それって、今見えてるこれの原因よね。向こうでもそれできがあったんだと思うわ」

浩介が何かしらの異常に対処しようとしていたのは確実で、その関係で自分たちを呼ぼうとしたのもほぼ確実。

であれば、自分たちのやることは決まっている。

そう考えた四人は顔を見合わせると、頷き合った。

「せっかくの修學旅行だってのに、やっぱあいつ呪われてるんじゃないの?」

「まあでも、たまには迷をかけられる側っていうのもいいじゃない」

「恩返し」

「この程度で返し切れるか、わからないけどね」

しかし、くにしてもどうくのか。それが問題になってくる。

今自分たちが置かれている狀況は怪しいが、明確に何かが起きているわけでもない。

いや、何か起きていないと言うのは正しくないか。

空気中の魔力がなくなるという異常は起きているのだが、はっきりとした被害が出ていない、というべきだろう。

ならば今いるこの場所の異常に対処するのが先か、それとも黒煙の上がっている場所に向かうべきか。あるいは浩介の言っていた大聖堂に向かうべきか。

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